15 馬鹿なこと言うなよ! 【15-2】


【15-2】


その頃、雄平は昨日に引き続き、『平総合病院』に向かっていた。

昨日、駆けつけた時には、小春の調子がまだ戻っていなくて、

話をするような状態ではなかったため、病院の関係者に状態を聞いただけで、

帰るしかなかった。さらに正式に食中毒が発表されたことで、警察も動き、

状況はさらに慌ただしくなる。

雄平はあらためて小春の病室を探す。

4人部屋にいるということがわかり、それなら回復に向かっているのだろうと、

少しだけほっとした。

扉を開けて中を覗くと、窓側のベッドで眠っている小春が見えた。

雄平はゆっくりと静かに中に入り、小春の寝顔を見る。

横に座って起きるのを待っていると、小春が驚くのではないかと思い、

一度廊下に出てきて時間つぶしの本を開く。

30分くらい読み進めた後、もう一度部屋に入っていくと、

さきほどとは違って、目を開けて横向きになっている小春の姿があった。


「島津……」


雄平の声に、小春が振り返った。

病院の入院用の服を着ていることもあり、胸元が乱れていないかと心配する。


「ごめん……少しは気分、よくなったか」

「あ……はい。すみません」


小春は体を起こしながら、『ご迷惑をかけました』と雄平に謝ってくる。


「何言っているんだ、お前が迷惑をかけているわけじゃないだろう」


雄平は、本来なら自分がなっていたことなのにと、言い始める。


「そんなふうに思わないでください、山内さん」


小春は、椅子のそばにあったカーディガンを羽織る。


「お弁当を用意した武田さんも、今朝、ここに来てくれましたけれど、
武田さんの責任でもないですし。本当に、偶然、たまたまこうなっただけです。
私に体力がもっとあったら、もう少し……」

「お前、それは……」

「でも、同じものを食べて、病院だけの人もいましたし」


小春は、そういうと下を向く。

雄平もどう答えていいのか黙ったため、静かな時間が1分ずつ積み重なっていく。

隣のベッドの女性は何か買い物をするつもりなのか、財布を持ち立ちあがる。

雄平はちょうど目が合ったため、軽く頭を下げた。


「私、ずっと……自信がなくて……」


沈黙の時間を破ったのは、小春だった。

雄平の視線が、小春に戻る。


「自信?」

「はい。私、入社してすぐ配属されたのは、『第1企画部』で、
第2とは違って、オフィス家具のエリアなので、設計とか技術系の方が多いし、
みなさん、どんどん意見を出してぶつかって……。私はなかなかそれが出来ずに、
気づくといつも黙っているばかりで」


ひかりと同期入社の小春だが、『第2企画部』に入ってきたのは、

今から2年前のことだった。そのため、雄平がひかりの教育係だったような、

直接の縁を持った先輩が、『第2企画部』に存在しない。


「納期の相談で出かけた第1の先輩が、急な大雨で電車が不通になって帰れなくて。
一緒に、仕事をしていた同僚に、言われたことがあるんです。
『足止めになることがわかっていたのなら、島津に行かせたらよかった……』って」


小春はそういうと、辛かった『第1企画部』でのことを思い出すのか、

口をしっかりと結んだ。雄平は、いつも前に出ようとしない小春の心の奥を、

初めて見ることが出来た気がして、『なんだよそれ』というツッコミも出来ないまま、

黙ってしまう。


「私だけではないんです。男性社員が女性社員に対して、なんかこう、
何を言ってもいいような雰囲気が、『第1』にはどこかにありました。だから、
『そんなこと』とうまくかわせる人は、かわせるのだと思いますが……」


小春は雄平に『何か飲み物でも買いますか』と聞いてしまい、

雄平は大丈夫だという意味で首を振る。

外では鳥のさえずりが聞こえ、時々、人の笑い声も入ってきた。


「私は、その台詞をまともに受け取ることしか出来なくて、
その人は重要なのに、役に立たないお前がどうしてここにいるんだってことだとそう……。
そんな出来事を繰り返していたら、それから何をしようとしても、
いつも思うようになりました。『私って……』って。だから、今回も、
『よかった、具合いが悪くなったのが山内さんじゃなくて、私で』って、内心……」

「馬鹿なことを言うなよ」


雄平は、そんなこと思うことないだろうと小春を見る。


「第1の誰だよ、島津にそんなこと言ったの」


小春は黙って下を向く。

『誰だ』と叫んで見たものの、小春が言わないことも雄平はわかっていた。

雄平はバッグから資料を取り出すと、小春の前に出す。


「第1の連中がどういう人間なのか、俺は最初から第2だから細かくはわからない。
でも、少なくとも、うちにはそんなことを島津に言う人間は存在しない。
今の島津は『第2』の、ちゃんと戦力だ、それでいい」


雄平はそういうと、小春を見る。

もっと、何か励ますような言葉をかけるべきかどうなのか考えるが、

うまい具合に浮かんでこない。


「見本が、明日会社に届くから。さっさと元気になって戻ってこい。
お前がいないまま、俺一人で決めないからな。あ、それに、この時間を使って、
ちゃんと記念企画も考えろ。俺……」


雄平は立ち上がる。


「明日もあさっても、退院するまで帰りに寄ってやるから、
ちゃんと仕事のことを考えているのか、チェックする」


小春は『毎日寄る』という言葉を聞き、『エ……』と声に出す。


「浅井も、細川も待ってるぞ。さっさと治したら『退院祝い』をしに、
『たきのや』に行くからな」

「……はい」


小春はあらためて雄平を見た。

自分の辛い過去を、初めて雄平に話せたこと、思っていたとおり、

それは違うと否定してもらえたことが、小春は嬉しくなる。


「ちゃんと治せよ」


雄平の言葉に、小春は『はい』としっかり頷いた。





小春を含め、数名の『食中毒』を出してしまったこともあり、

イベントは成功したと言えるのに、輝之の異動は見送られた。

ひかりはそれを知り、輝之はどうしているだろうかと考えながら歩く。

コンビニにコーヒーを買いに行く途中で、うつむき加減の輝之を見つけ、

小走りに追いつくと、いつもの通りにしようと、元気よく声をかけた。


「おはよう、武田!」

「おぉ……」


いつも元気な輝之は、そこにはいなくて、

力の抜けた状態のまま、ひかりの横を通り過ぎる。


「ちょっと、何落ち込んでいるのよ。武田らしくないでしょう」


ひかりはそういうと、輝之の前に回る。


「今回のことは、武田の責任じゃないでしょう。異動は見送られたけれど、
やったことの評価はちゃんとされているはずだし」


ひかりは自分なりに、励ましの言葉が出せたと、返事を待った。

しかし、輝之からはすぐに言葉が戻らない。

一度視線が合い、それがそれた後、数秒後。


「単純だな、浅井は」

「……単純?」

「そうだ、責任がどうのこうのではなくて、結果が全てなんだ。
イベント会場での『食中毒』騒ぎだぞ、いくら学生の集まりがよかったって言っても、
上にはいい印象なんてあるわけがない。ダメだということには変わりが無いよ」


輝之はそういうと『ついてない』とため息をついた。


【15-3】



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