11 こういうことは辞めてくれ! 【11-1】

11 こういうことは辞めてくれ!


【11-1】


「お久しぶりです。『KURAU』の浅井です」

「おぉ、来た、来た。なんだ、浅井の方か。お前の先生、山内はどうした」

「すみません、今日は担当企画の最終会議がありまして。
どうしても抜けられませんでした」


ひかりは、完太郞に頭を下げる。


「最終会議? 山内が出なくても、会議くらい回るだろう」

「いえ、山内が企画の中心なので、今日だけは……」


ひかりは雄平が最初から関わってきたのでとフォローする。


「山内に、浅井の面倒を見る以外の仕事があったとはな」


完太郞はそういうと、豪快に笑う。

ひかりは、『来るたびに同じようなことを言われているな』と思いながら、

合わせるように笑みを見せる。完太郞は、ひかりが立ったままなので、

座りなさいと指示をした。ひかりは『失礼します』と、ソファーに座る。


「会長、今日はうちの新商品『Paratto』をお持ちしました」


ひかりは早速、売り出した商品を見てもらおうと思い、

色違いの3冊を入れた封筒をデスクに置く。


「おぉ、そうだったな。でもちょっと待ってくれ。
今も『ボルノット』にあれこれ説明されて疲れ切った」


完太郞は横にある袋を指さし、『ボルノット』の商品だと話す。

ひかりは祥吾に対する嫌みをぶつけてきた海渡と、その隣にいた唯を思い出す。


「すぐに呼ぶからな」

「はい」


完太郞は内線電話を回す。


「おい、翔は戻ったか、おぉ、すぐに来いと伝えてくれ」


完太郞の電話からしばらくすると、

お盆に乗せたアイスコーヒーを持った『鳥居翔』が現れた。

ひかりは初めて会う人だと思い、立ち上がると挨拶をする。


「『KURAU』第2企画部、浅井ひかりです」

「『KURAU』……あぁ、あの……」


翔は『あの……』の続きを言わないまま、軽く頭を下げる。


「浅井、これが私の孫の翔だ。大学からアメリカに行っていて、先週日本に戻ってきた。
これから『鳥居堂』で仕事をすることになるから、顔を覚えてやってくれ」


翔はアイスコーヒーをひかりの前に置くと、そのまま横に座る。

ひかりは完太郞の隣に座るだろうと思い、まさか隣に来るとは予想していなかったため、

スペースを確保しようと、少し身体を横にずらした。


「『ボルノット』の次は『KURAU』か。
じいちゃんにこうやって挨拶回りをするなんて、日本はまだまだ古いね、商売の仕方が」

「何を言っている、わかりもしないで」


完太郞はそういうと右手を出した。

ひかりは『Paratto』を封筒から出すと、完太郞に渡す。


「これかね。『KURAU』の出したものは」

「はい。罫線の幅や余白の取り方など、色々と細かく考えました」

「ほぉ……」


完太郞は少し見ただけで、前にいる翔に渡してしまう。

翔は左手で紙の質や、強度を見ながら納得したのか小さく頷いた。

ひかりは小さく息を吐く。


「確かに紙はいいものになっている。品質にこだわる『KURAU』らしいね」


そう褒めてくれたはずなのに、『Paratto』をテーブルに放り投げるようにする。

ひかりは商品なのだから、丁寧に扱って欲しいと横目で翔を見た。


「でもさ、これじゃぁな。もう少し、色使いとか、大胆に出来ないの?
守るばかりだと置いていかれるよ」


そう言うと、両手を大きく広げてソファーに背中をつけた。

ひかりの肩ごしに、翔の手が来てしまう。

ひかりは少し姿勢を前側に倒し、翔の手に触れないようにする。


「ネットが進歩して、店舗売り上げが少なくなるのはわかっている。
でも、実際に触れてみて、その感覚で選ばないと、結局ダメだということもあって、
うちの店舗での売り上げは、落ちるどころか伸びているんだ」

「はい」

「『鳥居堂』に行けば、色々な賞品をこの目で見て比べられる。まぁ、つまり、
うちは企業にとって試験会場のようなものだ。まずはそこに並べられるかどうか」


『鳥居堂になければ、文房具ではない』と言わんばかりの翔のコメントに、

ひかりは、堅物の完太郞よりも面倒そうだと考える。


「会社は多いし、商品も多い。だから全ての商品を置くことも出来ない。
何を入れるのか、それは俺が決める。なぁ、営業部に言っておいて。
これからは長い付き合いの『KURAU』であっても、絶対はないからねって」

「おぉ、そうだ。営業の武田はどうした」


完太郞は営業部の『武田輝之』がしばらく顔を出していないとぼやき始めた。

ひかりは新商品が出ると、営業も忙しいのですとフォローを入れる。


「武田はなかなかおもしろい。また顔を出せと言っておいてくれ」

「あ……はい」


輝之はひかりにとって、大学が一緒で入社も一緒という仲間だった。

企画部の山内とは違った営業部員として『鳥居堂』に出入りしているが、

エリート意識などどこにもない、やる気だけは満タンの輝之を気に入っている完太郞は、

何かというと、声をかけていると言う。


「武田って、あの人か。じいちゃんが前に店に呼んだ」

「そうだ。武田はいい……飲みっぷりも、考え方もな」

「まぁ、確かにね……」


翔は話をしながら、1冊の雑誌を前に置いた。ひかりはその表紙を見る。

外国の雑誌なのだろう、全て英語で書かれていた。


「これ、見たことある?」

「いえ……」


ひかりは『英語は得意ではないので』と切り返した。

翔は、『英語もだろ』とまたいらつく言葉をかぶせてくる。


「これはイギリスの情報誌。海の向こうでも、色々とアイデアは生まれているわけだ。
みてごらん」


翔が開いたページを見ると、開発された新しいインクについての、

色々な関連商品が並べられていた。消えるインク、色が変わるインクなどは、

すでに日本でも商品化されている。


「海外からでも、ものはすぐに入ってくる。こっちが相手の用途を見抜き、
いいものだけ揃えていけば、まだまだ対面式でも勝負が出来る」


翔はそういうと、アイスコーヒーを飲み始めた。

完太郞は、自信満々な孫を見ながら、嬉しそうに笑っている。


「浅井……。ほら、興味があるなら招待券をやるぞ」


完太郞は、翔が説明した企業が、来月日本に来ることを話してくれる。

ひかりは『ありがとうございます』と頭を下げると、

数枚の招待券を完太郞から受け取った。





「最上さん」


『鳥居堂』から戻ったひかりは、完太郞から受け取った招待券を祥吾に渡した。

そして翔が話していたことを、そのまま伝えていく。


「あぁ……それはおそらく『フェラル』のことだよね」


祥吾はそういうと、机の中から翔が見せてくれたものを同じ雑誌を取り出した。

ひかりはそれを手に取り、めくっていく。


「あ、そうそう、これです」


ひかりはその記事を見ると、すぐに祥吾を見た。


【11-2】



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