16 これでいいのか、違うのか? 【16-2】


【16-2】


『『KURAU』の計算された商品戦略』


『ボルノット』の社員食堂で、唯はこの特集記事を読んだ。

最初こそ、のんびりとした売り上げで、それほど効果があると思えなかったが、

一緒に使う商品『Paratto』が登場し、一気にその使いやすさと楽しさが広がった。

カラーや形状にも工夫がされていて、大学生から火がつき、

今や、色々な企業からも注目を浴びていると、締めくくられている。

『ボルノット』にいる時には、互いが牽制し合い、

他のメンバーがどう考えているのかなど、理解し合うことがなかったが、

以前、祥吾から聞いた通り、『KURAU』では、それぞれの中に入り、

一緒に掛け合わせていく仕事が出来ているのだと、この売り上げを見て納得が出来る。

唯自身が求めるような自分はいないと宣言した祥吾だったが、

どうしようもないのだと割り切ろうとしても、心の中には闇に近い感情だけが残り、

唯は毎日、何も手に着かないような日々を送っていた。

立ち上がり、雑誌を手に取ると、それをゴミ箱に入れる。

そしてそのまま廊下を進み、いつも仕事をしている場所から、離れていった。





「どうだ、うまいだろ」

「うまいよ、そりゃね。プロなんだからさ」

「だろ……ありがたいな、こういうことは」


祥吾は自慢げに頷く友則を見た後、大きく息を吐く。

どこかのイベントなのか、花火の音が遠くに聞こえた。


「なぁ、親父。この売り上げだけれど」

「そこはそうだな、もう少し様子を見ておけ」

「様子?」


数日で出て行くと言ったはずなのに、すっかり友則は祥吾の部屋に根を下ろし、

カレンダーは8月を進み出した。

『今川家に戻れ』と説得してくれるだろうと思っていた勇也まで、

ここのところ通ってくるようになる。

自分のリビングが、『カリーナ』の事務所のようになっている状態に、

祥吾は食べ終えた食器を片付けながら、『あのさ』と切り返した。

友則と勇也の顔がこっちを向く。


「この状態、完全におかしいだろ。俺は今川家から出てきたはずだし、
間違いなく一人暮らしの場所を、決めたけど」


ひかりと気持ちが通じ合い、『これから』楽しい日々を送ろうとしている祥吾からすると、

この場所に入り込まれている状況が、とにかく息苦しくてたまらなかった。

週末には、ここで一緒に過ごせるかもしれないという、

『くすぐったいような甘い考え』も、空中に浮き続けた状態になる。


「わかってる、わかっているんだよ、祥吾。でもな……」

「でも、この場を去りがたいんだ。なんせ、女将が美人」

「お! さすが息子」


友則は、『かをり』の女将さんはとても色っぽいと、勇也に情報を話す。

勇也は、他の部屋が空いていないのかと、祥吾を見た。


「知らん、そんなこと」


祥吾はそういうと、二人が話しをしているテーブルの上に、

無意識に携帯を置いたことを思い出し、すぐに戻るとそれを手に持った。

ひかりとは、ラインを交換してから、毎日やりとりはしている。


『おはよう』

『おやすみ』


かわいらしいスタンプのついた会話が残っているため、

これを二人に見られたら、すぐに関係性がわかってしまう。


「何慌てているんだ、祥吾」

「は? 別に……」

「お前、わかりやすい男だな」


友則はそういうと、ソファーに寄りかかる。

両手を背もたれにかけるようにしながら、にやついた表情になった。


「女、出来たんだろ」

「あ……マジ?」


友則のツッコミに、勇也の後押しが加わる。


「そんなことは言っていない」

「いやいや、言っているってその態度が。この場所に女を呼びたいのに、
叔父さんがいつまでも出て行かないから、欲求不満だってことだろ」


友則は、女と別れたマンションには戻りたくないから、

あと10日だけ待ってくれと、祥吾に頭を下げる。


「10日?」


祥吾は『それは違う』と否定するのも忘れ、『10日我慢すれば』の方に、

素直に反応してしまう。


「あぁ……それでも男として大変だと言うのなら、俺が金を出してやるよ。
どこかスイートルームでも取って連れて行け。女は好きだぞ、特別な環境が」


友則は、ケンカをしても『スイート』を取ると、すぐに仲直りできたと、

過去の体験を語る。


「親父、あんまり祥吾を困らせるなよ。家に戻ってこい。いい機会だぞ」


勇也は今ならお袋も入れてくれるよと、そう提案する。


「じゃあ、勇也、お前が出ろ」

「は? 俺が?」

「そうだ、もう一度男と女として、愛美と向き合う。そこに息子は必要ない」

「アホか……」


友則と勇也の会話を聞きながら、祥吾はなにげなく携帯を動かした。

東京の名のあるホテルで、『スイートルーム』がいくらするのだろうかと、考える。

あまりの値段に思わず声を出しそうになったが、そこは我慢して、席を立つ。


「とにかく10日だからね、それ以上は本当に困る。
秋の仕事が立て込んでいて、本当に忙しいから」


祥吾は『風呂に入る』と言い、二人の前を離れていく。

勇也は『10日で出ろよ』と、目の前でくつろぐ友則に念押しした。





「おはようございます」

「おはよう……」


8月も中旬に向かい、『KURAU』のメンバーも、順番で休みを取り始めた。

今週は、智恵や高坂がお盆休みとなっている。


「来週だっけ? 戻るの」

「はい。5日間戻ってきます」


ひかりがお盆休みを取り終えて戻ってきたら、

友則がいなくなっているという計算を、祥吾は頭の中で終えていく。


「うん……よし」

「何がよし……ですか?」

「いや、うん」

「あ、そうだ、最上さんは浜松に戻らないのかな?」

「あ……うん。今回は兄夫婦が来るんだ。初孫が生まれて、帰省だから。
あえてこの時期ははずそうかなと」

「へぇ……お兄さんが」

「あれ? 何も言ってなかったか」

「はい」


ひかりは、家族構成とかそういった話しは初めて聞きますと話す。

祥吾は『そうだったか』と言いながら、一度軽く咳をする。


「そうだな、考えてみたらあんまりこう、色々とゆっくり話しが出来ていないし、
まぁ、今度、色々ゆっくり話し……出来たらいいよな」


食事をして『さよなら』を言うのではなくて、

時間を気にせず過ごせたらと言う意味で、祥吾は思いを前に送り出す。


「あ……そうですね、あの店、行きますか? 久しぶりに」


ひかりは、祥吾の心の奥には気づかずに、『ゆっくり話す』という部分だけで、

以前2回通った、中華料理の店のことを話題に出す。


「あ……うん」


祥吾は自分の言い方が悪かったのかと反省し、『そうだな』と認めてしまう。

二人は並んでつり革に捕まりながら、『KURAU』へと向かった。


【16-3】



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