12 その後、どう? 【12-4】


【12-4】


「『かをり』の前で別れたのに、驚きましたよ。私よりも前を最上さんが歩いていて。
何かあったのかと思って聞こうとしたのですが、急にしゃがみ込んでしまって」

「あ……そうなんだ」


祥吾はテーブルの上に置かれたくしゃくしゃのちらしを見ながら、

崩れてしまう前の時間を思い返す。


「いや、浅井と別れた後にさ、マンションに戻ってきた女性が、不審者が出て、
女性に抱きついたとかそういう話をしていたから、俺……浅井が戻れたかと心配になって、
で、走って……」

「不審者がですか」

「うん……」


祥吾はそう言った後、自分が寝ていたベッドを見る。

ここに来た記憶もないのに、しっかりと体は横になっていた。

しわになったシーツを伸ばし、かけてくれた布団も元のように戻す。


「浅井に会ってよかったと思って、部屋に戻るつもりがこんなことになっていたなんて。
ごめん、申し訳ない。俺が一番の不審者だ」


祥吾はそういうと、大きく息を吐き、頭を下げる。


「お酒を飲んだのに、思い切り走ったりするからですよ。
救急車呼ぼうかなとも思いましたけど、池さんが、顔色が良くなってきているから、
寝かせておけば大丈夫だろうって……」

「あのさ」

「はい」

「池さんは……えっと、もしかしたら浅井の彼とかか?」


祥吾は、偶然会ったようなことを言っているが、じつは違うのではないかと思い、

確認するように聞き返す。


「彼? あはは……やだなぁ、最上さん。池さんは隣の男性です。
というか、このマンション、各階に3つ1LDKがあって、2つ2LDKがあるんです。
池田さんはうちの隣のご家族で、
小学校に上がったばかりの息子さんがいるお父さんですよ」


ひかりは、とても優しいご夫婦なので、ご近所付き合いをしていますと説明する。


「息子さんがこの春、小学校に入学したので、
私、うちの『鉛筆セット』をプレゼントして」

「あ……そうなんだ」


祥吾は、池田さんは体が大きくて、仕事が大工をしていると、ひかりから教えてもらう。


「そっか……じゃぁ、その方がここまで」

「はい、連れてきてくれました」

「逆に迷惑かけたな」


祥吾の言葉に、ひかりは『いいえ』と明るく言い返す。


「よかったですね、私の前で具合が悪くなって。知らないところだったら、
気づけなかったですし」


ひかりは冷蔵庫に向かうと、中から『ビタレモン』を取り出した。

それを正座している祥吾の前に置く。


「はい、どうぞ」

「ん?」

「これ、私の酔い覚ましです。気分がよくなったら、飲んでください」


ひかりはそういうと、自分がかけていた毛布を畳み始める。


「あ、それともお水の方がいいですか?」

「いや……いいよ」


祥吾は『ビタレモン』の瓶を一度持つが、テーブルに置く。


「クッ……」


何かがおかしいのか、ひかりは笑いをこらえながら、祥吾に背を向ける。


「何?」

「いえ、すみません。不審者のことを話すつもりで来てくれた最上さんが、
一番不審者だって、今自分で言っていたじゃないですか、聞いた時よりも、
今になってなんだかおかしくて」


ひかりは楽しそうに笑いだし、それを見ていた祥吾も、自然と笑みを浮かべてしまう。


「でもよかった……何もなくて」


祥吾の言葉にひかりは『はい』と返事をする。

互いに視線が重なり、思わずすぐにそらしてしまった。

祥吾は自分がつかんできたちらしをバッグの中に押し込み、

『ビタレモン』を持つと立ち上がる。


「こんな時間になって悪かったな、もう大丈夫だから帰るよ」

「はい」


ひかりは『気をつけて』と声をかけ、祥吾の顔を見る。

祥吾も『うん』と頷き、靴を履くと、ひかりのマンションを出た。





『浅井……』



祥吾が帰ってから、ひかりはお風呂を入れて、湯船につかりながら膝を抱えた。

祥吾と楽しく『かをり』で食事をして、お酒も飲んだ。

それだけでも楽しい時間だったのに、『不審者』という情報を聞いた祥吾が、

自分のためにかけつけてくれた。

具合が悪くなってしまったけれど、それだけ必死に来てくれたという証拠でもあり、

ひかりの気持ちは、さらに膨らんでいく。

いつものように、何かが起きたことを、自分勝手に思い込むと、

その後、がっくりさせられることが多い。

そう必死に頭を振って、気持ちを整えようとするが、嬉しさの方が勝ってしまい、

自然と笑顔が出てしまう。

ひかりはにやけそうになる顔を何度もお湯で洗いながら、来週からも頑張ろうと考えた。





マンションに戻った祥吾は、ひかりからもらった『ビタレモン』をテーブルに置いた。

元々、それほどお酒が強いわけでもないが、飲んだら走るのがよくないということより、

ひかりが大丈夫だろうかという思いの方が強く、必死になっていた。

声が聞こえ、顔を見た瞬間、緊張の糸が切れたようになり、

気づくと、ひかりのベッドで横になっていた。

『誰かのため、何かのため』に必死になることなど、近頃なかったことなのにと、

『ビタレモン』に触れる。

そういえばと思い出し、携帯を開くと、唯からのラインがさらに増えていた。

祥吾はそれを開き、確認する。



『来週の火曜日、時間を空けて欲しい』



祥吾は携帯の中にあるカレンダーを見る。

『ボルノット』を辞めることで、話の途中で別れたような唯と、

一度は向かい合うべきだろうと思いながら、ラインの返事を打ち始めた。





『KURAU 創業50周年記念企画』


来年、『KURAU』は創業50年を迎えることになる。

その企画の詳細が、週明け月曜日の朝、吉川部長から発表された。

秋に選抜メンバーを選び、商品が決定するのが春。

さらにそれを商品化して売り出すのが、来年の秋の予定だ。

まずは企画部全員がふさわしいと思える企画を提出し、

それを上の人間が判断することで、メンバーが決定する。


「現在12名いる部員から、最上を含めて5名が選ばれる」


吉川部長は、左手を開き、5人だというアピールをした。


「男女の比は関係ない。とにかく企画で選出するので、頑張って欲しい」


12名の企画部員は『はい』と答え、詳細が書かれた用紙が渡された。


【12-5】



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