14 何か頑張りましたっけ? 【14-3】


【14-3】


「昨日、『フェラル』の展示会に行くとき、山内が言ったんだ。
浅井がなんだか知らないけれど、世の中の店が全て閉まるくらいまでかけて、
隅から隅まで見てこいと言ったって。もしかしたらあいつ、
行きたかったんですかねって、笑って」


祥吾はそういうと、ひかりを見る。


「俺も、そのときには意味がわからなかった。
でも、浅井との付き合いが長い山内が、企画で悩んでいるのかもしれないと、
そう言っていたから、仕事のことだろうと単純に考えた。
だから、今日もそんな話が出たらと……」


ひかりは今更ながら、自分で余計なことばかり言ってしまったと下を向いた。

世話になっている雄平にまで、わけのわからないことを言い、困らせている。

以前、小春が雄平に対して気持ちを言い出せない意味を、

『ゼロ』にしたくないからと言っていた。

ひかりは今日、ここで自分は『ゼロ』になってしまうと思いながら下を向き続ける。

もう、隠そうとしても、その気持ちには気づかれていると思い、

ここからどうするべきかと目を閉じた。


「唯……いや、立花さんと俺が会う話を、浅井は聞いたと……」


祥吾の言葉に、ひかりは黙るしかなかった。

あれほど余計なことはしないと決めたのにと、両手を握りしめ、

ここから逃げ出したいと考え始める。


「聞いたんだよね」


祥吾の繰り返しに、ひかりは黙ったまま頷いて返事をする。

こうなったらもう、覚悟を決めるしかないと思い、顔を上げた。

最初の日、あの見合いの日のように。

悪いのはウソをついた……ではなく、人のプライバシーに突っ込んだ自分だが、

ここまで来たら、知ることは知っておきたい。

大事な時期に、イジイジと悩み、『50周年記念』の企画が出せないのは嫌だと、

ひかりは気持ちを決める。


「はい、聞きました。立花さんが最上さんに会いに来たのだと。
それを私が考えるべきことではないこともわかっているのに、すごく気になって……」


『気になった』というひかりの言葉に祥吾は頷き、

『確かに会った』と唯との再会を認める。


「立花さんとは、大学の先輩後輩で、佐竹教授にも互いにかわいがってもらった。
俺の研究を見て、知って、彼女も『ボルノット』を選び、一緒に仕事をするようになった。
距離も近いし、考え方も似ていると思って、自然と付き合いだしたけれど……
それはもう……終わったことだ」


祥吾はそういうと、『終わり』を認め合うために会ったと言い、ひかりを見る。


「『ボルノット』で色々とあって、正直、息苦しい場所から逃げ出したい一心で、
『KURAU』に来た。それが本音だ。でも、『KURAU』に入ったことで、
相手だけではなく、自分自身も足りないところがあるのだと、
あらためて自分自身を見ることが出来た。ここでやっていきたい、
やっていける、頑張れると思ったのは……」


祥吾の視線が、ひかりを見る。


「……浅井が……君がいるからだ」


ひかりは数秒遅れて『エ……』と声に出す。


「そうか……少しは気づいてくれているのかなと思っていた。
不審者情報に必死になったのも、こうして、今日も帰りの時間が合うようにしたのも……
浅井じゃなければ、君じゃなければしないことだし……」


祥吾は『ふぅ』と息を吐く。


「初めて強制的に見合いをした時は、話をした通り突然だったから、
何もわからなかったけれど、時間を重ねていくたびに君が気になった。
最初は、急に縁があったからではないかと考えたけど、でも、
自分自身が楽になれていることに気づいてからは、間違いじゃないなとそう思えて。
だから、彼女にも……立花さんにもきちんと話をした。思う人がいると言った」


ひかりの思考回路は、完全にストップしていた。

祥吾は今、自分に告白をしてくれている。

それは勘違いでも思い過ごしでもない。

少しずつ変わる、祥吾の顔の表情や、意味なく動かす手、

赤くなっている耳を見れば、間違いない事実だった。

ひかりは『はぁ……』と大きく息を吐く。


「どうした」

「たくさん溜まっていたものが、全部今、出て行ったような。
もやもやしていたものが全部です。でも……」


ひかりは祥吾を見る。


「私……何か頑張りましたっけ?」

「は?」


ひかりは自分自身の行動を振り返りながら、

何か、祥吾が自分を好きになってくれるきっかけがあっただろうかと考えた。


「才色兼備ではもちろんないですし、自他ともに認める美人でも……」


ひかりは見合い相手に祥吾が出した条件を、なぞろうとする。


「それは、叔母が勝手に書いただけで、俺が出した条件じゃないぞ」

「あ……そうでした」


ひかりは『それでも、料理も下手だし、女子力がない』と、自分を分析する。


「『ハチーズ』、くれただろ」

「はい」


祥吾は、ひかりが見合いの日、謝罪のために出した『ハチーズ』のことを話す。


「見た目は確かに『なんだろう』と思うくらいなのに、味わってみたら、
中身がとても美味しかった。人に渡す土産ものって、見た目とかで選びがちだろ、
でも、格好にこだわらず、『本物』を出すところが、浅井のいいところだと思う」


祥吾は、そういうと笑顔を見せる。


「山内が言っていた。浅井が仕事で失敗をしたとき、企画部の連中は誰一人責めず、
お前をなんとかフォローしようとしたって。取引先に名前を覚えてもらい、
いつも前向きに受け入れられるのも、同僚とうまくやれるのも、
お前がちゃんとみんなを思って行動している証拠だし、みんなも浅井のいいところを、
きちんと知っているということだ」


祥吾は、ひかりが歓迎会の日、そして『プライント』に向かった日、

いつも周りにいい流れを作ってくれたことを思い出す。


「自分にないものを持っている人に惹かれるのは……ごく自然のことだと思うけどな」


祥吾はそう言うと、ひかりを見る。


「俺は、浅井のそういうところが、大好きだと……そう思って……」


祥吾はひかりの顔を見る。


「いつ、話そうかなとタイミングを考えていた」


祥吾の正直な言葉に、ひかりは自分の両頬を手で挟み、マッサージするように、

動かしていく。


「何をしてるんだ」

「ここのところ、自分の顔が少し凝り固まっていた気がするので」


ひかりはそういうと、急におかしくなったのか笑い出す。


「はぁ……」


ひかりは今度は大きく息を吐き、そのまま下を向いてしまった。

祥吾は、笑ったり、下を向いたりするひかりの行動に、

いいのか悪いのか、どう捉えたらいいのかと、頭がグルグル回り出す。


「なんだか、ウソみたいな話です」

「ん?」

「あの日、私たち急にお見合いすることになって。印象は最悪だったのに……」

「そうだな、そういえば」


ひかりは祥吾の方を向く。


「確認していいですか?」

「確認?」


この場におよんで、何を確認するつもりだと、祥吾は身構えた。


【14-4】



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