16 これでいいのか、違うのか? 【16-5】


【16-5】


『今日は買い物に行くから』


そのメッセージを受け取った祥吾は、それなら仕方が無いなと思い、

吉川に企画書を預け、廊下に出た。

同じように上司へ用事があった『第1企画』の『毛利渉』が前に立ったので、

軽く頭を下げて横を通ろうとする。


「第2の最上さんですよね」


祥吾は、そう声をかけられたため振り返った。


「『ボルノット』……なんで辞めたんですか」


毛利は『社長賞までお取りになったのに……』と、わざと丁寧語を使い、

逆におちょくった態度を取る。


「それは自由でしょう」


祥吾は、毛利を見る。


「まぁ、自由でしょうけれど、それでやたらに『第2』が張りきって、
賞品にイベントをつけろだの、予算ばかり使われてもねぇ」


祥吾は、毛利の言い方を聞きながら、『第1企画』から小春が来た経緯を思い出す。


「文具の売り上げなんて、ライバル会社も多くて、実際には取ったり取られたりだ。
それなのに『50周年企画』だ、完全オリジナルだって、面倒なだけだよ」


毛利は『面倒、面倒……』と言いながら、上司の部屋に入っていく。

祥吾は内心、怒りでそのまま部屋の中になだれ込みたかったが、

ここから確かに『面倒』なことになるのもと思い、そのまま方向を変えた。



『買い物って何? 戻ってくるまで待っているから、食事……』



祥吾はこんなふうに文章を打ち込んでいたが、結局、ひかりには送らないまま、

帰りの電車に乗った。

『今日はいい』と返事を寄こした人に対して、『待っている』というのは、

少し強引だなと感じたからだ。

携帯をバッグに入れ、つり革につかまっていると、

帰り際、毛利に言われた理不尽な言葉が、蘇ってくる。

『ボルノット』でも、リーダーとは名ばかりだったため、メンバーから、

とんでもなく嫌みと取れるような言葉は、何度も浴びてきた。

でも、ここまでの怒りはわき上がらなかった気がする。



『最上さん』



それはきっと、ひかりをはじめとした『第2企画』のメンバー達と、

自分の関係がうまくいっているという証拠ではないかという気にもなった。

仕事をしながら、特に上司だという思いを持っているわけではないが、

選ばれたメンバー達と、いいものを作りたいという感情は、ますます大きくなっていく。

明日以降、どういう企画なのか、自分にも見るチャンスがあり、

もちろんひかりのものも見ることになる。

『文房具が大好きだ』と言っていたひかりが、どういうものを出したのか、

あれこれ考えながら、駅の改札を出た。





「こんばんは」

「あ……いらっしゃい」


祥吾はそのまま『かをり』に向かい、カウンターに座った。

華絵は『今日はひとりですか』と尋ねる。


「はい、今日は。本当にすみませんでした、叔父が色々と」


祥吾は自分がいない日も、友則がここに通い続けたことを謝罪する。


「いいえ、さすがにお商売をされている方なので、とてもお話も上手で」


華絵は『楽しかったですよ』と笑う。


「浜松から東京の大学に通うため、出てきてからは、
ずっと今川家の近くに、アパートを借りていたんです。何かがあったら、
すぐに助けてもらえるだろうって」

「あぁ、そうですか。うちの姉が、ひかりを私のそばに置くのと同じですね」

「あ……そうですね」


華絵が出してくれた小鉢を受け取り、祥吾は『ビール』を注文する。


「助けてもらえるだろうと思っていたのに、
しょっちゅう、夫婦ケンカしたから来てくれって呼び出されたりとか、
従兄弟が親とケンカして逃げ込んできたとか、どっちが助けているのか、
わからないような時間でしたけど」

「あらまぁ……」

「でも、みんな人がいいから、メチャクチャなのに、どこか憎めなくて」


祥吾の話しに、華絵は軽く頷く。


「すみません、全然関係のない話しを」

「いいえ、最上さんとも、今川さんともお知り合いになりましたから、
関係無い話しではないですよ……ほら、ひかりもいますし」


華絵から『ひかり』と名前を出され、祥吾は軽く頷く。

今川家の話しを出したように、ひかりの話しを思わずしそうになるが、

それはと思い、そこから祥吾は黙ってしまう。


「いらっしゃい……」


また別の男性が一人、店に入ってきたことで、華絵は少し動き、

祥吾の目の前にはいなくなる。

祥吾は食事をして『ビール』を飲む。

店に入ってから30分後、ごちそうさまでしたと言いながら、『かをり』を出た。



「はぁ……」


祥吾は上着だけを脱ぎ、ソファーで横になった。

福岡から唯がやってきて、もう一度やり直したいと言ったことで、

それを勘違いしていたひかりと、一気に気持ちが通じていたことがわかり、

祥吾にとっては、『眩しい夏』がやってくるような気持ちになっていたが、

慌ただしくカレンダーは9月になり、まだ『恋人らしい時間』を過ごしてもいない。

明日から企画を選び、正式にメンバーが決まると、

ほぼ仕事が固まる状態で、ひかりと時間を合わせるのも、難しくなりそうだった。

それなりの関係が築けていたら、鍵を預けるような行動も出来るが、

今の段階でそれをするのは、どうなのだろうかという気持ちが強くなる。

上司と部下として、毎日顔を合わせないとならないだけに、

妙な気遣いがそこにあるような気がして、祥吾は苛立ちやら、自分の不器用さやら、

ごちゃ混ぜになる気持ちを『あぁ!』と大きな声を出すことで発散しようとする。

大学時代から自分に対して積極的だった唯との時間。

それは祥吾が築く前に、唯自身がしっかりと作ってくれた。

食事に向かうことも、その後の時間を過ごすことも、

祥吾にしてみると、流れに乗っているような気分だった。

今頃になって、自分が前に立つという恋愛をしたことがなかったことに気づいたものの、

『これでいいのか、違うのか』など聞ける相手もなく、

祥吾はただ、天井を見上げながら、意味の無い時間を過ごしていた。


【17-1】






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