7 あなたもですか! 【7-4】


【7-4】


「すみません、ご迷惑をおかけしました。
あれ、実は……ちょっとトラブルで入会してしまって」

「トラブルで?」

「はい。自分で入会したと言うよりも、周りがふざけたというか、
真剣に考えもしないで身勝手にした行動というか……今はもう、退会しています」


祥吾はそういうと、『迷惑をかけてすみません』と和花に頭を下げる。


「もう退会されたのですか」

「はい。今、結婚する予定も気持ちもなくて……」


祥吾は、仕事が変わったばかりで、頭がいっぱいなんですと事情を語った。

そんなタイミングで、従業員が和花と祥吾のパスタを、テーブルに運んでくる。

『みらいず』という話の流れもあるし、和花に迷惑をかけたと思っている祥吾は、

このまま避けて帰るわけにはいかないと思い、席を移動する。

結局、『初めて会った女性』と、向かい合って食事をすることになってしまった。





「どうよ」


その頃、家に戻っていたひかりは、

華絵の店でよく出てくる『肉じゃが』にチャレンジしようと材料を買い込み、

とりあえずレシピを見ながら、作ってみた。

落とし蓋代わりのアルミホイルをどかすと、

見本のようにジャガイモがコロコロしている状態ではなく、

触れようとすると、もろくも崩れてしまう。


「あれ? ちゃんとやったよね」


誰もいないため、大きめの声を出しても、返事は戻らない。

ひかりは箸でなんとかじゃがいもを取ろうとするが、ボロボロと落ちてしまった。


「……もう、離乳食じゃないのに!」


ひかりはそういうと、コンロの火を止める。

鍋敷きの上に鍋を置くと、大きくため息をついた。

すると、玄関のインターフォンが鳴る。


「はい」


ひかりがのぞき穴から外を見ると、

何やら大きなダンボールを抱えた『宅配』の男性が立っている。

ひかりは『今、開けます』と言いながら外に出た。





「それなら、最上さんは理想の方を見つけられたからと言うわけではなくて、
自分の意思がそこにないから、『みらいず』を退会されたわけですか」

「はい。だからあの条件も自分の意思ではないです。才色兼備だの、
自他ともに認める美人だのって。そもそも迷惑な話で……」


祥吾は、そういったときに、まだ、ひかりに謝罪していないことを思い出した。

あれだけ時間があったのに何をしているんだと、

左手を拳にして、自分のおでこを軽くたたく。

和花は『そうだったのですか』と少し安堵の表情を見せた。


「それなら、ここでお会いできたのは、ラッキーですね、私」


和花はそういうと、フォークとスプーンを使って、器用にパスタを食べる。

祥吾は、『なぜラッキーなのか』わからなかったが、

とりあえず不機嫌にならなかったとほっとする。


「私……一目惚れしたんです、最上さんに」

「……は?」

「お写真を見て、経歴を見て、アンケートの答えを見ながら、素敵な人だなと。
自分にもしチャンスがあるのなら、お会いしてお話ししてみたいと……」


和花は、こんなふうにチャンスが巡ってくるとは思いませんでしたがと口にする。


「いや、あの、経歴はともかく、アンケートにも俺が答えたわけではないので……」

「はい、今伺いました。でも、だとすると余計に興味がわきます。
もっとお話が聞きたくなりました」


祥吾の返しにも、和花は冷静に返答し、全く引こうとしない。


「興味……ですか」

「はい。マスコミの世界にいると、付き合いが広そうに思われますけど、
私、仕事では積極的に語れるのに、プライベートだと、何も言えないことが多くて」


和花は、出会いも少ないのだと、嘆き出す。


「最上さんは、こちらのオーナーのご親戚なのですか?」

「あ……はい」

「なら、同じようにお店を?」

「いえ、違います。『KURAU』に……」


祥吾は、『プライベートでは何も言えないことが多くて……』と言った和花を見ながら、

本当にそうだろうかと考える。


「『KURAU』ですか、文房具……あら、素敵ですね。そうなるとお話もきっと、
私が知らない世界で、楽しいと思うんです。新しく出来たお友達と言うことで、
こんなふうにお会いして、お話ししたり……出来たら……」


祥吾は、和花に対して、『これだけ言いたいことが言えたら十分じゃないか』と思った。

出来たらすぐにでも席を離れたいが、

叔父である友則の店に取材に来ることが決まっているし、

変な印象を持たれてしまうと、取材自体が曲がったものにならないのかと、

余計な心配まで頭から飛び出し始める。


「あの……」

「どうですか、お味の方は」


そこにまた、友則が登場し、祥吾の嫌な予感が的中する。


「あ……オーナー、聞いてください。私と最上さん、ものすごく偶然なんです」


和花はそういうと、友則を話の中に引っ張りこんだ。





「ウソでしょう……」


祥吾が思いがけない出来事に入り込んでいた頃、

ひかりのところに届いたのは、両親からの贈り物だった。


『最新式オーブンレンジ』


CMなども好評で、これさえあれば、どんな料理も短時間で出来上がるのだと、

雑誌などで特集されているのも、見たことがあった。

ひかりはダンボールを開けると、中に入っている封筒を手に取る。

母の字で『ひぃちゃん』と書かれてあった。

ひかりは幼い頃から両親に『ひぃちゃん』と呼ばれ続けている。


『ひぃちゃん、お元気ですか……』


挨拶から始まった手紙には、華絵とのやりとりで、

ひかりが料理に興味を持ち、近頃取り組み始めたと知ったこと、

なぜ料理を始めたのか、その理由が好きな人が出来たからではないかと、

少し父親が機嫌を損ねたことが書いてあった。

ひかりは30に近くなった娘に対して、何を考えているんだと思いながら、

ごろんと横になる。

母は、自分が料理を教えてあげていないため、

ひかりが仕事で疲れている体を酷使しては困ると思い、

最新型の料理器具を送ったことなどが、その続きとして書いてあった。

ひかりは読み終えた後、真っ赤なレンジを上から見る。


「どこに置くのよ、これ」


部屋の間取りも、家具の配置もよくわかっていない親からの、

自己満足なプレゼントを前に置き、ひかりはしばらく立ち続ける。

どこかズレていることはわかっているが、

それでも『なにかしてあげたい』という親心はありがたく思え、

ダンボールの中にある発泡スチロールを一つずつ外に出していく。


「お世話……かけますね」


このあたりにも、もちろん家電の店はある。

こうして送ってもらうより、近所で買った方が安い気はしたが、

ひかりはレンジの本体に手で触れながら、『ありがとう』と小さな声を出した。


【7-5】



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