7 向こうの彼

7 向こうの彼

管理職と呼ばれる面々の、重苦しい話などが終了し、里塚や太田は、簡単な昼食会に顔を出す。


「来週、ツアーなんだろ、頑張れよ」

「ツアーって言ったって、スーパーの親子イベントだよ。春休み最後の……」

「それだってツアーだろうが。今じゃ、そういったタイアップものだって、競争激しいんだぞ」

「あぁ……」


亮介から聞いていた通り、やる気が見えない太田に、里塚は気合いを入れるつもりで、

背中をドンと叩く。


「お前さぁ、しっかりと目標持てよ、ないから、そんなふうに下ばっかり向くんだよ」

「目標?」

「あぁ、こうなりたいっていう目標」

「里塚はあるのかよ」

「あるよ……」


里塚は自信満々にそう答えると、太田の胸にポンポンと触れた。


「深見さんが俺の目標。あの人を目指して、追いついて追い越すために、
日々頑張っているといっても、過言ではないな」

「深見……深見部長のこと?」

「あぁ。お前なんか毎日一緒にいるんだろ。気持ちで影響されないのかよ」

「……うーん」


大田の煮え切らない返事に、亮介が心配していたことが、現実に起こるのではないかと、

里塚は大きく息を吐いた。





それから3日後、咲は久しぶりに街へ出て行くことにした。

家にばかりいて、考えることもないから、亮介のことをあれこれ疑い、

くだらないことで怒り出すのだと、そう思ったからだ。

デパートの賑やかな売り場へ行き、赤ちゃんの洋服でも見て回ろうとバスに乗り、駅へ向かう。


明らかに妊婦に見えるようになった咲に、親切な男性が席を譲ってくれ、

そんな小さな優しさに、気持ちが明るくなる。



その頃、亮介は、話したいことがあるので、どこかで会えないかという、

芽衣からのメールを読んでいた。

机の引き出しを開けると、そこにはもらったネクタイが箱に入ったままになっていて、

先日、仙台へ来た祥子とのやりとりを思い出す。





「助けたお礼がネクタイか……。取りようによっては、怪しい」

「何言ってるんだよ。営業部ではよくあるだろうが、
転勤する同僚や先輩にネクタイを渡すってこと。長谷部も渡したことくらいないか?」

「あるわよ。でも、それはうちの営業部の恒例みたいなものでしょ。あの子は違うじゃない」

「知ってるよ、俺が結婚していることも」

「そんなこと関係ないわよ、気持ちさえ動けば。なんだかさ、妙に優しいんだもの、
深見君の口調も、そう、どこか壊れやすいガラス製品でも扱うような感じ?」


亮介は確かにその通りかもしれないと、何度か頷いた。

喫茶店の外を見ると、乳母車を引いた女性が自然に目に入る。


「助けた時の服装が、マタニティだったんだ」

「エ……」

「かすり傷だって言ったけど、ぶつかったタクシーの運転手さんもいい人で、
すぐに俺と彼女を病院へ連れて行こうとした。でも、彼女は嫌だって泣き出して……」



『あの場所には帰りたくない……』



「あの場所には帰りたくないって、そう言ったんだ」

「どういうこと? よく話しが見えないんだけど」


祥子は外の景色を見たまま、話す亮介の方を向き、問いかけた。


「8ヶ月に入ってすぐに、心音が止まってしまって、赤ちゃん、ダメになったって……。
退院して、これからどうしようか考えていたら、いつの間にか足がフラフラっと
道路の方へ出てしまったらしい」


芽衣は妊婦だった。今の咲と同じように、産まれてくる子供を待ち、毎日を過ごしていた。

突然の不幸に頭が着いていかず、気持ちが乱れ、車に向かおうとしたところを、亮介が救った。


「彼女は結婚していないんだよ。妊娠がわかって、しばらくしたら相手の男は消えてしまった。
親には反対されたけれど、赤ちゃんは絶対に産みたいんだって、
以前、バスガイドをしていた時に、好きになった仙台へ来た……その話を後から聞いたんだ。
8か月って言ったら、咲がちょうどこれから迎える時期だろ。
変な心配をさせたくなくて、だから彼女を助けたことも黙っていた。
普通の女性なら、自分にはそんな不幸は訪れないと思うだろうけど、
独身時代、生死を彷徨うような事故にあって、その後遺症かもしれないめまいに、
ずっと悩まされてきたからね。言いたくなかった……」


祥子はその話を黙ったまま聞き、途切れたところで一度だけ頷いた。


「うちにも、絶対はないからさ……。そんな女性だったのかと思ったら、強く出られない。
結婚していることは言ったけど、咲が妊婦であることも、彼女に言えなかった」

「その理由は……確かに言いたくないし、聞きたくないかもね」

「そうだろ」

「わかった。あの子のことを、咲ちゃんに言ったりしないわよ」

「あぁ……」


助けたことの挨拶だけをしてもらうつもりだった。

それが個人的に携帯に電話を寄こすようになり、ここのところは、何度か直接会いに来る。

亮介は強く出てはいけないと思いつつ、しまい込んだネクタイを見ながら、

芽衣の態度が少し気になりだした。





買い物を済ませた咲は、デパートの地下でお菓子を買い、

亮介の職場へ差し入れをしようと思い、歩き出した。

交差点の正面にある大きな喫茶店は、今日も混雑しているように見える。

待ち時間を示すライトが少しずつ減り、渡れる時間が近づいた。


ふと視線を前に向けると、ポケットに手を入れた男性が、

人混みの中をまっすぐに歩いていくのが見える。


「あ……」


それは間違いなく亮介で、時計をみると、昼少し前なので、咲は休憩を取ったのだろうと思った。

ポケットからすぐに携帯を取りだして、亮介の番号へ回す。

咲に気付かない亮介は、交差点の反対側で受話器をあけた。


「もしもし……」

「亮介さん? ねぇ、今、休憩中?」

「咲、ごめん。ちょっと人に会うんだ。電話、後にしてくれるかな」

「エ……」


亮介が電話を切ると、別の方向から若い女性が駆け寄った。二人は親しそうに挨拶をし、

その女性は自分の肩を叩き、亮介の左肩を指さしている。



『人に会うんだ』



たった今、焦ったように電話を切り、会わないとならないと言ったのは、

目の前の若い女性なのだろうか。肩に触れ、指さす態度に、

彼女が亮介に助けられた人なのではないかと、咲は視線を向けた。


それにしても、先日聞いた時には、その日だけで関わりはなくなったように言っていたが、

一緒に歩き始める姿の自然さは、まだ、自分が知らない何かが隠されているような

そんな気持ちになる。


信号が青に変わり前へ進めるようになっても、咲の足は動くことが出来ずに、

そのまま立ちつくす。


亮介とその女性は、そのまま人混みの中へ消え、咲は反対側の横断歩道に、

ポツンと一人残された。



                                 深見家、新メンバー加入まで……あと80日






8 永遠の恋人 へ……




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コメント

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優しすぎない?

優しすぎない?深見亮介君

助けた芽衣マタニティー着てた。赤ちゃんがだめだった。父親となるべき
男に逃げられた・・・ほっておけない
気持ちはわかるよ
助けただけの間なら御礼もいただいたし
芽衣にこれ以上優しく頼られる必要があるのかな?乗りかかった船だから?

でももう他人の亮介が追うべき【荷】責任ではないと思う。
知人の居ない仙台で、これから先の生活の相談だとしても
芽衣には必要以上に応えるのはどうかな・・

何処かで線引きしなければ・・・・まだまだ芽衣の力になってやりたいなら
妻である咲の了解を取ることが大事だと思う。
ずるずる変な方向に行かないように予防線張っておこうよ。

咲の体を心配するから芽衣のことを黙ってるのは妻の側からみたらおかしいよ。
咲は『ちゃんと説明してもらいたい。嘘つかないで。』って思ってるはずだよ
咲はむやみに嫉妬する心の狭い女じゃないから、最初から話すべきだったと思う。

でも咲は見ちゃったよ。 妊婦は心身ともにデリケート
今度は咲が流産したらどうするの?と脅かしておこう
しっかりしてよ亮介。 
妻帯者の身、他の女性に優しい過ぎるのは誤解の元だよ

やばい!

亮介さんと芽衣さんの事情はわかったけど
なんか、かなり懐かれてヤバいんじゃない?
人助けの優しさを勘違いされちゃった…みたいな。

そこを咲ちゃんに見られちゃ、ヤバいを通り越して
絶体絶命・・・言い逃れできない。
隠したいことほど何故かバレる。e-447

大田君も覇気がなくて、なんかヤバそうだし…。

問題山積み・・・亮介に明日はあるのか?ってオーバーかしら。。。

うーーん(--;)

なんだか嫌な予感。お礼を言われた。プレゼントも渡された。もうこのへんで終わりにしないと。

芽衣に違う気持ちが芽生えてしても、答えられないのだから
亮介のほうできちんと言わないといけないな。

咲だけじゃない、誰が見てるか分からない
祥子さんのことでも分かるでしょ。

怪しいと思われることは慎まなくちゃ。

理由はこうです

拍手コメントさん、こんばんは!


>そうか、そういう理由でしたか…

そうなのです。
そこからためらいが出てしまい、ここまで来てしまいました。


>でもでも芽衣さんに対しては毅然とした態度をとってほしいなぁ(>_<)

そうです、おっしゃる通り!
さて、深見夫妻、この山をどう解決させるのか……は、次回へ続きます。

優しさは罪です

ナタデココさん、こんばんは!


>妻帯者の身、他の女性に優しい過ぎるのは誤解の元だよ

おっしゃる通り!
ちょっとしたきっかけから、少しずつズレを生じている芽衣とのこと。
その辺の微妙な空気を、亮介はわかっているのかどうか。

それは次回へ続きます。

『もう、何やってるのよ!』

そんな感想を持ってもらえたら、私はPC前でニコニコです(笑)

まずいよね……

mamanさん、こんばんは!


>そこを咲ちゃんに見られちゃ、ヤバいを通り越して
 絶体絶命・・・言い逃れできない。
 隠したいことほど何故かバレる。

はい、バレました。
さて、咲はどうするのか、亮介はどうするのか……は、
次回ヘ続きます。


>問題山積み……

そうなのです。この作品には3つの山が隠れてるんですよ。

気付かないとね

yonyonさん、こんばんは!


>芽衣に違う気持ちが芽生えてしても、答えられないのだから
 亮介のほうできちんと言わないといけないな。

そうなのです。
自分の感じている温度と、相手の温度はどうも違う。
亮介はそこらへんに、気付いているのかどうか……
それは次回へ続きます。

まだ、山が控えてるんだからねぇ……(笑)

う~ん、なるほど

そんな理由があったのね・・・

でもどんな理由があったにせよ
ただ助けただけの間柄なんだったら
お礼が済めばそれで十分なはず。

その後何度も会いに来るっていうのはちょっと考えもの!

芽衣の態度が少し気になってはきてるみたいだけど
彼女に対して強く出るのをためらってしまう亮介さん
キッパリとした態度で臨む事ができるかしら・・・


それにしても咲ちゃんは大丈夫かな?
心の安定が何より大切なこの時期
亮介さん、お腹の赤ちゃんのためにも
あんまり不安にさせないでね~

理由…

なるほど、そんな理由だったのか…
咲にしても、芽衣にしてもどちらも避けたい話だものね。
亮介の優しさなんだけど…
まぁ、それにしてもなんとタイミングが悪い事!
神様(ももんたさん)はいけずだわぁ。。。
亮介の優しさが仇になってしまったぁ!?
隠し事はやっぱりバレルのよ~
咲にも、芽衣にもハッキリと事の次第や
亮介の気持ちを伝えなければダメよ。

新メンバー加入まで…80日
三つの山越えは大変だぁ
ファイティン!亮介&咲

なるほどね~・・・

ももちゃん流の「話の交差」が出てきたわね!

あっちを立てればこっちがたたず・・・間に立って思い悩む男が一人・・・

いづれは咲にも芽衣にも、ちゃんと理由を話すときが来るのでしょうが、どちらかを傷つけることは避けられない状況だわね。

今の私は長谷川になってます^^
彼の動向を見守るだけだわ・・・

やっと追いつきました^^;
次回から、リアルタイムで読めるわ~~!

亮介ったらねぇ

バウワウさん、こんばんは!


>芽衣の態度が少し気になってはきてるみたいだけど
 彼女に対して強く出るのをためらってしまう亮介さん
 キッパリとした態度で臨む事ができるかしら・・・

ねぇ……。
こじれないうちに、ちゃんと解決していかないと。
亮介がどんな行動を取るのかは、次回でしっかり確認して下さい。

咲にしたらね、信じていてもやはりショックはあるはず。
そこらへんも……

優しいんだけどね

Arisa♪さん、こんばんは!


>咲にしても、芽衣にしてもどちらも避けたい話だものね。
 亮介の優しさなんだけど…

そうなんですけどね。
亮介の優しさが、へんちくりんな誤解を生みそうです。
いや、私が作ってるのですが(笑)

咲と亮介が、ちゃんと話せるのか、
さらに誤解が誤解を生むのか……は、続きをお待ち下さい。

キャー、しっかり見ちゃダメ!

なでしこちゃん、こんばんは!


>ももちゃん流の「話の交差」が出てきたわね!

キャー! また分析されてる。
いいの、いいの、読み流して!(笑)

どちらかを傷つける……そうだなぁ
そこらへんは、次へ続くのです。

リアルタイムじゃなくてもいいけど、一気読みは大変だよ。
無理なく適当にどうぞ

不安倍増

yokanさん、こんばんは!


>やっぱり、隠し事はいけないね、余計に不安になる。
 しなくてもいい心配をしなくてはならなくなる・・・

だよね、隠したという行為が、たいしたことじゃなくても、
不安を倍増させるわけなんだから。

さて、二人はどうなるのでしょう。
これからもよろしくお願いします。