6 どこまでご存じでしたか? 【6-4】


【6-4】


『申し訳ありませんが、今回は……』


愛美は、リビングでひとりノートパソコンを広げ、何やら文章を打ち込んでいた。

仕事が休みで、そろそろ昼飯時だと思い起きてきた勇也は、何をしているのかと尋ねる。


「仕事よ、仕事」


そういった愛美は、勇也にコーヒーでも入れてよと声をかけた。


「飲みたい人が、自分で入れたらいいだろう」


勇也は何を言っているんだという顔で、ソファーに腰を下ろす。


「あら、どういうこと? 友則はそういうところマメなのよ、息子でしょう、あなた」

「そんなもの関係ないだろうが」


勇也はソファーに座り、新聞をめくっていく。

しばらくすると、愛美がキーボードを叩く音が聞こえてきたため、

勇也は『諦めたのか』と思いながら、さらに次をめくった。


「ねぇ、ねぇ……何しているのよ。お母さん、喉が渇いて息が出来なくなるでしょう」

「は?」

「あぁ……死ぬ、死んじゃう。一人息子が薄情だから、死んじゃう……」


愛美は苦しそうな顔だけを作ると、両手を首のあたりに持って行く。

毒を飲まされたお姫様のように、『うぅ……』の声を繰り返した。


「……ったく」


こういう状態になると、絶対に『負けない』愛美の性格はわかっているため、

勇也は立ち上がり、後ろに回るとコーヒーサーバーをセットし始める。

何気なく画面を見ると、そこには『最上祥吾』の名前が記されていた。


「お袋、また祥吾を利用しているのか」

「あ……のぞき見反対」

「退会しろって言われただろう。してないのかよ」

「言われたわよ、だからその場では退会した。でも、再入会した」

「なんだそれ、許可は……」


愛美がキーボードを打つ音だけが、リビングに響く。


「おいおい……」


勇也は呆れた顔をしながら、カップを棚から出していく。


「親戚だと思って甘えていると、祥吾に訴えられるぞ、お袋」

「訴える? そんなもの来るなら来てみろ! よ」


勇也は『どうしようもないな』と言いながら、今度は近くで画面を見る。


「それがさ、勇也。祥吾の出した条件……ほら……」

「祥吾のふりをして、お袋が勝手につけた条件ね」

「あぁ、もう、どっちだっていいわよ。『才色兼備、自他共に認める美人』って、
結構強気で書いたのに、まぁ、来るのよ、お見合いをお願いしますという依頼。
この人達みんな、自分が美人だと思っているのかしら」


愛美は、この人なら自分の方がきれいだとか、

年齢制限をしたわけではないのに、40歳過ぎているから無理だとか、

あれこれつぶやき始める。


「見合いをさせるのが目的じゃないのかよ」

「それはそうだけれど、前回みたいにあっという間に決まったら困るでしょう。
また、祥吾に怒られちゃうもの。だから今回は『判別ボタン』をちゃんと活用して、
『今回は申し訳ないですが』とのらりくらりとかわしながら、登録しておくだけ。
積極的な参加にはならないようにしているの」

「なんだそれ、意味あるのかよ」

「意味はあるわよ。この間も私、お見合いまで行ったカップルがいるもの。
仕事が軌道に乗ってきて、入会者も増えてきたら、
客寄せの祥吾は、知らないふりして黙って退会させないと」

「……どっちみち詐欺だろ、それ」


勇也はタフな母親を横目に見ながら、テレビのリモコンを取る。

何気なく番組を移すと、『東京ジャスト』という情報番組にチャンネルを合わせた。

勇也は時計を確認し、そのまま番組を見続ける。

それから15分後くらいに、レポーターを務める『滝川和花』が登場し、

はつらつとした笑顔で、画面の前に立った。

勇也は、老舗の和菓子屋に取材をする様子を見続ける。


「なぁ、お袋、知ってた?」

「何を」

「『カリーナ』の親父がいる店、この人が来るんだって」

「この人?」


愛美の視線が、パソコンからテレビに映る。

そこに移っていたのは、20代後半くらいの、モデル体型をしたフリーレポーターだった。


「誰、この人……どこかで見た気がする」


愛美はかけていたメガネを取ると、画面をじっと見る。


「どこかで見たってレポーターだから見たことあるだろうよ。
滝川和花さんって言うんだと」

「滝川……和花?」


勇也の言葉に、愛美はそうなのかと納得しつつも、それだけではない気がして、

首を傾げる。


「あぁ、この番組の中で、お店や中小企業の取材を続けていて、
取材する店も、自分で調べて選ぶらしい」

「『カリーナ』に来るって取材ってこと?」

「らしいよ。最初は取材前の下準備だろ」

「へぇ……滝川和花ねぇ。スタイルいいし、気が強そう。
友則の好きそうなタイプだわ」


愛美は、さそかし鼻の下を伸ばしているでしょうねと言い、

勇也の入れたコーヒーを飲み始める。


「いやいや、いくら親父が好みでも、こっちが相手にしないでしょう。
人気のレポーターらしいから」


勇也はそう言いながら番組を見続ける。

コーナーは5分ほどのものだったが、その後SNSを開くと、

あれこれ感想が届いていた。


「昼間の時間でこの反響か、結構あるな、これならいい宣伝だ」


勇也はそう言いながら、『俺も店に顔だそう』と楽しそうにつぶやいた。





「業者にですか」

「うん……最初の1週間で、
吉川部長からは、うちが取引をしている業者を紹介してもらった。
高坂さんに話したように、俺の中でまとまりかけているうちの武器……ともいえる
ポイントの確認をするために、話が聞きたいんだ。
もちろん、名刺を持って行けば対応はしてもらえるだろうけれど、
俺自身、まだ入社して間もないから、向こうも構えてしまう気がして。
で、そういう場合に、誰と一緒に行けばいいかをあらかじめ聞いてあって」


祥吾は雄平の前に、1枚のプリントを出す。


「デザイナーが2人いて、それぞれ……」


雄平は、企画部にもそれぞれの担当があるため、確かに近しい人と、

そうではない人が存在した。部長の吉川が言ったというだけあって、

的を得ていると思って見ていたのだが。


「これで行くと、『プライント』には浅井さんが一番適任なのかな」

「あ……はい……あ、いえ、いや」


雄平の返事が、思っていたものと違っていたので、祥吾は『何かあるのか』と聞き返す。


「えっと……」


『プライント』は、『KURAU』の文房具に使われているプラスチック部分の加工を、

引き受けている企業だった。ひかりの元彼の要との出会いが、この会社だけに、

ひかりが祥吾と一緒に行くことを頷くだろうと、考えてしまう。


「俺、行きましょうか」

「山内さんが?」

「あ……最上さん」

「何?」

「山内さんだなんていいですよ、山内って呼んでください。
俺も浅井や細川のことは、名字だけですし。うちは昔からそんな感じですよ」

「いや、でも……」

「なんだかくすぐったいですから」


雄平はそういうと、自分の肩口部分を手でかく真似をする。


「企画部のみんなに、きちんと受け入れてもらえたらそうするよ」


祥吾はそういうと、それなら『頼みます』と雄平に頭を下げた。


【6-5】



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