17 腐ったら負け! 【17-2】


【17-2】


「ここは決定だな」

「はい……」


普段の働きぶりも合わせ、選抜メンバーの候補が挙げられる。

祥吾は右と左に別れた企画書を見ながら、その中にあるひかりの名前を見た。

企画自体は悪くないものの、発想が少し飛びすぎていて、

会社の記念となるべきものかと聞かれると、難しい気もしてしまう。


「最上」

「はい」

「君が入ってきてくれて、みんな上を目指そうという気持ちが大きくなったと、
そう思えるよ」

「いえ、それは企画部のメンバーが、それぞれ課題を見つけて、取り組むからです。
私は何も……」

「いやいや……私と部員の間に君が入ってくれたことが、非常に組織としてやりやすい」


吉川は、年齢的にどうしても『押しつけてしまう』ことが多かったと、

反省点を述べ始める。


「もっと自由に楽しくなんて、口では言うものの、なかなか難しいな」

「はい……」


祥吾は吉川の言葉に応えると、評価の紙に、丸を1つつけた。





その日は1日、吉川達と行動をともにしていたので、

祥吾が『第2企画部』へ戻ると、もう、ほとんどの部員が帰った後だった。

デスクに残っている書類を全て見て、サインをしておかないと、

次の日の作業が進まないため、あとひと踏ん張りだと思いながら、背伸びをする。

ずっと文字ばかり追いかけていたので、首も疲れたなと思いながら窓の外を見ると、

ちょうどビルの玄関から出て行く、ひかりと輝之の姿が見えた。

何を話しているのかなどわからなかったが、ひかりは楽しそうに笑い、

輝之の背中を叩いている。

二人は同期で、しかも大学が一緒だと、以前聞いている。

気の合う仲間なのだろうと思いながらも、

今朝、自分に見せていた表情とは明らかに違うことで、

祥吾は嫉妬に近いような気持ちを、持って見ていることに気づかされた。

それはあまりにも幼稚な感情だろうと自分自身に言い聞かせ、デスクに座ると、

重なっている書類の最初の1枚を、手に取った。





上から祥吾が見ていたことなど知らないひかりは、輝之と『たきのや』に向かった。

他に店がないわけではないが、慣れている場所の方が、落ち着く気がする。

適当につまみを頼み、互いにビールをグラスに入れた。


「では……」

「まんまと学歴の罠にはまったかわいそうな俺に、乾杯!」

「は?」


ひかりが『乾杯』の理由を探そうとしたところ、輝之は勝手に言うと、

飲み始めてしまう。


「何よ、学歴の罠って」

「罠だよ、罠。イベントが成功したらお前が広報に行けるだの、
色々といいようなことを言ったくせにさ、結局、広報部長と同じ、
『青蘭』を出た一つ後輩が、『はい、どうも』と決まってしまった」


輝之は、仕事が出来ないとは言わないけれど、それほど目立ってもいなかったし、

希望が出ているとも聞いていなかったのになと、悔しそうな顔をする。

話しだけを聞くと、確かに当然だよとは言えず、

ひかりも、輝之の状態に、『何言っているのよ』とは突っ込めなくなった。

静かにビールを飲み始める。


「入社はした。入りさえすれば、あとは実力でどうにでもなると、そう思って、
頑張ろうとしてきたけれど、いや……なんだかんだ言っても、結局は学閥、人脈だよ。
出来るヤツには出来るヤツの脈がある」

「武田……」

「俺もお前も、この会社にとってはそうだな……」


輝之は箸箱に入れられている割り箸を取る。


「そうこんなもの、むき出しの割り箸1だ。役に立つには立つけれど、
誰なのか認めてもらえることなんてなくて、ただ消耗する。今回はそれを痛感したわ」


輝之はそういうと、ビールを飲み干してしまう。


「何よ、むき出しの割り箸って。この間は、まだまだ負けないってそう言わなかった?」


ひかりはそういうと、輝之を見る。


「あぁ、言ったよ。でもさ、現実を見ちゃったんだよ、急にやる気がなくなった」


輝之は、テーブルに届いた枝豆を取ると、食べ始めた。

中身の入っているものから、だんだんと袋だけが増えていく。


「浅井も、あんまり頑張りすぎるなよ、ストレス溜まるぞ」


輝之はそういうと、自分でビールをグラスに入れる。


「私は……」


ひかりは祥吾のことを考えた。

仕事も特別出来ない自分にも、『いいところがある』とそう言ってくれた。

飲み会のものまねだったとはいえ、ひかりがいたことで場が和んだこと、

『須美川の奇跡』と呼ばれ、上司にバカにされたこともあったのに、

50周年の企画を、しっかりと出すところまで、気持ちが前向きになれた。

雄平も智恵も、自分より優秀な大学を出ているが、そこに態度の差を感じたことなどない。

以前は『第1』で差別的な態度を取られた小春を含めて、

みんな思いやりのある人たちが揃っている。


「そりゃ色々とあるよ、私だってここまで順風満帆じゃないし」


ひかりは吉川の前の上司に、散々嫌みを言われたことを語る。


「山内や細川の大学は、何を教えているのか知っているけれど、
お前の大学は、いったい何を教えているんだって、
みんなの前で露骨に言われて笑われたこともあるし。
印刷のブレがあったから聞いたのに、
『浅井には内容が難しいのかと思った』って、言われたこともある」


ひかりの愚痴に、輝之の顔があがる。


「マジ? そこまで言われたのか」

「言われたよ……腹も立ったし、悲しくもなった。でも入りたくて受けた会社だもの。
こんなことでは負けないぞと何度も拳あげて……」

「拳?」

「部屋で一人でだよ、外じゃない」

「ふーん」


輝之は次に届いた唐揚げを口に入れる。


「私はね、本当に仲間に励まされた。失敗しているのに、フォローしてくれたり。
落ち込むと、さりげなく飲み会を開いてくれたり……」



『ひかり、行こう!』

『浅井、しょうがないな、飲みに行くか』



ひかりは、いつも自分を気にして声をかけてくれる雄平や智恵のことを考えた。


【17-3】



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