5 足りないところが多すぎる! 【5-3】


【5-3】


「今の大学では、教授の書いたものやスライドを、
スマートフォンで撮影する学生がいる」


祥吾は、大学生のノートの使い方を話し始めた。

智恵はそれを黙って聞き続け、雄平はメモを取り始める。

ひかりは昨日もらってきたアンケートの中身を思い出し、ペラペラとめくり始めた。


「文字を書くこともあるけれど、資料を貼ったり、付箋を貼ったり、
学生のスペースに関する意識からすると……」


智恵は、祥吾の頭から出てくる色々な話が、

自分たちの実力を、ただ試しているというものではなく、

しっかりとしたデータに基づいた『具体的な提案』だということがわかる。

昨日は、提案されただけの状態が、物足りないと愚痴を言ってみたものの、

今日はもっとそばで、直接話をしていることで、内容がしっかりと伝わってきた。


「それで……」


しかし、祥吾が話しているうちに、他の3人からの言葉は何も出なくなった。

『話し合い』という混じり合う空気よりも、

『自分より優れているもの』を、立場的に受け入れていくという、

『ボルノット』でも感じ続けた『孤独感』、その感覚が祥吾を襲い始める。


何かを提案すればどこか斜めに構えられ、『それは違うのではないか』と言うと、

『僕たちは凡人なので』と明らかに嫌みを付け加えられた。

ひかりと智恵、そして雄平、誰からも言葉が出ないまま、自分が話し続けている状況に、

ここでもまたという思いが、祥吾の中に広がり始めて行く。


「あ、わかった、わかりました」


その静寂を打ち破ったのは、ひかりだった。


「だとしたら、もう少し細かい線をつけるというのはどうでしょう」

「エ……」

「だから……」


ひかりは、祥吾の話の途中ではあったが、そこに自分の意見をかぶせ始めた。

智恵は途中で入り込まれたら、祥吾が嫌なのではないかとすぐに顔を見るが、

祥吾自身は、自分の言葉をただ黙って聞き続けられる方が嫌だったので、

ひかりの相乗りに、『それもいいかもしれない』と後押しする。


「あ……本当ですか? うわ……嬉しい」


ひかりは、認めてもらえたことが嬉しくて、だとしたらとさらに別の話をし始める。

それならと、横にいた雄平も、祥吾の言葉とひかりのやりとりに、

『こういうのはどうなのか』と、別視点で参加した。





「さっきは助かったよ」

「そんなことはないですよ」


その日のランチタイム。

祥吾と社員食堂のテーブルに座ったのは、雄平だった。

祥吾は両肩を一度あげると、下におろす。


「そんなに緊張しましたか」

「うん……中途採用で入ったはいいけれど、みんなそれぞれ課題を抱えているから、
どう入っていけばいいのか、正直迷っていて」


祥吾の言葉に、雄平はイメージが変わりましたと笑い出す。


「俺、最上さんって、もっとがっちり構えた人だと思っていたので。
こんなに話しやすいとは思っていませんでした。
『ボルノット』の開発リーダーで、2年目に社長賞でしょう」


雄平の言葉に、祥吾は首を振る。


「あんなものもらわなければよかったと、今でも思うよ」

「社長賞をですか?」

「うん……当時は入社して2年目で、まだ何もわかっていなかった。
たまたま上司が考えてくれと言ってきた内容と、自分が研究してきたことが、
うまく合致したところがあって、それが賞品になった。
そうしたら、そんな賞が勝手に自分自身に貼り付けられてしまって。
おかげで、仲間だと思える人たちが、一気にライバルとなり、敵になったからね」


祥吾は、そういうとお茶を飲む。


「元々、俺は、コミュニケーション能力が低いのだと思う。
黙々と仕事をするのは好きだから、一人の企画部員として、採用して欲しいと、
『KURAU』側にも頼んだけれど……いざ来てみたら、机の位置も少しずれていて」


祥吾は、それでもあんなふうにテーブルを囲むのはいいねと雄平を見る。


「はい。うちは昔からあれなんです。それぞれのデスクに座って話そうとすると、
視線が狭く部分的にしか動かないし、ファイルとか電話が上にあるだけで、
暑苦しいでしょう。丸テーブルに移動して、それこそコーヒー飲みながら雑談することが、
次につながる……と。まぁ、俺たちだけで考えているのかもしれませんが」


雄平の言葉に、祥吾は『いや』と首を振る。


「今日をきっかけにして、俺もテーブルに入っていくことにするよ」

「はい、ぜひ」


雄平は、きっかけを与えてくださいと言うと、自分のお茶を飲んだ。





「なんだかさ、最上さんの表情が柔らかかった、ひかりたちと話をしているとき」

「あ、そうかもね」


その頃、いつもの場所ではひかりたちもランチの最中だった。

智恵やひかりとは違う場所にいた小春は、祥吾の意外な一面を見た気がすると、

楽しそうに話し続ける。


「山内さんの『昼食、一緒に行きませんか』の誘いにも、
私はさすがとうなったけどね」


小春は、最後に雄平を褒めることも、忘れない。


「はいはい、山内さんは素敵な先輩です」


ひかりはそういうと、小春の顔を見る。


「……そうだよ、ひかり」


小春は、ひかりのことをいつも気にしているように見える雄平の態度を感じ、

わざと強めに言い返した。


「何?」

「いえ、別に」


智恵は小春の態度がおかしくて、笑いだす。


「どうしたの智恵さん」

「ん? うん。小春はね、ひかりに妬いているの」

「私に? どうして」


小春はそんなことはない……と言いかけて言葉を止める。


「違うわよと言いたいけれど、正直、そうだし」

「エ……小春まで」

「素直だな、もう」


智恵は、横に座る小春の肩を軽く叩く。


「何よ、私、山内さんとは何もないからね」

「そんなことはわかってるよ小春だって。ただね、山内さんはよく、
ひかりのことを心配しているから」

「そうそう……」


小春は『浅井はどうした』、『浅井は出来たのか』って言葉が、

よく聞こえてくると、話し出す。


「あぁ……」


ひかりは、それは自分の教育係だったからだと、二人に説明した。


「入社して半年後くらいかな。私、大事な取引先のデータを電車の中に置き忘れるという、
とんでもない失敗をしたわけ。すぐに気づいて取りに戻って、
一応形では事なきを得たけれど、あの時、泣きながら電話をした相手が山内さんだった。
研修の時から面倒を見てくれていたからね」

「あ……そうか、そうだったね」


智恵は、当時のことを思い出し、笑顔になる。


「山内さんも、責任があるからきっとドキドキしていたと思うよ。
だからその心配が抜けないのよ、今でも」


ひかりは『これだけ一人前になってもね』と言った後、笑い出す。

智恵は、『それならば永遠に続くよ』とひかりの言葉を茶化し、

小春はそうだったのかと笑みを見せた。


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