11 こういうことは辞めてくれ! 【11-2】


【11-2】


「最上さん、これ自分で買って読みました?」

「うん……今回は特集記事があることを知っていたから」


ひかりは他のページも軽くめくってみる。

イギリスで出されたものであるだけに、内容は全てが英語だった。

単語はある程度わかるし、それを追いかけていけば、どういうことが言いたいのかも、

おそらく多少はわかる気がするが、『理解』となると、難しい。


「あの……何が書いてあるのか、教えてもらってもいいですか。
もちろん、自分で読むのが正しいとは思いますが、あまり英語が……」

「中身ってこと?」

「はい。すごく興味が持てそうだなと思ったのに、この雑誌を教えてくれたのが、
『鳥居堂』のお孫さんで。これから仕事に関わるらしく、出てきたのですが、
どういう内容ですかなんて聞くのは、あまりにも……こう……」


ひかりは、大きな態度でソファーに座り、人の場所など気にすることもなく、

手を伸ばした翔の態度を振り返る。


「すごくチャラそうな、それでいて、面倒くさそうな人だったので。
どういうことが書いてあるんですかなんて聞いたら、また面倒かと……」


ひかりは『だいたいで構いませんから』と自分でメモを取ろうとする。


「明日でよかったら、内容をまとめてくるよ」


祥吾は、企画部のみんなも読んでおいた方がいい記事だと思うからと、

雑誌をめくっていく。


「秋に選抜チームを組む話は、みんな知っているだろう」

「はい」

「こういった記事が、ヒントになるかもしれないし」


祥吾はそういうと、それでいいかとひかりを見る。

ひかりは『わかりました、お願いします』と頭を下げると、自分の席に戻ろうとする。


「あ……」


ひかりはもう一度祥吾を見る。


「そうでした。『鳥居堂』で『ボルノット』の方に会いました。村上さんと……」


ひかりは『立花さんです』と言葉をつなげる。


「最上さんは元気ですか……と」


ひかりは嫌みっぽかった海渡の態度は知らせることなく、

あくまでも挨拶程度だったと話す。

祥吾は『そうか』と言いながら、目の前に立つひかりの表情を見た。

ただの挨拶ですと告げている割には、その表情が少し曇り気味なことがわかる。


「言われたんだろ、何か……」

「エ……あ、いえ」

「顔に書いてあるって」


祥吾は『どんなことを言っていたのは、なんとなくわかるよ』と言いながら、

書類に視線を落とす。

『ボルノット』でのいざこざなど、関係がない『KURAU』のひかりに対して、

そこまで露骨に嫌みな態度を取る海渡の気持ちが透けて見え、

祥吾は腹が立つ感情を抑え、気にしていないような態度を、懸命に取ろうとする。


「最上さん」


ひかりの声が届いていたが、この表情を見せるのは違う気がして、

祥吾は下を向いたままで『うん』と答えてしまう。


「頑張っていい商品、作りましょう」


ひかりはそう元気な声で言うと、

もうすぐ『大好きなお昼ですので』と言い、祥吾の前を離れた。

祥吾は、席に戻っていくひかりの背中を見る。

祥吾は、『本当は何もかもわかっています』というひかりの台詞に、

とげとげしかった気持ちが、少しだけ和らぐのを感じた。





「すみません、急に」

「いやいや、教え子が来るというのは、嬉しいものだ」


その頃、海渡と行動を別にした唯は、『慶西大学』の佐竹のところへ来ていた。

佐竹は、ひかりたちの時と同じように、コーヒーを入れていく。


「最上に会うのか」


佐竹の言葉に、唯は首を振る。


「今日、『KURAU』の方と会いました。祥吾のことが話題に出て、
頑張っていると聞いて……」

「そうか。ここに来た時は、『またダメかもしれない』なんていうような、
弱気なことを言っていたが、あれから愚痴をこぼしに来ないところを見ると、
受け入れられているのかもしれないな」


佐竹はそういうと、カップを2つ用意する。


「距離を置くことで、祥吾は私を守ってくれたのだと思います。
開発部のメンバーと、かみ合わなくなっていくのを感じながら、
同じチームにいる私にまで、そういった被害が来ると困ると思って……」


唯はそういうと、両方の指先を動かした。

佐竹はテーブルにコーヒーを置く。


「だったら、どうして一人で旅立たせた。わかってくれていると思えば、
あいつだってもっと……」

「祥吾がいたときには、私も気づかなかったんです。
いえ、他のメンバーと同じように、うまく歯車が回らないことが、
彼の力不足から来ているのだと、思い込んでいて。それに……」


唯の視線がコーヒーに動く。

昔、まだ学生時代、ここで祥吾と一緒に佐竹のコーヒーを飲んだ思い出が、

よみがえってくる。


「冷たい態度を取りたくなったのかもしれません。本音が知りたいと思ってしまって」

「本音?」

「はい……。何も言わない私に対して、祥吾が何か言ってくれるのではないかと。
祥吾の方から求めて欲しいと、どうしても思ってしまって」


唯は『失いたくない』と思って欲しい一心で、今までとは違う態度を取ったと、

当時を振り返る。


「一緒に過ごすことが増えても、隣にいても、いつも感じていました。
大学の時と一緒で、好きなのは私だけで……ずっと、追いかけて、声をかけて、
常に思いを伝えているだけだと、そう……」


『最上先輩』

『最上さん……』

『祥吾……』


「祥吾が守る場所に入り込むのは、嫌がられると思うと、強く出られなかったし。
ただ、自分がここにいると、存在を示すことしか出来ませんでした。
だからこそ、言葉を向こうからかけて欲しかった……」


唯は、いなくなられて初めて、埋められない空間に気づかされていると話す。


「そのままを伝えればいいだろう。お前の気持ちをどう受け取るかはわからないが、
ここでぼやいていても、何も変わらないぞ」


佐竹はそういうと、自分は中立の立場だと唯に話す。


「俺は、ここに来た時にコーヒーを入れてやるだけだ」


佐竹の言葉に、唯は黙ったまま頷いた。


【11-3】



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