7 あなたもですか! 【7-1】

7 あなたもですか!


【7-1】


『足利要』


ひかりは、自分の結婚式の2次会に、元彼女だと思っていた女を呼ぶ無神経さと、

何も関わりを知らない祥吾に対して、

わざとらしい台詞をぶつける無神経さが積み重なり、イライラが倍増した。

ひかりは、祥吾と話しながら歩いている要の後頭部を、

後ろから、思い切りバレーボールのアタックの気持ちで叩きたいくらいだったが、

なんとか両手をグーにしたりパーにしたりしながら押さえていく。

3人は工場内の休憩室に入り、要は製造の責任者である技術者の『津軽』を連れてきた。


「あ……津軽さん、お久しぶりです」

「おぉ、浅井さんか。まだ辞めさせられてなかったか」

「もう……大丈夫ですよ」


ひかりは、以前、製品が出来上がる行程を見せてもらったと、祥吾に話す。


「製品を?」

「はい。部品を組み立てていく行程を見せていただきました。
細かいものもあるので、チェックも大変ですよね。
私の頭では、とても追いつきません」


ひかりは首を細かく左右に振ると、

流れていく部品を見ているという状況を再現しようとする。

津軽は、ひかりは何事にも興味を持ってくれるので、

案内しても楽しかったよと、笑顔を見せた。


「いえいえ、津軽さんの説明が、わかりやすかったからですよ」


ひかりはそういうと、『またお願いします』と頭を下げた。

津軽は『いつでもおいで』と明るく声を出す。

二人の楽しそうな挨拶を聞きながら、祥吾はポケットから紙を出した。

津軽とひかりの視線が、その紙に落ちる。


「すみません、お忙しいところを……実は見ていただきたいものがありまして」


祥吾の出した紙は、ある製品の部品を撮影したものだった。

ひかりは形や色を見ながら、それが『KURAU』のものではなく、

『ボルノット』のものではないかと、そう思った。


「最上さん、これ……『ボルノット』の……」

「うん」


津軽はその紙を両手で持つと、かけていたメガネをずらしてじっと見た。

しばらく黙ったまま、数枚の写真を見比べる。

斜め前にいる要が少し動いた気がして、ひかりが視線を向けると、

自分に向かってウインクをしたことに気付き、思わずムッとしてしまう。


「これは通常使用でということですか……」

「いえ、通常の使用で、このような亀裂は入りません。
テストはクリアしています。でも、耐用回数を超えて、さらに条件が一つ加わると、
こんなふうにすぐ亀裂が出ます」


津軽は『うーん』とうなり、表情を曇らせる。


「それは……温度ですか」


津軽の言葉に、祥吾は無言で頷く。


「おっしゃるとおりです。室内で普通に使用するものなら、
それほど高い温度になることはないでしょうし、筆記具レベルの製品なら、
問題はありません」

「だろうね」

「しかし、今はスマートフォンも、計算機も、またコピー機能でさえ
組み込む電子文具が登場しています。機能は膨らむのに、製品自体は軽くなり、
小さくなっていく傾向が強いので」


祥吾の話を聞きながら、津軽は納得するように頷いていく。


「『KURAU』の製品で、過去にこのような事例が起きたことを、
聞いたことがありません」


ひかりは祥吾の出した写真を手に取り、拡大された写真の亀裂を見た。

気づかずに使用しても、機能に問題が出るわけではなさそうだが、

見逃していいというものにも思えない。


「スピードよりも品質という企業の方針が、しっかり根付いてのことだと思いますが、
現実、老舗に勝つために、他の企業は、ある部分には目をつむり、
長所を伸ばそうとしていることも、事実です」

「加工を早くするため、費用、価格を抑えるため……そんなところでしょう。
うちではあり得ません」

「ありえない」

「はい」

「どうしてあり得ないと言えるのですか」


祥吾の問いかけに、津軽は一瞬厳しい表情を見せる。

祥吾の隣に座るひかりも、その変化にはすぐに気づいた。

『伝えたいこと』、『聞きたいこと』はわかるが、あまりにもストレートすぎていて、

これでは『疑い』をかけているように聞こえてしまう。


「あり得ないと言い切る……」

「津軽さん、これ見てください」


ひかりは、祥吾の台詞を遮り、津軽の視線を自分の方に向けると、

急いで『ボルノット』の広告を出した。

ひかりは、『ボルノット』の商品が、

『KURAU』の出している『スライドペン』にかぶるような特徴を持ち、

さらに性能を上げてきたことを話す。


「この間ですよ発売が。それなのに、もうモデルチェンジなんです。
うちは3年前に『スライドペン』を出して、これから改良品を出す予定なのに」

「ほぉ……」


津軽はひかりの出した広告を見る。


「津軽さん……うちの『スライドペン』を助けてください。
商品の良さから言ったら、絶対に『ボルノット』よりも上に行けるはずなんです。
だって、うちの商品は、どんな条件で使っても、こんな亀裂入らないでしょう」

「当然だ……」

「ですよね……。今、最上が話したとおり、
うちにこういったクレームが入ったことなど、一度もないですから」


ひかりのフォローに、少し崩れかけた津軽の機嫌が戻る。


「足利、ほら、あれ見せて」

「……あ、はい」


要は席を立つと、何やらファイルに入ったプラスチックの板を数枚持ってきた。

それを手に持ち、『KURAU』の製品に使用している素材がどういうものなのか、

安売りで束ねてあるような製品と、どこが違うのかを解説し始める。

祥吾は『聞きたかった部分』を自然と語っている津軽を見ながら、

自分と同じように興味を持ち、話を聞くひかりを見る。

数分間の話を聞きながら、なぜ『KURAU』の製品が長く好まれているのか、

祥吾はわかるような気がして、しっかりと頷いた。


「……ということだ」


祥吾が黙ったことで、津軽も解説を終える。


「で、『KURAU』は何を売りにしようと思っている」


津軽の問いかけに、祥吾は左手で『2』と数字を作る。


「『KURAU』では、次に売り出そうとしている商品で、この『ボルノット』よりも、
連続使用時間を2倍に出来ることを、売りにしようと思っています。
技術的に出来ることは変わらないですが、使用時間が長くなることで、
消費者にはプラスだと思いますので」

「そうか、それで、使用時間を延ばして連結が可能になると、温度が上がり、
うちの製品もこうならないかと……そういう疑問を持って、ここへ来たわけか」

「はい、その通りです」


祥吾は津軽の顔を見た。

ひかりも祥吾と津軽の顔を交互に見た後、どう反応されるのかと、あらためて津軽を見る。

要も、意見をぶつけあう二人の雰囲気に、口を挟む気持ちにはなれず、

その場から逃げるように視線を下に向けた。


【7-2】



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コメント

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確かに!

拍手コメントさん、こんばんは

そうですね、今は『種をまく時期』かもしれません。
それぞれの性格や、事情を覚えながら、
読み進めていただけたら嬉しいです。
もう少しで今年も終わりです。
私もお掃除、少しずつ取り組んでます。