6 どこまでご存じでしたか? 【6-5】


【6-5】


「エ……どういうことですか」


午後の仕事を始めようと思っていたひかりの前に、両手を合わせている雄平が立つ。


「申し訳ない。俺が行くつもりだったけれど、急遽『鳥居堂』から呼び出された。
あそこの会長、へそを曲げると面倒なことは、お前も知っているだろう」


午後から『プライント』に向かうはずだった雄平は、

『KURAU』の株主でもあり、

一番の取引先となっている『鳥居堂』からの呼び出しがかかり、

行くことが出来なくなったと、ひかりに頭を下げる。


「山内さん、何を言っているのかわかっています? 私の複雑な気持ち……」

「知っているよ、だから最上さんに言われたときには俺が受けたんだ。
吉川部長は浅井が一番適任だと言ったらしいけれど、まぁ、うん……」


先日の飲み会の理由が、『突然の失恋』にあったことを知っていた雄平は、

それでも今は頼むしかないからと両手を合わせていく。


「それなら、何か高級なもの、おごってくれますか」

「は? なんで俺が」

「だって……」

「お前には、貸しばかりだ。俺の方がおごってもらいたいよ」


雄平の強気の台詞に、ひかりは『そうですね』と返事をするしかなく、

何も理由を知らない祥吾と一緒に、『プライント』へ向かうことになった。





「浅井さんも忙しいのに申し訳ないな」

「いえ……そんな」


ひかりはそう言いながらも、

『そうなんです、本当は行きたくないんですよ』と心の中だけで叫んでみる。

それでも、高坂に責められた後、

祥吾が『後追いでもいい』と言い切った理由がわかるのかと思うと、

行きたくないことと同じくらいの、興味があった。


「最上さん、『プライント』に行って、何かわかることがあるのですか」

「うん……確認したいことがあるんだ。
それは専門的な人に聞かないと、確実に、正しい答えが出せないし」

「正しい答え……」

「そう。思い込みとか、なんとなく予想することだと、確実性がないだろ。
その状態で高坂さんに意見するのは、間違っている気がするから」


ひかりは祥吾の横を歩きながら、『そうですか』と頷いた。



『才色兼備、自他共に認める美人、料理も出来て、男性を立てることが出来る……』



ひかりは見合いの条件を思い出しながら、祥吾の横顔を見た。

『ボルノット』での失敗談や、佐竹に弱気なところを見せていた雰囲気を知ると、

自分に自信を持ち、相手にも高い理想を求めるようなタイプには、

祥吾がどうしても見えてこなくなる。


「最上さん」

「ん?」

「お見合い……あれからまたお相手を、紹介してもらえましたか?」


ひかりは、駅に向かっている今なら、雑談として聞ける気がして声に出した。

祥吾はひかりの言葉を聞き、『謝らないとならないこと』があったことを思い出す。


「あ……いや、それは、えっと、そうだった」

「まだですか?」


ひかりは『それならそれで』という思いで、聞いてしまう。


「いや、ごめん、実は……」


その瞬間、祥吾の携帯が勢いよく鳴りだした。

相手が『勇也』だったため、とりあえず出ることにする。


「もしもし……」

『あ、祥吾、ごめん、仕事だろ』

「あぁ、何?」

『今日、忙しい?』


祥吾は、勇也の言葉に『何かあるのか』と聞き返す。


『ごめん、出来たらさ、悪いけど、仕事終わりに親父の店に行ってくれないかな』


勇也は間に入る人間がいないと、面倒なことになるかもしれないからと、

祥吾に仲裁役を頼むと言いはじめる。


「意味がわからないんだけれど、何だよ」

『細かくは説明できないよ、とにかく来てくれ。俺も行く』


勇也は、『お袋が行くって言うからさ』とブツブツ受話器越しにつぶやき続ける。

祥吾は歩きながら、改札口まで来ていることに気付き、

とりあえずわかったからと電話を切った。


「すみません」

「いえ……」


祥吾は遅れないように改札を抜け、

ちょうどタイミングよく入ってきた電車に乗り込んだ。

ひかりと並んで吊り輪をつかみながら、勇也からの電話の意味を考え始める。

友則の店に自分が行かないといけない理由も、そこに愛美が訪れてまずい理由も、

全くわからない。

そのおかげで、祥吾はひかりから質問を受けていたことを忘れてしまう。

ひかりは、『見合いの質問』を祥吾が避けた気がして、

それ以上は聞くべきではないなと思いながら、電車に揺れ続けた。





『プライント』



企業の大きさとしては、それほどでもないが、歴史は古く、

『KURAU』の成長とともに、その依頼に応えようと技術を伸ばしてきた。

工場の隣に本社があり、ひかりは『どうか外回り中であるように』と願っていたが、

対応に出てきた社員は、要になってしまう。


「『プライント』の営業を担当しています、足利要です」

「すみません、この4月から
『KURAU』の『第2企画部』で仕事をすることになりました。最上祥吾です」


祥吾は名刺を取り出すと要に渡す。


「おぉ……『第2』のチーフですか。となると、ひかりの上司ですね」


すでに別の女性と結婚する予定があり、ひかりとの時間は過去に消し去ったはずの要は、

いかにも知り合いですと言うことをアピールするように、名前を出す。

祥吾も、『ひかり』と呼んだことで、二人が知り合いだと言うことには気づいたが、

あえてそこは触れるべきではないと思い、黙ることにした。


「今日は、製造部の方に、お会いしたいのですが」

「はい、工場の方におりますので、ご案内します」


要の後ろにつきながら、ひかりはその無神経な男の背中に、

怒りを込めて、冷たい視線を向け続けた。


【7-1】





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