13 念を送っているだけです! 【13-3】


【13-3】


『アルモンテ』


先に着いたのは祥吾の方だった。

携帯を開き、特に遅れるという知らせがないため、祥吾は唯を待つ。

こうして顔を合わせるのは、福岡を出てから初めてになる。

大学時代から先輩と後輩の付き合いがあり、気づくといつもそばに唯がいた。

自分に憧れていると話し、いつも寄り添ってくれ、

社会人になり、互いに特別な存在だと意識していたはずなのに、

祥吾が会社での立場を危うくすると、唯との間にも亀裂が入り始めた。

ライバルになった海渡が、いつも祥吾を目の敵にしたのは、

間違いなく唯の存在があったからで、唯自身も追い出される祥吾に愛想を尽かし、

海渡を選んだのだと思っていただけに、正直、この時間が不思議にも思えてくる。

携帯から視線をあげると、自分の前に向かってくる唯の姿が見えた。





「今日は飲みたいの」

「ここでなら飲んでもいいけれど、ちゃんと帰れるのでしょうね」

「タクシーを呼びます、いざとなったら」

「何よそれ」


『かをり』に入ったひかりは、いくつかの料理を注文すると、

サワーをジョッキで1杯、一気飲みに近い形で飲んでしまう。

グラスを置き、氷だけしかない景色を見続けているひかりに、

華絵は、これは何かがあるなと思いつつ、無理に聞き出そうとはしないことにする。

おしぼりを並べ、小鉢を並べながら、ひかりが口を開くのをただ待つことにした。

ひかりはジョッキを横に置き、今度は料理の入った小鉢を見る。

割り箸を割って、小鉢の中のひじきの煮物をつかむと、口に入れた。

ひかりの口は、どれほど堅いものを食べたのかというくらい、長く動き続け、

やっと飲み込む動作を見せる。

お酒は一気に減ったのに、料理は一口が長く、なかなか減らない。


「華絵ちゃん」

「何?」


やっと話し始めるのかと、華絵はひかりを見る。


「元彼女ってさ、どれくらいの威力があるのかな」

「元、彼女?」

「そう……昔お付き合いした人。色々あったとしても、
嫌いで別れたわけではないのなら、やり直したいと思うものなのかな」


ひかりの言葉に、華絵は荷物が置かれた一番端の席を見る。

この間、ここに座っていた祥吾に振られたのだろうかと考えながら、

洗ったお皿を拭いていく。


「私ってさ、付き合っていると思っていたのに、相手にとっては全然そうじゃなかったり、
酔っぱらって状態で、見合いサイトに登録して、
アンケートにウソばっかり書くようなダメ人間だもんね……」

「ひかり……」

「最上さん……今頃、元カノに会っているの」


ひかりは、そこで大きくため息をつく。


「そんなことさ、知らなければよかったのにさ、仕事で行った『慶西大学』で
その人に会ってしまって。で、話の流れで知っちゃった」


『祥吾……』


祥吾のことを名前で呼んだ唯の姿が、あの日のコーヒーの苦さとともに、

ひかりの中に蘇ってくる。


「立花唯さん。綺麗な人だった……頭もよさそうで。
あ、そうだよね、『慶西』だもん。最上さん、忙しいのにちゃんと時間を取って、
彼女に会っている」



『浅井……』



「この前、ここで一緒に食事したでしょう。あの後、不審者が出たって聞いたからって、
最上さん、私のこと追いかけてくれて、心配してくれたりするからさ」



『ごめん、申し訳ない。俺が一番の不審者だ』



「私、単純だから……もしかしたら少し……ほんの少し、
気持ちを持ってくれているのかとか、考えちゃって。ダメだと思うんだよ、
違うって言い聞かせようとするのに、どんどんポジティブになるの」

「うん……」


華絵は、ひかりの愚痴に『聞いているよ』という意味の『うん』を、

そこで初めてつけた。大丈夫、ひかりの味方だよと、わかってもらうために。


「少しだけ料理もするようになったけれど、追いつかないよ、華絵ちゃん。
もっと、『いい女』になりたいのに、全然……間に合わない」


ひかりはそこまで気持ちを吐き出すと、『はぁ……』と大きくため息をつく。

店内にいる客から注文が入り、華絵はひかりの前から横に動く。

ひかりはジョッキの下で少しだけ溶けた氷の水を、また飲もうとする。

ほんの少しだけお酒の匂いがする水が、ひかりの喉を通過した。

華絵は元の場所に戻ってくると、ひかりが飲んでいたものをもう一度出してくれる。


「はい。今日は特別。私が見張っていてあげるから」


華絵の声に、ひかりは顔を上げる。


「ひかり……女は恋で成長するの、綺麗にもかわいくにもしてくれる。
『いい女』になりたいという気持ちがあれば、その思いに、いつか追いつくから」


華絵はそういうと、『今日だけは……』とひかりに声をかける。

ひかりは新しいジョッキを両手で握り頷きながら、抜けていく炭酸の泡を見続けた。





「『KURAU』で頑張っているのね、佐竹先生もよかったって話していたから」

「出てきた頃に、ちょっと愚痴を言いに行ったからね」


祥吾は注文したコーヒーに口をつける。

唯と向かい合えば、

もう少し、懐かしさや、愛しさのような思いが出てくるのではと考えていたのに、

今はどうなのか何をしているのかという問いかけも、

知ろうという思いがないのか、浮かんでこない。


「祥吾が『ボルノット』を辞めると聞いた時からずっと、
どうしたらいいのか悩んでいたの。あのままあの地位に居続けても、
みんなと、溝は開くだけのような気がしたし」

「うん……」


唯は自分に勇気が無かったのだと、祥吾に頭を下げた。

自分が橋渡しになっていたらもっと違った展開になれたのにと、当時を振り返っていく。


「いや、俺自身の考え方が、悪かったのだと思う。
もっとみんなと向かい合えばよかったんだ。個人の能力を尊重しようとしすぎて、
自分自身が干渉されることが好きではないから、それでいいと思い込んでいた」


祥吾は、1日、1時間が長かった日々を思い返す。


「それに気づかせてくれたのは、今いる『KURAU』なんだ。
最初は、試験を受けたときも『何も肩書きのない場所で』と頼んだのに、
蓋を開けたらチーフポジションだったから『またか』という思いはあった」

「それはそうなるでしょう。祥吾は『ボルノット』での実績が……」

「そんなもの関係ないよ」


唯は自分の意見をすぐに否定した祥吾の態度に、驚くような顔をした。


【13-4】



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