12 その後、どう? 【12-1】

12 その後、どう?


【12-1】


「では、おやすみなさい」

「また明日」

「はい」


ひかりは祥吾に頭を下げると、そのまままっすぐに歩き出す。

祥吾もひかりに背を向けて歩き出したが、数歩歩いたところで振り返った。

この間立ち寄ったコンビニの前を、素通りしていくひかりが見える。

祥吾もあらためて前を向くと、マンションに向かって歩き出した。





前日に、『鳥居堂』に出かけたひかりが、

孫の翔に見せられた『フェラル』の記事について、

約束通り祥吾が内容をまとめ、企画部全員に配ることになった。

日本では筆記具として、まだ鉛筆が地位を確保できているが、

外国では子供でもボールペンを使って授業を受けているため、

文房具に対してそもそもの考え方が、違っている。


「消せるボールペンという商品が登場して、
日本でも『鉛筆と消しゴム』を敬遠する学生が増えていると聞いた。
手が汚れるとか、色々と理由はあるらしいが……」


話をしている祥吾を見ながら、ひかりは昨日、一緒に並んで帰った時間を思い返す。

思いがけない『見合い』をした日は、互いに何も知らないままで会うことになったので、

どちらかというと『不足』部分ばかりが目に入ったが、

こうして少しずつ相手を知っていくと、あの時間に取った態度の一つずつまで、

納得出来るようになってくる。


「ネットがあるおかげで、外国の商品にも手が届きやすい。
今の消費者は、国内、国外関係なく、自分にとっていいものを選ぶことになる。
『鳥居堂』のように……」


極端に気持ちを傾けると、予想外のことが起こって哀しくなるからと、

ひかりは自分の空想に、ストップをかけ続けているが、

時間を共有すればするほど、祥吾自身に惹かれていくことも否定できず、

どこかに可能性があるのではないかと、小さな期待をまた1段階膨らませてしまう。

最初はどうなるのかと迷っていた祥吾の、堂々とした雰囲気に、

ひかりは嬉しい気持ちを隠せなくて、つい笑顔になった。



その日の帰り、ひかりが、片付けを済ませ廊下に出ると、

部長の吉川と立ち話をしていた祥吾が、『それでは』と挨拶をしていた。

ひかりも吉川に頭を下げ、そのままエレベーターに向かう。

下りは行ったばかりだったため、ひかりが後ろに下がり窓から外を見ていると、

挨拶を終えた祥吾が、『エレベーターを待つ人たち』に加わってくる。

『第1』から『第5』までが同じフロアにあるため、数人だった社員は、

また増えていく。

ひかりはあまり待っている場所から外れていると、

乗れなくなるかもしれないと思い少し前に出た。

扉が開き、少しでも早く帰ろうと思う社員達が、どんどん乗り込んでいく。

タイミングを計ったわけではないが、ひかりは祥吾と隣に並び、

1階まで降りることになった。

エレベーターは定員の3分の2くらいの人を乗せ、下へと向かっていく。


「今日は、ありがとうございました」


祥吾の顔が横を向く。


「『フェラル』です。こういう内容だったのかと、わかりましたし」


ひかりはきちんと要約してくれたことに対して、祥吾に感謝の気持ちを告げた。

祥吾は、自分自身も読んで、みんなに必要だと感じたからしたことだと、

そこまで大変ではなかったよと、ひかりに言い返す。


「『鳥居堂』でも言われました。これからは世界各国から商品が入るって。
つまりそれは、ライバルが世界だという意味なのでしょうね。
でも、私は、あの一覧に載っていた商品に、気持ち、動かないですけどね」


ひかりは『文房具大好き人間』としてと、言葉をつけ加える。


「企画をする立場としては、当然研究すべきでしょうけれど、
色の選び方も、形も、日本人には日本人の感覚かなと……」


祥吾は、ひかりのつぶやきを聞きながら、横に並んで歩く。


「浅井は、どうして『KURAU』を選んだの?」

「エ……」


二人はエレベーターを降り、そのまま『KURAU』を出る。

同じ駅を使い、同じ駅に帰るため、並びながら歩いた。

祥吾の質問を受けたひかりは、横断歩道の前で止まる。


「そういえば、そうです。でも、『サイノ』の試験は最初から受けませんでした。
『KURAU』に入りたいと思っていただけで、他のことは全然……」


ひかりは、文房具を好きになったのは、『KURAU』のおかげだからと、

笑顔になる。


「私、一人っ子なので、小さい頃はよく絵を描いたり、
物語みたいなものを書いたりして遊んでいて。
母に、よく『クラウブック』を買ってもらっていました」

「あぁ、あの5色セットのノートね」

「そうです。小学生のくせに、『破れないからこれ』って言って」

「ほぉ……すごいなそれ」


祥吾は、『なかなかだな』と笑う。


「いや、だって、くだらないものとはいえ、自分が書きますよね、何かを。
で、消そうとしたら結構、破れちゃうんです、他のノートって。
あ、ほら、消しゴムの力の入れ方って、子供にはわかりにくいでしょう」


ひかりは、当時から『KURAU』の製品は、とにかく質が良かったと、祥吾に話す。


「確かに。質がいいし、『KURAU』が出したものは長く世に出続ける」


祥吾は、自分も学生時代から色々と使ってきたと思いながら、改札を通っていく。

その後ろにひかりが続き、二人は並びながら階段を降りた。


「あ……そうそう、言いました、私面接で。
私は幼い頃から『KURAU』の商品を使ってきて、その歴史を自分がさらに、
つないでいきたいです……みたいなこと?」

「そんなふうに言ったんだ。結構、壮大だな」


祥吾とひかりの前に電車が到着し、扉が開く。

降りる人がいなくなり、二人は車内に入ると、当然のように横に並ぶ。

電車はガタンガタンと音をさせながら、動き出した。

夕焼けの残る街の中を、1つ、2つと駅を通過する。


「最上さんはどうして『ボルノット』なんですか?」


ひかりはそれならばと、今度は祥吾に質問を返した。

祥吾は、大学時代の研究課題の中に、『ボルノット』ならば出来るという、

そんな考えを持ったことを思い出す。

ひかりはすぐに『これだ』と出てこない祥吾を見た。


「……どうしてなのかな」

「ん?」

「なんて言いませんよね、今日は」


ひかりは、『お見合いの日、そう言いましたよね』と笑う。


「あ……そうか、まぁ……」


祥吾は『研究していたことが生かせると思ったからね』と、返事をした。


「そうか……最上さん技術系ですもんね。突き詰めたくなる性格だって、
前に話してましたし……」


まだ祥吾が『第2企画部』に打ち解けていない時、『プライント』に出かけ、

職人にあれこれ質問したことを思い出す。


「浅井は、『ランキングノート』書いてたもんな」

「あ……はい。当時、歌のランキング番組があって、自分で勝手に……」

「どちらかというと、目が消費者視点だと言うことだろう。使い心地を気にするあたり。
俺はすぐに分解するから、作り手の方なのかも」


祥吾の分析に、ひかりは『スタート』が違いますねと笑顔を見せる。

そんな二人が今、同じ会社にいる。

ひかりはそう思うと、おもしろいものだなと考え、前の景色を見た。


【12-2】



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