13 念を送っているだけです! 【13-5】


【13-5】


水曜日の朝の目覚め、ひかりはテーブルにビタレモンを置き、一気に飲んだ。

結局、『かをり』で2時間くらい眠り続け、

回復した頃、華絵にタクシーで、ここまで送り届けてもらった。

ジョッキとはいえ、軽めのサワーなので、そこまで飲んでいないはずだったのに、

祥吾が唯と会うことを知ってから、そのことばかり頭の中にグルグル回っていて、

思考回路が疲れていたのか、部屋に戻ってからもとにかく爆睡だった。

そのおかげで、なんとかこうして朝、目覚めることが出来ている。


「ふぅ……」


ビタレモンを飲んだので、元気になれるのだと信じ、

ひかりは立ち上がり、大きく背伸びをする。

落ち込んでいても、愚痴を言ってみても、現実は変わらないのだと空気を吸い込み、

会社に向かう支度をし始める。

『50周年企画』の詳細もわかり、色々と頭を巡らせないとならないが、

『スライドペン』と『Paratto』のコラボを推し進めるため、

営業部が考えてくれた、大学生イベントでの流れを知る打ち合わせが、

今日から始められることも、発表されている。

ひかりは歯磨きをしながら、顔を数回叩く。

何度も冷たい水を顔にかけ、気持ちをなんとか入れ替えた。





「営業部から来ました。武田です。これからイベントのブースについて、
説明をさせていただきます」


文具を企画し、商品をして作り上げていくのは企画部の仕事だが、

売り出してからのイベントを企画するのは、営業部の仕事になる。

そのブースの中心となったのは、『鳥居堂』でも話題に出された武田輝之だった。

ひかりとは同期入社であり、しかも同大学卒業という縁がある社員だ。

今回は、『新商品』ということもあり、商品に詳しい企画部から、

数名ブースの応援を出すことになっていた。

7月になると、季節がいいからなのか、大学のスポーツイベントがあちこちで行われる。

その中のいくつかに絞り、『KURAU』は商品の体験ブースを出し、

魅力をアピールすることになっていて、

朝早くからイベント会場に出て、仕事をしなければならないという条件に、

『50周年企画』に時間を使いたいメンバーからは、声がなかなか上がらない。


「何人出せばいい」


話を聞いた部長の吉川がそう言うと、輝之は指を2から3と出した。


「部長、それなら私が……」

「いや、最上はダメだ。お前にこっちの打ち合わせから出られると、あっちが動かない」


硬直状態の中、輝之の視線を感じたひかりは、

ここは仕方が無いなと思い、『はい』と名乗りを上げた。

自分が『Paratto』を作り上げてきたこともあるし、リーダーとなる輝之も同期になる。


「お……さすが浅井」


輝之は、ほっとした表情で、ひかりに『よろしく』と頭を下げる。

ひかりは輝之に軽く頭を下げると、すぐに目の前に座る雄平を見た。

雄平は一度視線を外したが、それでも全くぶれないひかりの視線を感じたため、

『はぁ』と軽く息を吐く。


「それなら俺も」


ひかりの訴えかける目の力に、先輩の雄平が声を出した。

すると小春の手も、すぐに上がる。


「はい……」


イベントブースに参加するのは、ひかりと小春、そして雄平の3人と決まった。

その日のランチは、その話題になる。


「武田さん、ひかりと同じ大学なんだ」

「そうなの。まさかこのリーダーに任命されているとは思わなかったからさ。
誰も立候補しないし、だから仕方がないなと思って手を上げたけれど、
二人でもいいのなら、私、下りようか?」


小春は雄平と2人の方がいいだろうという意味で、そう返す。


「ダメだって、ひかりがいるからちょうどいいの」

「何、そのちょうどいいって」


ひかりは、『ひどくないですか』と智恵に同意を求めていく。


「まぁ、2人だと緊張するからという小春の気持ちも、わからなくはないけれど、
営業部もいるわけだし」

「そうだけれど」


小春は、ここのところ雄平と話す機会が増えて嬉しいのだと、

メニューを見ながら、ニコニコと笑う。

恋に前向きになる小春を見ながら、ひかりは少しうらやましくなった。

祥吾も最初、参加しようとしてくれていたが、それはダメだと、

すぐに吉川から止められた。同じ立場で話が出来る雄平とは、自由さが違う。


「で、どうなの? 二人は企画案進んでいる?」


智恵はそういうと、私はなかなかなんだよねと声に出す。

小春は『智恵さんが悩むなんてめずらしね』と、お冷やを飲んだ。


「思い入れが強いからかな……」

「思い入れ?」

「そう、選ばれたいし」


智恵はそういうと、『これにする』とメニューを閉じる。

ひかりは、『全く浮かんでいない状態が続いている』とぼやきながら、

お手拭きの袋を開けた。





「ということで、このあたりにブースが出来ます」

「はい」


それから3人はイベントに出すブースの説明を受けながら、打ち合わせを行った。

商品を体験してもらい、その正しい使い方、効率のいい使い方など、

大学生に教えていく。SNSなどを使いこなす学生に広まれば、

CMをうつくらいの効果があると、輝之を始めとした営業部員たちは鼻息を荒くする。

ひかりは当日の動き方をメモに取り、待ち合わせ場所などしっかりと聞いた。

イベントの打ち合わせを色々と聞いているうちに、終業時間が終わってしまう。


「おい、浅井」


席に戻ろうとしたひかりは、輝之に声をかけられた。

『何?』と返事をすると、いきなり両手を握られる。


「なぁ、絶対に成功させるからな、これ、俺の出世、かかってますし」

「は? 出世って何」

「俺、広報に配置転換の願いを出しているから」


輝之はそういうと、ひかりの手を離し壁に寄りかかる。


「広報に?」

「あぁ……色々とアイデアはあるんだ。でも、営業だと少し違う。
今回のこのブースイベントで、いい成果を上げたら、上司が推薦すると約束してくれた。
だから絶対に成功させたい」


ひかりは輝之が大学時代から、学園祭などにも積極的だったなと思いながら、

『頑張ろうね』と声に出す。


「お前はどうなんだよ、企画部」

「頑張っていますよ、なんとか……」

「『須美川の奇跡』だろ」


輝之はそういうと、楽しそうに笑い出す。


「同じ大学を出た武田に、どうしてそういうことを言われるわけ?
営業部まで知れ渡っているんだ」


ひかりは吉川の前の部長はおしゃべりだったと、輝之と同じように壁に寄りかかる。


「うちはエリートとは言えない大学だからね。名前を言うと、
『あ……バレーが有名ですね』とか、『通学には便利ですよね』とか、そんなのばかりだ。
でも、だからこそ、仕事の実績が全てだと、俺は思っている」

「うん」

「浅井が一緒ならさ……俺も自然と必死になれるし」


輝之はそういうと、『じゃあな』と言いながら、ひかりの頭をポンと叩く。

ひかりは、輝之は学生時代の雰囲気と変わらないなと思いながら、企画部に戻った。


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