5 足りないところが多すぎる! 【5-5】


【5-5】


「それで? 料理の腕、少しは上達したの?」

「したした、見てよ、指、全然切らなくなった」


ひかりはそういうと、華絵に両手を見せる。


「それは上達とは言わないのよ、ひかり。これから料理を始めますということ」

「あれ? そうかな」


ひかりは、スマホを取り出すと、料理の写真を撮ってきたからと見せ始める。


「どう?」


華絵は数枚の写真を見た後、何度か頷いた。

ひかりは『だよね』と華絵の頷きをプラスに捉えていく。


「色合いがダメ」

「エ……」


ひかりは自分で写真を見る。

確かにどの野菜も炒めすぎで、全体的に茶色に近づいていた。

華絵からは野菜を入れる順番、色が美しく出やすい材料などを教えてもらう。


「そっか、そういうことね」

「そうよ、次は頑張って」


華絵は、失敗しているうちに、急に上手になるからとひかりを励ましていく。


「華絵ちゃんはいいよね、料理出来るし、話を聞くのもうまいし、
女性としての魅力があふれ出てるし」

「何その言い方、まぁ、否定はしないけれど」


華絵は皿を何枚か重ねると、後ろにある棚に入れていく。


「否定、しないんだ」

「しないわよ、自分の生き方に満足しているもの。
でもね、そういったものは人生の長さに関係すると思っているから。
ひかりはこれからでしょう」

「これからか……いや、近頃色々と痛感しているの」

「痛感?」


ひかりはしっかりと頷く。


「私は、精神的にも実力的にも、色々と足りないところが多すぎるのよ。
お酒を飲むのは好きだけど、ちゃんとコントロール出来なくて。
調子に乗って、酔っぱらって90%ウソのことを堂々と書いて、人に迷惑をかけた。
それもね、本当の自分がしっかりした人間なら、
ここがあるって何かアピール出来たわけだし。ウソだらけにはならなかった。
じゃぁ、浅井ひかりには何があるのかと考えても、何一つ出てこないの。
料理は出来ないし、美人でもないし……。才色兼備か……ほど遠いわ」


ひかりはそういうと、カウンターに突っ伏すようになる。

華絵は、ひかりの口から出てきたのが、

以前見合いをした相手が、出した条件だと言うことに気づく。


「ねぇ、そういえばお見合いの人、もう別の人とうまくいったって?」

「エ……」


ひかりは祥吾の顔を思い浮かべる。


「いや、聞いていない。どうですかって私が聞く話でもない気がするし……」


ひかりは『失礼だし……』と自分に言い聞かせるように付け足していく。


「聞いてみたらいいじゃない。同じ職場になったのでしょう。
無関係者ではないのだから、別に問題ないわよ」


華絵は、そう言いながらひかりを見る。


「いや……でも……うん」


ひかりにして見ると、祥吾は以前よりも、確かに話をしやすい相手にはなっていた。

仕事の意見を聞くことも出来るようになったし、朝の挨拶に緊張することもなくなった。

しかし、『見合いでの失敗』が根っこにあるため、

そこは聞きづらいものに変わっていく。


「そんなに自分を責めたらダメよ。ひかりは幼い頃から希望していた通りの就職先を、
自分で勝ち取ったのだから、十分才能がある。
叔母さんは容姿だって、かわいいと思っているよ。
明るいし、人の気持ちもわかるし、料理だってね、
嫌がっていないでチャレンジし始めたじゃない。進歩しているって」


華絵は、ひかりが無意識に『祥吾の出した条件』に、

少しでも近づきたいと考えていることに気付き、そうエールを送る。


「進歩、しているかな」

「している、している。頑張れひかり」


ひかりは、華絵の方は向かないまま、『うん』と小さく声を出した。





『ボルノット 新しいデータ管理に……』



カレンダーは6月に入る。

ゴールデンウイークという『誘惑』を乗り越え、新しい環境に身を置いた人たちも、

やっと流れに乗り始めたと思える頃、新聞の紙面に『ボルノット』の広告が出された。

送り出した新商品は、現在ヒット中の商品に、さらなる改良を加えたものになる。

祥吾は、これを取り仕切ったのは海渡だろうと思いながら、

しばらく見た後、紙面を閉じた。



その広告は、もちろん『KURAU』にも大きな衝撃を与えた。

新商品が出てくるだろうなということはわかっていたが、

自分たちからみたら、完璧だと思えていた『ボルノット』の商品に、

さらに機能がプラスされ、それが『KURAU』が売り出した『スライドペン』の特徴を、

打ち消すような形になっていることが、予想外とも言える展開になる。


「なんだよこれ、こんなふうにされたら『スライドペン』の意味ないよ」


『スライドペン』にずっと取り組んできた高坂は、

こっちがやりたいことを、まるで知っていて、先回りしてきたような状態に、

悔しさが重なり、心のままに語ってしまう。


「やっぱり、わかっていたってことだよな」


一緒に紙面の広告を見た雄平は、『どういう意味だよ』と高坂を見た。


「あの人だよ、最上さん」


そばで聞いていた智恵は、高坂を一度見るが、否定しないまま視線を落とした。

高坂は黙っている智恵を見る。


「細川も思っているだろ」


その視線の流れに気づいた高坂は、智恵を味方につけようとした。

間に挟まれた小春は、『どうしたら』という顔で雄平を見る。


「あの人、数ヶ月前まで『ボルノット』の開発リーダーだったんだ。
この商品が動いていることも、知っていたはずだ。それなのに、
俺たちがこの商品の後追いしているのを、この部屋で見ながら、
そのまま頑張れって押したんだぞ。これが出てくることを知っていたら、
普通、このままじゃ後追いだから、方向を変えようってなるだろう」


高坂は、無駄な時間を過ごさせるために、

わざと知らない振りをしたのではないかと、祥吾に疑いをかける。


「おはようございます」


そんな険悪な雰囲気を知らないひかりは、いつもの時間にコンビニに立ち寄り、

朝食を買い込むと、企画部内に入ってきた。


「いやぁ……『ごろごろアップルパン』が売り切れていて……」


挨拶はしたものの、そこで異変に気づく。


「何、どうしたの」


ひかりは、そばにいる2年目の社員、竹中に聞いてみる。

竹中は、黙ったまま新聞広告をひかりに見せた。


【6-1】





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