10 うちの規則を知っている? 【10-5】


【10-5】


『最上さん、優しいですね』



駅から離れていく祥吾の頭の中にも、今日の出来事が残っていた。

考えれば考えるほど、ひかりの言うとおりだった。

どうして慌ててしまったのだろうかと、

『かをり』の前で、ひかりを見た日のことを思い出す。

『ボルノット』の時にも、メンバーの個人情報を知ることは色々とあった。

それでも、互いに踏み込まないようにしようと、

どこか大人の付き合いとして距離を置くのが、当たり前の日々だった。

『KURAU』に入り、雑談の中にあるヒントを探す楽しさを知ったため、

こんな感情になるのだろうかと考える。



『勘違いされたくなかった……』



祥吾は、ひかりのことを心配していると言いながらも、

どこか『自分のこと』を語っていたという事実に気づく。

自分という人間が、どんなことを考えているのか、

理解してもらおうとしていたのではないかと、そう思ってしまう。

ひかりの表情が柔らかいものになったことに、

自分自身が一番『ほっとしていた』のは……


祥吾の足が止まる。

振り返って反対側を見ると、ちょうとひかりがコンビニに入っていくところが見えた。





それから数日後、『カリーナ』の取材日がやってきた。

祥吾の携帯に和花からのメールが入る。


『先日は、短い電話でごめんなさい。今日の取材は、午後8時です。
その後は空いていますけれど、最上さんも来られますか?』


この間、ぶつ切りのような電話の時にも、取材日にはぜひと誘いがあったが、

今日も同じだと取れるようなメール内容に、少し強引だなと思いつつも、

祥吾は、和花が店に来るのなら、思い切ってそこに残ってもらい、

話をすべきだろうかと考えた。

マスコミの人が全て悪いとは言わないが、

友達と言う関係でも、作ることはストレスになるような気がしてしまう。


「最上さん。これ、いいですか」

「あぁ、今、見るから」


祥吾はそう答えると、勇也宛にメールを入れる。



『今日、取材の店にお前も行くの?』



その返事をあとから見ようと思い携帯を閉じると、祥吾は席を立った。





ひかりは『Paratto』の評判を聞くために、『鳥居堂』への道を歩いていた。

会長の『鳥居完太郞』は、有名な百貨店に多くの店舗を入れている。

取り扱う文房具の数は『日本一』とも言える量があり、

さらに、海外の業者とも付き合いがあった。

以前、芯の折れにくいシャープペンを売り出した時、

すでに海外で売り上げを伸ばしていたメーカーとの、仲介をしてもらったこともあり、

販売部ではないひかりや雄平も、『挨拶』だけは欠かさずに続けていた。



『今日は頼む』



小春とコンビで雄平が取り組んでいる商品の『最終会議』が、

吉川部長と祥吾を含めて行われているため、今日はひかりが本社に向かう。

完太郞は72と言う年齢にもかかわらず、フットワークは軽く、

今でも権力は相当なものを持っていた。

『鳥居堂』に到着すると、アポイントはもらっているものの、

少しお待ちくださいと言われてしまう。

ひかりはわかりましたと答え、エレベーター横のスペースに立った。

大きな扉が開き、中から男女一人ずつが外に出てくる。

持っていた紙袋を見ると、『ボルノット』であることがわかった。

ひかりは、軽く頭を下げる。


「『KURAU』さん……」


ひかりが頭を下げたのは、福岡から来ていた海渡と唯だった。

海渡は自分たちと同じようにロゴ入りの袋を持っているひかりに反応する。


「はい」


ひかりは返事をすると、少し横にずれた。

エレベーター前を広く開けた方がいいと判断する。


「あの……『KURAU』さん、最上さんはお元気ですか」


海渡はそういうとひかりを見た。


「最上さんをご存じなのですか」


ひかりはそういうと、開発部のメンバーだった人たちかもしれないと思い、

あらためて海渡と唯を見る。


「はい、最上さんはうちの開発リーダーでしたから……数ヶ月前まで」

「あ……はい」

「エ? ウソだろ。その経歴をわざわざ『KURAU』でしたの?」


海渡は、驚いたような口調で話ながら、隣に立つ唯を見る。


「最上さん、一体、何を話したんだろ。あ、そうか、知らないところだから、
社長賞取ったこととか、プラス部分だけかな」

「……海渡」


海渡の横にいた唯は、挑戦的な言葉を言いそうだと思い、背中を軽く叩く。


「別にいいだろう、こちらの方は知っていると言うのだから」


海渡の言葉に、唯はさらに嫌な顔をする。


「はいはい、すみません。では、村上と立花が挨拶をしたと、伝えてもらえますか」


海渡はそういうと、これでいいだろうと、横にいる唯を見た。

頭を下げようとしたひかりは『立花』の名字に反応する。

目の前にいる女性は、少し暗い表情を見せていた。



『立花』



ひかりは、この女性が祥吾の『元彼女』ではないかと思い、視線を向ける。

唯もその視線に気づき、顔をあげたため、ひかりは慌ててそらした。


「わかりました、お伝えします。村上さんと立花さんですね。
最上さん、頑張っていますから。色々と新しいアイデアを出してくれますし、
企画部のみんなが刺激をもらっています」


ひかりは、どういう過去があったのかまではわからないが、

『今、最上さんは、しっかり受け入れられている』という部分を強調するように語った。

扉が開き、『KURAUさん、どうぞ』と声をかけられる。


「はい」


ひかりは海渡の横を通るため、少し頭を下げながら進み始める。


「そうですか、それは安心しました。
あなたの部下はみんな、面倒なことがなくなって、のびのびと仕事をしていますと、
さらにお伝えいただけたら……」

「海渡!」


海渡はそう言い切ると、唯に『行こう』と声をかける。

ひかりは、祥吾から『ボルノット』での話を聞いていたため、

この会話は『嫌み』だとすぐにわかった。

こうして『ボルノット』の人間に会い、実際に言葉を交わすと、

祥吾がどれだけ冷たい態度を取られていたのかがわかり、心が苦しくなってしまう。

しかし、そこは表情を崩すわけにはいかないたため、

『わかりました』と明るい表情で答えていく。

嫌みをぶつけた男の隣で、どうしたらいいのかわからない顔をしている唯を、

ひかりはもう一度見たが、中から呼ばれているのがわかったので、

すぐにドアノブをつかみ、中に入った。


【11-1】






コメント、拍手、ランクポチ、参加をお待ちしてます。★⌒(@^-゜@)v ヨロシク♪

コメント

非公開コメント