6 どこまでご存じでしたか? 【6-2】


【6-2】


「何も知らない? いや、それはありえないですよ、最上さん。
開発リーダーじゃないですか。しかも退社は数ヶ月前でしょう」


高坂は、それは信用できないという強めの言葉をぶつけてくる。


「あぁ……」

「だったら……」

「最後まで話を聞いて欲しい」


何かを語るという祥吾に、高坂や智恵も一度背けた視線を戻す。


「俺が『ボルノット』を辞めた理由は……」



『もう、あなたがいなくても、成り立ちますし……』

『いいですから、こっちに付き合わなくても……』



「開発リーダーとは名ばかりで、他のメンバーから相手にされなかったからだ」



祥吾の言葉に、『第2企画部』全体が静まりかえった。

ひかりは、トラブルがあることはわかっていたが、

リーダーを相手にしないなど、『そんなことがあるのだろうか』と思いながら、

祥吾を見る。


「確かに、高坂さんの言うとおり、俺は『ボルノット』の開発リーダーだった。
入社2年目で、たまたま研究の成果を生かせた商品開発に成功して、
その流れで『ボルノット』はその年の業界賞を受賞した。
会社は喜んで、俺は『社長賞』をもらうことになって。
おそらく、みんなが聞いている俺の過去は、こんなところまでだろう」


高坂は『はい』と頷く。


「その当時の俺は、確かに『これでいい、仕事がどんどん出来る』と思っていた。
別に、社長賞を取ったことを、誇りにしたわけではないけれど、でも、
意見を通しやすくなるし、まとめやすくなると単純に考えた」


祥吾は若手で作った開発チームのリーダーとなり、

他のメンバーにもどんどん意見を出して欲しいと、会議を重ねていく。


「最初は、それほど周りがどう思っているのかなど気にならなかった。
出してきた企画を考えて、上司に提出して、それが通るか通らないか、
その繰り返しで……」


しかし、リーダーとなって2年目くらいになると、周りの雰囲気が変わりだす。


「上司が替わった。その人は出世欲の強い人で、自分がここにいる間に、
歴史に残るようなものを作りたいと、そう宣言するような男だった。
だから、企画がなかなか出来ないと、誰が悪いのか、何が間違っているのかと、
何度もリーダーの俺を呼ぶことが増えて……」


その上司は、『使えないような人間は、切って構わない』と祥吾に権限を渡す。


「お前は社長賞を取れたのだから、もっとレベルの高いものを導けると、
そう何度も言われた。出来ないのは周りが悪い。
だから、いらないなら情をかけずに切っていいと。
そんな雰囲気が伝わったのか、考えを出してくれと言っても、
浮かばないからとか、悩んでいるとか、逃げられることが増えていって。
でも、そういうこともあるだろうなと、自分自身は気にすることもしなかった。
誰も出さないのなら、自分で出そうと考えて、
どんどん単独で仕事をすることが増えて……」


リーダーというよりも、個人で動くことが増えてしまい、

メンバーたちとはさらに、距離が空いてしまう。


「元々、自分が上に立ってまとめたいと思った就職ではないのに、
立たされることになって、必死に虚勢を張っていたけれど、それも疲れてきた。
だから、他のメンバーが成果を出して上に立ってくれてもいいと思っていたんだ。
それなら俺はデータあつめとか、縁の下の仕事を引き受けるからと提案して……。
でも、仲間からかけられたのは、
『そういうわざとらしいことは、辞めてもらいたい』、
『上司が納得しない』という言葉だった」


社長賞まで取った人が、さらに上司に対して好感度を上げる必要はないでしょうと、

仲間だと思っていたメンバーから、言われてしまう。

ひかりは話を続ける祥吾の、辛そうな顔を見続ける。



『おい、『須美川の奇跡』。今月分の給料くらいは、働いたのか』



顔では笑いながらも、心の中では深く傷ついた時間があったことが、

心の底から戻ってきて、もやもやが広がっていく。


「最初に雰囲気がおかしいなと感じたときに、俺がもっとみんなと接点を持って、
積極的にまとめようとしていたら、ここまで崩れなかったのかもしれない。
自分はこんな人間で考えを持っていると、
みんなに思いを語れば良かったのかもしれない。
うまく『時間』……そう、『KURAU』のみんなが、その丸テーブルを囲んで、
一緒にお茶を飲んだりするような、一見無駄に見える時間。
それを仲間と持つことが出来なくて……で、さらにバラバラに……」


自分に相談する様子もないまま、賞品のアイデアを提出した同僚。

祥吾は、自分の過去を語りながら、海渡の顔を思い出す。


「メンバーたちは、自然と俺以外の仲間で、塊を作るようになっていった。
開発リーダーだから、最後に認めのはんこを押さなければならなくて。
何もわからないのに、しっかりとまとまっているものを見せられて、
認めだけ押してくださいと言われた時、ここでの仕事は、限界だとそう思った」


祥吾は、今思えば自分自身が悪かったのだと、過去を振り返る。

予想もしていなかった祥吾の過去に、祥吾をかばおうとした雄平もひかりも、

後押しする単語さえ浮かばない。


「本当に情けない話で申し訳ない。『ボルノット』から来た男なら、
色々とレベルの高いことが出来るだろうと思われているのなら、謝るよ」


祥吾はその場で頭を下げたため、

前に立つ高坂も、いささか気まずそうな顔になる。


「そんな状態だったから、この商品の内容については、本当に何も知らされていない」


『第2企画部』の中は、どんよりとした空気が漂い、

誰が何を話せばいいのかわからない状態が、数分続く。


「そうだったのですか」


高坂は、振り上げた手を、どうしたらいいのかわからない困惑の表情のまま、

自分の席に戻ろうとする。


「ただ……」


話は終了かと思った瞬間、祥吾の声が聞こえ、バラバラになりかけた視線が、

また前に向かう。


「何も聞いてはいない。でも正直、こういう展開になるだろうなということは、
わかっていたところもある」


『知っていた』という高坂の意見を、ある意味肯定するような台詞が出され、

静かだった企画部内は、またどういうことかとざわつき始める。


「いや、ちょっと待ってください。何ですか、それ。
それって、予想していたと言うことですよね、
それなら、どうして……こうなるかもしれないと、言わなかったんですか」


大人しく話を終えるしかないと思っていた高坂は、あらためて祥吾を見た。


「出されているアイデアはいいものだと思っていたし、
後追いになっても、いいと考えるところがあったからだ」


『商品の後追い』というのは、最初に出ているメーカーと同様の機能を持ったものが、

後から出て行くということで、

先に販売を仕掛けるメーカーのイメージが商品につきやすい文房具では、

『負け』とも言える状態になる。


「何言っているんですか、おかしいですよ。『スライドペン』がどういうものか、
それは最上さんも知ってますよね。後追いして、勝てる要素なんてどこにあるんですか。
値段が半分とかならともかく、無理ですよ」


高坂は、『後追い』で売れることはないと、そう言い切っていく。


「最上さん、心のどこかに、
『ボルノット』に対して、残っているものがあるんじゃないですか。
だから俺たちのことに、真剣なふりをして……」

「おい、高坂……」

「ふりだけして、時間だけ稼いだとか……」

「いい加減にしろって!」


限界点を超えた気がして、雄平は立ち上がる。


「黙ってろよ、山内! いや、お前は一番わかっているだろう」


高坂はそう雄平に向かって叫ぶ。

高坂は、祥吾に思いを伝えようと、数歩前に出た。


【6-3】



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