15 馬鹿なこと言うなよ! 【15-5】


【15-5】


「どうも」

「お世話になっています」


その頃、『鳥居堂』の改装店舗に顔を出した3人は、『苦手』の孫、

翔に挨拶を済ませるところだった。宗太郎は翔を自分の跡取りだと紹介し、

上機嫌に話している。


「『Paratto』の効果かな、『スライドペン』もじわじわ伸びているね」

「ありがとうございます」


ひかりは頭を下げると、さりげなく雄平の影に隠れて立った。

気ばかり遣うこの時間は、出来たらさっさと終わらせたい。


「この店舗の上は、以前、倉庫にしていたのだけれど、流通事情も変わって、
そこまでストックを持たずに商売できるようになったから、教室を開くんだ」

「教室ですか」

「今流行の『水彩画』とか『絵手紙』とか、曜日代わりであれこれね」


翔はそういうと、3人を連れて階段を上がる。

ひかりは階段に飾られている絵画を見ながら、一番後ろを進んだ。

翔は扉を開け、3人を中に引き入れる。


「今回は、『KURAU』の商品から、色々と揃えさせてもらっています」

「ありがとうございます」


輝之は、テーブルから画材まで、揃っている状態を見ながら、頭を下げる。


「でも……」


翔は棚を開けて、別のものを取り出した。

そこには『KURAU』のライバル、『サイノ』の商品が並んでいる。


「じいちゃんが揃えたからこうなったけれど、俺ならこっちだね」


3人の前で、翔は『サイノ』の方が上だとハッキリ言い始めた。

ひかりは『サイノ』は確かにスタートがインク業者だったので、

画材やペンなどは昔から評判がいい。


「うちにも営業マンとかを頻繁に寄こして、結構、売り込みしてくるよ。
『KURAU』はさ、どこか受け身で、積極性がないよね」


翔はそういうと、雄平や輝之を見る。


「うちの力をなめていると、本当にひっくり返すからね」


翔は『脅かしているわけじゃないよ、駆け引きだ』と言いながら、

デスクの周りを動き、最後に雄平の後ろに隠れているひかりをしっかりと見た。





「いやぁ……ここはいい眺めだな、祥吾」


友則は祥吾の部屋に入り、すぐにバルコニーへ出ると、夜風を受ける。

祥吾はバッグをソファーに置くと、窓の枠に手を置いた。


「叔父さん、で、何があったんだよ」


祥吾は、何もなければ友則がここに来ることはないだろうと思いながら、

ネクタイを緩めて、首から取っていく。


「しばらくここに、間借りしようかと思ってね」

「は?」


友則は、住んでいたマンションから出てきたと言いながら、

バルコニーから中に入り、今度は冷蔵庫の中に入っていたコーヒーを持つと、

勝手にプルを開ける。


「いや、間借りって、貸す部屋ないし」

「いいよ、この辺でごろっとすれば……」


友則は『細かいことは気にするな』と豪快に笑う。


「全くなぁ、女なんていうのは気持ちがコロコロ変わるんだ。
今まで散々素敵だとか言っていたくせに、急に嫌になったとか言い始めて。
なら出て行けと叫んだら、それなら出て行くけれど、
荷物を作るのに時間がかかると言いやがった。なら、俺が先に出ると叫んで……」

「ようは同居人と喧嘩をしたわけだ」

「まぁ、そうだな、簡単に言えば」


友則は缶コーヒーを飲むと、ソファーに座る。


「だったら、今川家に戻ればいいだろう。もう俺も出たし」


祥吾はスーツを脱ぎながら話す。


「どうしてあの場所に戻るんだ。俺は愛美と離婚したんだぞ」

「そうかもしれないけれど……」


祥吾は『それにしても、ここはおかしいだろう』と言いながら、

脱いだものをハンガーにかけていく。


「ほぉ……さてはお前、女だな」


友則はそういうと、缶をテーブルに置き、

部屋のどこかに女性の気配が無いかと探し始める。


「ないよ、そんなもの」


祥吾は、馬鹿馬鹿しいと思いながら、着替えるために奥へ入ろうと思ったが、

そういえばと思い出し、バッグから携帯を取る。

過去の失敗を生かし、とりあえず自分から離さないようにした。


「あいつが出て行くまでの2、3日と思って出てきたけれど、
いや、いいねぇ、あの女将。『かをり』があるのなら、俺がここに住んでも。
祥吾、お前があっちに戻るか」

「自分勝手なことを言わないでくれ。やっと荷物も片付いて、これからって時に……」

「これから?」


友則が、『これから』の言葉に反応したため、祥吾はすぐに視線を外す。


「とにかく、勇也には連絡しておくから、今川家に戻れって」


祥吾はそういうと、あらためて友則を見る。


「あのなぁ、祥吾。男と女は複雑なんだ。
愛美とは、これからも適当な距離があった方がうまくいくんだよ。
一緒に住むと、互いに見なくてもいいものを見てしまう」

「叔父さんが、しなくてもいいことをするからだろうが」


祥吾は、友則が浮気をするからこうなるのだと、そう訴える。


「男として生まれてきたのに、つまらないだろう」


友則の『それが当然だ』というような台詞に、祥吾はしょうがないなという顔をする。


「とにかく数日間で出て行くから、そんなに邪魔扱いするなって」


友則はそういうと、何か着るものを貸してくれと、祥吾に声をかけた。





「叔父さんですか」

「あぁ……ほら、お見合いの担当になった今川愛美、あれが叔母で、
昨日突然転がり込んできたのが、その旦那……いや、元旦那の叔父になるわけ」


一緒に帰ることが出来なかったひかりと祥吾は、ラインで連絡をすると、

朝の通勤時間を合わせることにした。祥吾は『かをり』に行き、

華絵さんをすっかり気に入っているという情報も、付け加える。


「そうなんだ、華絵ちゃんを」

「まぁ、あの女将さんなら、気に入らない人がいるのかというくらい、
魅力的だろうけれど……」


祥吾のつぶやきに、ひかりの視線が上がる。


「ん?」

「いえ……そうだろうなと」


ひかりは以前なら流せたような台詞が、『関係性の変化』によって、

逆に意味深に感じることもあるものだと、吊り輪をつかみながら考える。


「あ、そうだ、どうだった、『鳥居堂』」

「はい、とにかくあれこれ自慢されました。どこかから輸入した時計がどうのとか……。
イタリアの町を歩いていて、偶然見つけた絵がどうのとか……。
それに、倉庫の空きを改修して、上に教室を作ったそうなんです。
一応、一揃え『KURAU』でスタートしたけれど、これからの態度で、
絵の具も他の道具も、業者変更するからねと、半分脅されてきました。
武田も、苦笑してましたし……」

「教室ね」

「はい、絵画教室とか、切り絵教室とか、あ、そうだ、ラインナップの表、
いただきましたよ」

「まぁ、向こうは買い手だからな。そりゃ、言いたいことを言うよ」

「そうですけど、あの孫。なんか鼻につきます。
宗太郎さんも強いことを言っていましたけれど、逆に私たち企画関係には、
よくアドバイスもくれましたから」


ひかりは、上からだけではなかったと、宗太郎との思い出を振りかえる。


「アドバイス?」

「はい。私にもよく教えてくれました。品揃えはどう考えてやるのかと。
作り手の欲ばかり出していると、消費者の不満が見えなくなるぞって」

「うん……」


祥吾は隣同士に立ちながら、ひかりの話を聞き続けた。


【16-1】





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