14 何か頑張りましたっけ? 【14-1】

14 何か頑張りましたっけ?


【14-1】


輝之と立ち話をしていたおかげで、ひかりが戻った企画部の中は、

すでに解散状態だった。

取引先からの電話を待っている高坂や、他にも仕事がある数名が残っているが、

特に予定のないひかりはバッグを持つと、『お先に』と声をかけ企画部を出る。

今日はスーパーに立ち寄り、何か材料を買ってと思いながら歩くと、

後ろから近づく人の気配がしたため、振り返った。


「お疲れ……」

「あ……お疲れ様です」


その気配は祥吾のもので、帰ろうとしたひかりと、並びながら歩くことになった。

祥吾とひかりは、同じ駅を利用している。

ここから1時間近く、二人になれるチャンスがあった。

ひかりは横に立つ祥吾を見ながら、

『昨日は、立花さんとどんな話しましたか』という言葉を出しそうになるが、

それは聞けないと口を閉じる。


「どうだった営業部。何か妙なことを言ってきたか?」

「いえ、妙なことは。リーダーの武田君は、私の同期なので」

「あ……そうなんだ」

「はい。この仕事が結構需要らしくて、
今も廊下で『頼むぞ』とプレッシャーをかけられました」

「重要?」

「広報部に異動願いを出しているようで」

「確かにイベントブースだからな、成功すれば実績になる」


祥吾は、複雑な気持ちを抱えているひかりの思いには気づかないまま、

さらにどんな内容だったのかと聞き出そうとする。


「まぁ、週末のイベントがどういうもので、どんなことをするのか、
そんな大まかな流れを……あの……」

「ん?」

「詳しい話なら……それなら山内さんから聞いた方が……」


ひかりは、私より確実に説明がうまいと思うのでと話す。


「あ、いや、うん。だいたいどんなことをするのか知りたかったからさ、
もちろん山内には明日、きちんと聞くけれど、浅井となら、こうして帰りの時間に、
ささっと聞けるだろう」

「あ……はい」


ひかりは、並んで帰れることは正直嬉しいと思いながらも、

祥吾の言葉に、『帰り道のついでで便利だ』と言われた気がしてしまう。

祥吾自身にはそんな『ついで』という思いはなく、

というよりも、営業部の話も本来どうでもよくて、ただそれを利用して、

ひかりと一緒に帰ることが出来ればと考えているだけだった。

仕事の片付けをしながら、ひかりのバッグがあることもわかっていたため、

タイミングがあうように、出てきている。

エレベーターを待ち、そこから下に降り、駅に向かう。

そういえば以前もこんなことがあったなと思いながら、祥吾は隣にいるひかりを見た。

これから1時間、何を話そうかと考える。

唯には、勘違いされるのは困ると思い、自分の気持ちを正直に語ったが、

ひかり自身の気持ちが、自分に向いてくれるのか、そこには確固たる自信がないため、

少しでも共通点を持ちたくて、『一緒に帰るタイミング』を計った。

ひかりと祥吾、互いに違った気持ちを抱えたまま、改札を通る。


「商品を出した時にも話した『paratto』の空白部分を、
『スライドペン』ならどういかせるのか、そのあたりをアピール出来たらな」

「あ……そうですね」


駅のホームで並び電車を待つ間、ひかりは気づかれないように何度も祥吾を見た。

祥吾は立場上、ひかりにブースのことをどんどん聞いてくる。

ひかりは、『ちょっと待ってください。私にも聞きたいことがあるんですよ』と

言いたくなるが、それは当然言えないまま、時間だけが過ぎていった。

イベントブースの話も、言い尽くしたところがあり、互いに静かになってしまう。


「あ……あのさ、浅井」

「はい」

「実は、この間のお礼をしたいと思っていて」

「お礼?」


祥吾は酔ってしまって、迷惑をかけてしまった日のことだと説明する。


「ほら、お前言っていただろ、隣の池さん……だっけ?」

「あ、はい」

「お子さんのいる方だと聞いたからさ、これからの時間なら、挨拶くらい出来るかなと」


祥吾は時計を見ながら、もう奥さんかご本人がいるだろうかとひかりに尋ねる。


「そうですね、8時も過ぎれば……」

「そうだよな、なら……」


祥吾は、どこかうつむき加減のひかりを見る。


「それなら、それまで……どこかで食事でもしようか」


祥吾は、その『8時』を迎えるために、ひかりを食事に誘う。

ひかりは単純に誘われたことが嬉しくなり、『はい』と返事をする。


「浅井とあれこれ話していたら8時になるだろう。だから、なぁ……」


祥吾としては、ひかりが身構えず、自然と食事に行けたらと思い、出した言葉だった。

確かに、『食事をしようか』という台詞を、受け取ったひかりは、

一瞬、頂点まで昇るようなウキウキ気分になったが、

『8時』という区切りの時間を出されたことと、昨日、唯と会ったはず……という、

暗い情報が重なり、『いいですか、これからついでに食事』をするのですよ、

妙な考えは持たないようにしてくださいと、しっかり釘を打たれた気がしてしまう。

それでも、一緒にいたい気持ちが優先され、ふてくされて断るなんて選択肢は、

もちろんひかりにはなくなってしまう。


「悪いな、付き合わせて」

「いえ……」


31という年齢を迎え『本来、仕事も恋愛も出来る男』でないとならない祥吾は、

実際『自分から誘う』というコミュニケーション上手ではないため、

気を遣ったつもりが、余計な情報を入れてしまうし、

本来、ポジティブで明るいはずのひかりは、唯という存在にすっかりおびえ、

『らしくない想像』に、がんじがらめになってしまう。


「手土産ありそうな店って、どこかにあったかな」



『おしゃれなところにしてね……と』



祥吾が、『手土産』という、本題は池さんへの謝罪だと言えるような台詞を出したことで、

ひかりは唯が言っていた台詞を思い出してしまう。

自分は彼女でも元彼女でもない、ただの部下なのだから、

おしゃれな店ではなく、『ついで』なのは当たり前だと考える。


「駅前の、ビルの中にある小さな洋食店、結構美味しいですよ。
その前にケーキ屋さんがあるから、そこでお土産買ったらどうですか?」


ひかりは、祥吾の気持ちは祥吾のものだと思い、お店を指定する。


「あ、うん、そうしよう」


ひかりと食事が出来ること、

一緒の時間を過ごせることをメインと考えている祥吾にとって、

違った意味で『店はどうでもいい』ため、その提案を受け入れた。


【14-2】



コメント、拍手、ランクポチ、参加をお待ちしてます。★⌒(@^-゜@)v ヨロシク♪

コメント

非公開コメント