8 都合合わせてもらえるかな? 【8-5】


【8-5】


ひかりは語られたことを一生懸命、頭の中で整理整頓する。


「それじゃ、見合いをしようと『みらいず』に申し込んだのも、
最上さんではないと言うことですか」

「うん」

「で、才色兼備だの自他共に認める美人だとかっていうのも……」

「それも叔母が勝手に入力した。俺は相手にそこまで言うほど、自信家じゃないよ」


祥吾は『迷惑なことだ』と言いながら、笑顔になる。


「そうだったんだ……」


ひかりの中で、がっちりと固まっていた『基本』が、ぽろっと取れた気がした。

祥吾を知れば知るほど、そんな条件を女性にぶつけるような人には思えなかったが、

そこも自分のいいような思い込みだと、何度も考えようとしてきた。


「浅井がアンケートの内容、90%ウソだってあの日言っていたけど、
そうなると俺も、名前と年齢くらいしか事実ではないから、
実は90%くらいウソだってことになるね」


祥吾はそういうと、冷めるから食べようとひかりに食事を勧めていく。


「ウソなんだ、あの出来事全部」


ひかりはあの日の祥吾を思い出しながら、手に取った箸を動かし、料理を取る。

どうしようかと悩みながら出かけた日のこと、

待ち合わせた時に現れた祥吾の姿に、後悔と同時に、

予想外の思いを持ったことも事実だった。

ひかりは、『あり得ないこと』が相手にも起きていたことを知り、

驚いていた気持ちが、だんだんとおかしくなってくる。


「あの日、条件がウソだとわかっているのに、
どうして断らなかったんですかって聞いたら、そう、最上さん、
『どうしてなのかな』って言いましたよね。
この人、ふざけているのかなと思ったんですよ、私」

「あれ? 俺、そんなふうに言ったっけ」

「言いましたよ、言いました。私、最上さんは工作員だと思っていたので、
これは飲み込まれてはいけないと……」

「工作員? その発想もすごいけどね」


祥吾も笑顔になりながら、料理をお皿に乗せる。


「あぁ、でも、これでほっとしたよ。入社して浅井に会ってからずっと、
『騙している』ような気がして、気になっていたんだ」

「騙している?」

「うん」


ひかりは、祥吾を見る。


「そんなふうに気にしていたんですか。それだったら最上さん、廊下ででも呼び止めて、
『あのね』って伝えてくれたらよかったのに。
私、こんなふうにお誘いを受けたので……」


ひかりはそこまで話すと、言葉を止めた。

『もしかしたら私のことを……』と勢いのまま言ってしまいそうになる。


「受けたから……何?」

「あ、えっと……」


目の前に座っているのが、先輩の雄平なら、そういう感情がないために、

『私のことを好きなのかと思いました』なんて、ふざけた台詞を言えそうだったが、

祥吾に対して、そういう言葉を出していい関係だとは思えなくなる。


「仕事で大きな失敗でもしたのかなと」


ひかりはそういうと、照れ隠しのために笑って見せた。


「失敗? 今のところそんなふうに思える出来事はないだろう。
むしろ、浅井には本当に助けてもらったと思っているし」

「助けた」

「うん」


祥吾は、歓迎会でひかりが見せた『動物ものまね』のことを話し出す。


「エ……あれですか」


ひかりはもっと仕事の内容に入ったことかと期待したが、

祥吾の中に残っていたのがあのことかと、力が抜けそうになる。


「高坂が少し酔い始めていて、雰囲気が悪くなりかけただろ。
そこで浅井が立ち上がったそのタイミングが、本当に見事だった。
あの歓迎会があって、みんなの雰囲気を見て、これはここで頑張らないとと、
思えたことも事実だし」


祥吾は、ひかりや雄平たちの雰囲気や、高坂の熱意、そういったものが、

自分の気持ちを少しずつ変えてくれたとそう話した。


「あ、そうだ、ほら、1週間待って欲しいと話した時も、
浅井がスパッと切ってくれただろ。コーヒー入れるからって……。
あれも、助かった」


ひかりは、話しをする祥吾を見ながら、確かに『慶西大学』で会った時よりも、

雰囲気が明るくなっていることを感じ、嬉しくなる。


「今思うと、『ボルノット』の時には、肩肘ばっかり張っていた気がするよ。
予定外のことで、急にリーダーにされたから、準備も何もなくて。
でも、そういう雰囲気を保たないと、グループが成り立たないとか、
あれこれ頭だけで考えて」


祥吾の過去を聞きながら、ひかりは『自分の想像』とは全く違った展開になっていたが、

これはこれでよかったと思うように変わっていた。

見合いの日、全く聞くことが出来なかった祥吾自身のことを、

今、聞くことが出来ていることが、嬉しくなる。


「向こうばかりが悪いと思って、飛び出してきたけれど、
こっちにも悪いところがたくさんあったなと、『KURAU』にいると気づける」


祥吾は、『これからも一緒に頑張ろう』とひかりに声をかけた。

ひかりは『はい』と返事をする。

祥吾が目的だと言っていた見合いの謝罪が終了したことで、

そこからは少し静かな時間が訪れた。

このままだと食べ終えたら、すぐに『さようなら』となる気がしたため、

ひかりは『あの……』と声に出す。

祥吾は顔を上げた。


「この間話していた引っ越しの物件、決まりましたか?」


飲み会に誘った時に、そう聞いていたため、話題の一つになるだろうと思い、

ひかりは聞くことにした。


「あ、うん。最初の予定とはずれたけれど、まぁ、仕方がないかなと」

「今度は違法建築ではないですか?」


ひかりは、佐竹教授のところで、そんな話をしていましたよねと笑う。


「うん、今度は大丈夫。新築ではないからさ」


祥吾はそういうと、『富士山が見えたし』と付け加える。


「富士山? それが見たいのですか」

「見たい……いや、見たくない? 俺、大学の時に入っていたアパートから、
天気のいい日には遠くに富士山が見えたんだ。
朝起きて、小さいけれど富士山を見てって……」


祥吾は、『日本一の山』だから、気持ちが引き締まるしと話し続ける。

ひかりは『ボルノット』という、

文具メーカーの中でも、どちらかというと発展的な企業に勤めていた祥吾が、

古風な感覚を大事にしているところがおかしくて、つい笑ってしまう。


「おかしいかな」

「すみません、最上さんがそんな『富士山』がどうのこうのなんて言うようには、
思えなくて」

「あれ? そうなんだ」


祥吾は、どういうイメージを持たれているのかなと、ひかりに聞く。

『高学歴、高身長、高収入』という、自分が酔って入力した条件が、

ひかりの頭の中を横切っていく。


「なんかこう……。円周率とかどこまでも言えそうな……」


ひかりは頭の中に、たくさん計算機が入っているようなと、たとえを付け加える。


「そんなふうに思えるんだ、俺」

「はい、見えますよ」

「いや、円周率、興味ないし……」


祥吾がそう返したので、ひかりは『例えばですよ』と言い返す。

そんなふうに話していると、料理はいつのまにか終わっていた。


【9-1】






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