14 何か頑張りましたっけ? 【14-2】


【14-2】


お店に入り、互いに向かい合うと、それぞれが注文を済ませていく。

お冷やも前に置かれ、ついてくるサラダも2つ揃った。

ウエイトレスがいなくなり、祥吾はひかりを見る。

こうして向かい合って食事をするのは、『かをり』での時間を含めると4度目だった。

嫌がられたことはないため、嫌われているとは思えないが、

上司と部下という微妙な関係があるので、どこまで前向きなのかはわからない。


「どうだ、企画案は……」


祥吾は、仕事のことを前に出し、ひかりの気持ちを探ろうとする。


「あ……まだ具体的には。そうだ、すみません、ちらしいただきました。
色々とアイデアが書かれていたので、参考にします」

「あぁ、うん……」


祥吾は、アイデアのアドバイスくらいなら出来るのではないかと言いそうになるが、

なんとなく強制的になりそうで、その話題を止める。

上から目線にならずに、

ひかりが話をしてくれるためにはどうしたらいいのかと考えながら、

祥吾は静かな時間を回避しようと、横に置いた携帯を見た。

何か新しい話題でもあれば、それをと思う動きだったが、

ひかりは『また唯と連絡を取ろうとしているのかも』と、考えてしまう。


「営業部の武田君は、『鳥居堂』の会長に、結構好かれているんです」


ひかりの口から出ていったのは、同期になる輝之のことだった。

祥吾は、携帯を横に置く。


「あの会長は、どうも男性社員が好きみたいで。山内さんも昔から好かれていて、
よく、宴会に来るように誘われたり……」

「うん」

「えっと……」


元々、話すつもりがない状態で、いきなりスタートダッシュしたため中身はない。

話し出したのは、祥吾が携帯を見るという行為をして欲しくないと思った、

ひかりのせめてもの抵抗だった。

しかし、言葉が続かないため、妙な空気感になる。


「すみません、どうでもいい話でした」


ひかりは以前のように、祥吾とスムーズに話が出来ないのは、

本当は心の底から『聞きたいこと』があるのに、

それを無理矢理押し込んでいるからだと思うものの、

聞き出す勇気は出せないため、妙なタイミングで止まってしまう。


「いや……うん」


祥吾は、とりあえず言葉を返すだけになり、そこに料理が届けられた。

『8時』には行く場所があるため、食べることが優先になる。

祥吾は、ひかりの、どこか違和感のある態度を見ながら、

本当は、こうした時間を望んでいなかったのかと思い、

申し訳ない気持ちが前に出てしまう。

『8時』を目指した二人の食事会は、今までで一番盛り上がりがないまま終了し、

祥吾は手土産を買うと、挨拶をするためひかりのマンションに向かった。

階段を上がり、そのまま池田家のインターフォンを押す。

返事が聞こえ、扉が開くと、池田の奥さんが二人を迎えてくれた。


「こんばんは、隣の浅井です」

「あらひかりちゃん、どうしたの」

「すみません……」


祥吾が事情を話し、ケーキの箱を出すと、

奥さんはそんなことはいいのにと言いながらも、気持ちを理解して受け取った。

中から小学生の子供が顔を出し、ひかりに手を振ってくる。

ひかりは『こんばんは』と声をかけ、男の子は恥ずかしそうに母親の背中に隠れた。

奥さんに一緒にお茶でもどうぞと進められたが、それは大丈夫ですと断りを入れる。

数分間のお礼は、問題なく終了した。

扉が閉まるのを確認すると、祥吾はひかりに『ありがとう』と言い、

そのまま階段を降りようとする。


「浅井」

「はい」

「悪かったな、無理に誘って」

「エ……」

「お前、なんだか疲れているように見えたから」


祥吾は、自分が無理に誘ってしまったことを謝り、また階段を降りていく。

1歩ずつ遠ざかる祥吾を見ながら、

ひかりは『そうではない』ということをいうつもりで、階段を降りていく祥吾を追った。


「最上さん!」


ひかりの声に、階段の踊り場で祥吾は振り返る。


「疲れていたなんてことはないです。食事に誘っていただいて嬉しかったですし。
でも……」


ひかりは『でも……』という言葉を出した後、口を閉じる。

こんなこと、いくら思っても言うべきことではないと必死に考えながら、

祥吾を見てしまう。


「でも……って」

「いえ……」

「なんだよ、お前らしくないぞ。そんなふうにされたら逆に気になるし。
仕事の悩みとか、困っていることとかあるのなら聞くから」


祥吾は、それこそ自分が言いたかったことだと言うように、ひかりを見た。

悩み事や困ったことがあるのなら、頼って欲しいという気持ちが、

自然と祥吾の視線に出てしまう。

ひかりは『せっかくの関係を失いたくない』という気持ちで、

この微妙な時を交わそうとするが、もやもやした気持ちのままでは、

企画なんて全く浮かばないと思い始める。

部屋に戻り、チューハイの缶を開け、ただ酔い続けているだけでは、

どうにもこうにもならない。


「月曜日……」

「うん」

「『慶西大学』の佐竹先生のところで、またコーヒーをごちそうになりました。
そこに立花さんが来ていて。すみません、私以前、最上さんと一緒に行ったとき、
立花さんという方が、最上さんのお付き合いをしていた人だと知ってしまって、で、
あの……」


ひかりは『何を言ってしまったのか』という気持ちで、困った顔をする。

祥吾は佐竹と唯が一緒にいたという話を聞き、

おそらく自分の話が出たのだろうと、そう考えた。

ひかりは祥吾の表情が曇ったように思え、やはり余計なことをしたと、

そこから体を反転させる。


「すみません、余計なことです」


ひかりは、その言葉だけを残し、部屋に戻ろうとする。

祥吾はすぐに反応し階段を上がると、部屋に逃げようとするひかりの腕をつかんだ。


「すみません、私……」

「待てって。余計かどうかなんて聞かないとわからないだろう。
ちゃんと思っていることがあるなら、聞いてくれ!」


祥吾の大きめな声に、何かが起こったのかと思ったマンションの住人が、

ガチャンと扉を開けた。祥吾とひかりはすみませんと謝罪する。

向こうも、バツが悪そうにすぐ扉を閉めた。


「どこか……話せる場所に行こう」


祥吾の言葉に、ひかりは覚悟を決めて一緒に階段を降りていく。

マンションを出ると、数メートル先にバス停があった。

役所に向かう路線のため、今日の運行はすでに終了している。

祥吾がベンチに座ったので、ひかりもそのまま横に座った。


【14-3】



コメント、拍手、ランクポチ、参加をお待ちしてます。★⌒(@^-゜@)v ヨロシク♪

コメント

非公開コメント