12 その後、どう? 【12-5】


【12-5】


「企画か……」

「うん」


その日のランチタイム、もちろん話題はここだった。

ひかりは復刻商品とのバランスがあるから、どう迫ろうかとパスタを口に入れる。


「進歩を目指すか、改良を考えるか」

「うん……」


小春は雄平に褒めてもらえたものの、企画を考えるのは難しいと言いながら、

パスタをフォークで丸めていく。


「企画の良さで選ぶのかな、それともアイデアかな」


智恵はそういうとひかりに『どう思うか』と尋ねる。


「12人いて、最上さんが決まっているとなると、まぁ、順当に考えたら、
山内さんとか高坂さんでしょう。私たちより若いけれど、
鈴本君も結構アイデアマンだし」

「そうだね」

「だとしたら後は智恵さんじゃない? そうだよね、よく考えたら無謀よ」


小春は考えるだけ無駄になりそうだと、ため息をつく。


「無駄になってもいいじゃない。私は考えるのが楽しい」


ひかりはそういうと、パスタをくるりと回す。

智恵も『そうだよ』と言いながら、ちゃんとやりなねと小春を見る。


「わかってます」


小春もそう答えると、アイスティーをストローで吸い込んだ。





以前、『鳥居堂』から渡された『フェラル』の展示会には、

いつも声をかけてもらう雄平と、祥吾が出席することになった。

祥吾はその後、このために東京に来ると話している唯に会って、

自分の正直な気持ちを語ろうと考える。

そんな祥吾の気持ちなど知らないひかりは、月曜日の午後、

新商品の評判を聞こうと思い、『慶西大学』の購買に顔を出した。

お店の女性からは、売り上げが伸びていること、

使い方のレクチャーが欲しいという声が出てきたことなども、教えてもらう。


「レクチャーですか」

「そうなのよ。意外に、使えているようで使い切れていないみたいよ。
電子文具って。格好だけで揃えてみたけれど、結局ってね」


購買の女性は、わかっている機能しか使わないで、便利さを味わえないまま、

使わなくなる人も多いと教えてもらう。

ひかりは、今度イベントで出すブースに、

こういったことがフォロー出来る人も加えるべきだと考えた。

ありがとうございますと購買を出て、レンガの道を歩く。

すると、どこからか『おーい!』と呼ぶ声が聞こえてきたので、

ひかりは振り返ってみるが、誰もいない。


「上だよ、上!」


ひかりが上を見ると、佐竹が窓から顔を出し、おいでと手招きしていた。





ひかりは佐竹の部屋に向かう間、以前、祥吾とここに来た時には、

祥吾がまだ自信の無い状態だったが、今はとても頑張っていることなど、

話をしようと思いながら、階段を上がった。

扉を叩くと、すぐにどうぞと声をかけられる。


「お邪魔します」


ひかりが顔をあげると、以前とは違い、そこに1人の女性がいた。

その顔を見たひかりは、すぐに『鳥居堂』で会った、『立花さん』と気づく。


「こんにちは」

「こんにちは」


唯もひかりを覚えていたのか、すぐに挨拶をしてくれた。

佐竹が座りなさいと言ったので、ひかりは『はい』と言いながら、中に入る。


「立花、彼女は……」

「『KURAU』の社員さんですよね、以前、『鳥居堂』でお会いしました」

「おぉ、そうか」


ひかりもそうですと頷いてみせる。


「祥吾の……部下ってことですよね」


唯は『祥吾』と呼び捨てにして、自分の存在を前に押し出した。

ひかりは以前、ここで名前を聞いていたため、それを素直に受け止める。


「立花唯です。『ボルノット』時代には、私も祥吾の部下でした」

「はい」


ひかりは、あらためての挨拶に、頭を下げる。


「浅井さん……だったよね」

「はい」

「最上はその後、どう?」


佐竹はそういうと、コーヒーを入れ始める。


「最上さんは、しっかり『KURAU』の中に入って仕事をしてくれています」


ひかりは、『祥吾の現在』は、以前と違いとても前向きだとわかるように、

答えた後、唯を見る。


「最初は『ボルノット』から来たと言うことに、少し警戒心があったことも事実ですが、
最上さんはどんなふうに『ボルノット』で仕事をして、つまずいたのかも、
正直に話してくれました」


ひかりの言葉を、唯は『あの祥吾が』と思いながら聞き続ける。


「ただ、上から目線のエリートではないことがわかって、
そこからは一気に打ち解けられました。みんな心の底から最上さんを信頼していて。
最上さんも私たちの意見を、ちゃんと聞いてくれています」


ひかりは、祥吾をはじき出したという『ボルノット』の、

さらに、元彼女である唯の前で、あえてそう強気にコメントを出した。

祥吾は、そちらにいたときのように、迷って暮らしてはいないと前を向く。


「そうか、あれからあいつがここに顔を見せていないから、
おそらくうまくいったのだろうとは思っていたが、よかった。なぁ、立花」

「……はい」


唯はそういうと立ち上がり、佐竹の手伝いをする。


「手伝いなんていいから、お前は座っていろ」

「でも、先生」

「明日、最上に会ったら、何を話すのかちゃんと決めたのか」


佐竹の言葉に、ひかりは唯を見る。


「それは、会ってから考えます」

「まぁ、そうだな、あれこれ構えても仕方がない。
会えさえすれば誤解も消えるだろうし」


ひかりは、唯が祥吾と会うために東京に来たのだと言うことがわかり、

二人の会話から、祥吾も会うつもりになっているのだということを知る。


「浅井さん……ついでに聞くが、最上に新しい女性の影はありそうかい?」

「先生……」


唯は『どういう質問をするのか』と、佐竹を見る。


「ん? 何照れているんだ、お前の聞きたいところはそこだろうが」

「違います、先生」


佐竹は、もちろんひかりの心の中など知らないため、遠慮なく聞いてくる。

ひかりは、何を答えていいのか、どういう態度を取ればいいのかわからないまま、

視線を動かした。

唯は『すみません、くだらないことを聞いて』とひかりに謝る。


「いいえ……」


ひかりは唯の顔を見た。

自分を知ってくれているという佐竹のそばだからか、

前回、『鳥居堂』で会った時よりも、唯は明るく、

さらに自信を持っているように見えた。


【13-1】






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