13 念を送っているだけです! 【13-1】

13 念を送っているだけです!


【13-1】


「ほら、コーヒーだ、立花も浅井さんも飲んでくれ」


佐竹の言葉に、ひかりは『ありがとうございます』と頭を下げ、

両手でカップを持つと、コーヒーを飲み始める。

飲んでいるものの、気持ちは隣にいる唯だけに向かっているため、

正直、味の状態はよくわからない。

唯は携帯を取り出し、何かに気づいたのか画面を開いた。

すぐに文字を打ち込むと、送信のボタンを押す。


「祥吾からでした……」

「ん? 連絡か」

「はい。明日の場所をってラインが来たので、
せっかくなら『おしゃれなところにしてね』と、返信しようと思って……」


唯はひかりをちらっと見た後、そう言った。

ひかりはその視線には気づけないまま、カップを持ち、

とにかくコーヒーをのどに押し込んでいく。


「互いに時間を空けてしまったから、色々とごちゃごちゃしているけれど、
でも、祥吾も少し落ち着いたみたいですし、今、私がここに来ている意味を、
わかってもらえると思って話をしてきます」

「うん……」

「どうしても、彼を失いたくないので……」


ひかりは、止まることがない唯の言葉を聞きながら、必死にコーヒーを減らした。

ここに来てコーヒーを飲むと、どうしてなのかいつもせかされてしまう。

唯の遠慮が見えないまっすぐな言葉が、

ここのところ少しだけ上向きになったひかりの気持ちに、

矢を刺すように向かってくる。


「はぁ……」


ひかりは、ほぼ一気に近いくらいの速さでコーヒーを飲み終え、カップを置く。


「ごちそうさまでした。これで……」

「ん? おいおい、君はいつも早いな」

「すみません、この後、立ち寄らないとならない場所がありまして……」


ひかりはそういうと佐竹に頭を下げる。

唯の方を見ると、すぐに視線が重なった。


「お邪魔しました、失礼します」


ひかりがそう言うと、唯は軽く頭をさげた。

ひかりはバッグを抱えるように持ち、教授室を出る。

階段を途中まで降りると、バッグの中を覗く。

以前、佐竹のところで落とした『ひかりのお守り』は、しっかりと中にあった。

ひかりは『ふぅ』と息を吐き、さらに階段を降りていく。

その遠ざかる音を聞いていた唯は、座ったまま、窓から見える懐かしい景色を見る。


「先生」

「ん?」

「今、この時に東京に来ることが出来たのは、私の勘だと思います」


唯はそういうと、カップに口をつける。


「勘?」

「はい……」


佐竹は、自分のコーヒーをカップに注ぐ。

それを持つと、唯の前に座った。


「どんな勘だ」

「もちろん……女の勘です」


唯はカップをテーブルに置いて立ち上がると、窓から下を見る。

レンガで舗装された道を、ひかりが走っていく姿があった。





『立花唯』



祥吾自身にあれこれ聞いたわけではないが、届く情報から、

二人が過去に付き合いがある間柄だということは、ひかりにもわかっていた。

勤務中にラインが来て、待ち合わせの場所が決まろうが、

『ただの部下』であるひかりに、何か言う資格はないのだが、

出来たら聞きたくなかったと思いながら、『KURAU』への道を進む。

社内に戻ると、雄平と小春が同じテーブルに座り、アドバイスを聞いていた。

小春の嬉しそうな顔を見たひかりは、書類をまとめながら、前にいる祥吾を見る。

PCを開き、何かを打ち込んでいた祥吾は、視線を横に向け携帯を手に取った。

その画面を見ながら、何やら指を動かしている。

ひかりは、その祥吾の仕草を見ながら、

唯と、また連絡を取っているのだろうかと考えてしまうことが嫌で、

まっさらなレポート用紙を持つと、誰もいないテーブルに一人で座った。

祥吾に背を向けた形で座るひかりに、コーヒーを飲もうと立ち上がった智恵が、

『どうしたの』と声をかける。


「ん? 何?」

「何じゃないでしょう、いつも座らないよね、ひかりはそこに」


智恵は、照明の向きからして反対じゃないのかと、ひかりに尋ねた。

ひかりは『気分転換』かなと、強引に笑顔を作る。


「ふーん」


智恵はそういうとひかりの前を通り、廊下に出た。

ひかりはレポート用紙を見つめ、なんとなくコーヒーカップの絵を描き始める。

佐竹が出してくれたカップには、小花の柄がついていたため、それも加えた。

角砂糖にポーションミルク。隣に座っていた唯は、何も入れない状態で飲んでいた。

佐竹との親しさももちろんあるのだろうが、唯は堂々としているように思え、

『祥吾』と呼び捨てにすることにも、躊躇がなかった。

たとえ過去でもそばにいられた人と、そんな可能性すらあるのかどうかわからない自分。

唯が握りしめていた携帯電話の形を思い出しながら、

ひかりはレポート用紙に描いてしまう。


「山内」


祥吾の声が聞こえ、ひかりの手が止まる。


「はい」

「明日の『フェラル』の展示会、俺、その後直帰させてもらうから。
資料の持ち帰り、頼んでもいいか」

「あ……わかりました」


祥吾は、明日出かけた時にもらうようなものを、会社に持って帰って欲しいと、

雄平に頼んでいた。『直帰』という言葉を聞きながら、

ひかりは唯と会うためなのだと思い、そこまで描いていた絵の紙を破り、

とにかくぐしゃぐしゃと丸めていく。


「珍しいですね、最上さん……直帰だなんて」

「ん? ちょっと予定があって」


祥吾は『よろしく頼む』と言いながら、携帯を持ったまま廊下に出て行った。

ひかりはその姿を見た後、今度はレポート用紙に角のある鬼の絵を描き始める。

祥吾がプライベートに何をしようが、誰と会おうが自分が意見を言える立場ではない。

それは十分わかっているのに、どこに落ち着けたらいいのかわからない思いが、

ふてくされるという態度に出ていることが、あまりにも幼稚で腹立たしく、

ひかりは鬼のイラストを、どんどん描き進めた。


【13-2】



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