18 誰のことを言っているの? 【18-3】


【18-3】


「はい、最上さんはどれですか」


祥吾は、ひかりが聞きたいと言った話なのに、なぜ急に止めるのかと思いながらも、

そこで智恵の話題をやめ、『じゃあ』と言うとウエイトレスを呼ぶ。



『冷静で、しっかり自分があって……』



智恵が祥吾を褒め、祥吾が智恵を褒めることに、妙な感覚を持つ自分が嫌になると、

ひかりは思いながらお冷やを飲む。

注文を聞いたウエイトレスが二人の前を離れていったので、

祥吾は携帯にラインの届く音が聞こえた気がして、中を見た。

『ボルノット』を辞めたと聞いた唯に送ったラインは、

その日の夜、既読にはなったものの、何も返信はない。

動きがあれば、佐竹から連絡が入るのはわかっていたが、何もないと言うことなのか、

一切、連絡が入っていなかった。

『ボルノット』にいた頃の自分に、愛想をつかして海渡を近づけたのは唯だったし、

東京に来た時にも、心の変化はしっかり説明したつもりだった。

こうしてどこか振り回されているような時間に対して、怒りさえも感じてしまう。


「何かありました?」

「……いや」


祥吾は『終わったこと』と思い、携帯を閉じる。

そこからは料理が運ばれてきたため、互いに話題がそちらに向かった。





食事を終えて、会計を済ませると、祥吾とひかりは揃ってビルの階段を降りた。

駅を真ん中にして、場所はひかりの部屋側にあるため、

このままだとロータリー部分で『お別れ』になってしまう。

祥吾は階段を降りきる前にと思い、ひかりの左手をつかんだ。


「今日は金曜だろ……週末だし、もう少し……」


祥吾は自分なりに勇気を出しそういうと、自分の部屋で過ごそうという思いを込めて、

ひかりの手を引っ張った。ひかりは数歩進むが、そこで止まってしまう。


「すみません……あの……」


なぜこんな台詞を言うのか、立ち止まったのか、自分でもわからないうちに、

心がストップをかけてしまう。


「これから、部屋の片付けをしないといけないんです、そうなんですよ、
週末ですからね。普段何もしていないから、私……頑張らないと……」


言った後、100%の後悔がひかりを襲った。

どういうつもりで祥吾が手を引っ張ったのか、わからないわけもないのに、

心の中では嬉しくて、一緒にいたいと願っているのに、身勝手に出て行ったのは、

とんでもない台詞で。

捕まれていた手が、急に自由になる。


「……そうか」


祥吾はそれだけを言うと、ひかりの顔を見ないまま、『また』とだけ言い、

人混みの方に向かってしまう。


「あ……」


ひかりは祥吾の態度に、自分が悪いと思い数人を交わしたが、

結局、後を追うことが出来なかった。


『これから……』


瞬間的に、頭が判断して送り出した言葉だった。

祥吾が好きだと宣言した、智恵の照れくさそうな表情と、

『記念メンバー』に選ばれたことを喜び、

覚悟を決めて、退社を告げた気持ちが思い出されてしまう。

それを知りながら、事実をどこかに隠してしまうには、

ひかりにとって智恵の存在は大きすぎた。

祥吾に捕まれて、離された左手に残るわずかな感覚を呼び戻しながら、

ひかりはそこから一歩も動けないまま、しばらく呆然と立っていた。





『これから、部屋の片付けをしないといけないんです……』


ひかりに『完全拒否』された祥吾は、ただ下を向いたまま、歩き続けた。

『一緒にいたい』気持ちを込めて誘ったはずなのに、

わかっているはずのひかりには受け入れられなかった。

思いは通じているはずなのに、どうして弾かれたのかが理解できない。

唯に別れを告げ、ひかりとの時間を作っていくつもりだった夏は終わり、

秋を迎えても、季節は冷たい風しか自分に与えてくれない。

踏切の場所に立ち、電車が通り過ぎるのを待っていたが、その足が反対を向く。

もっと強引に前に出るべきだと思い数歩だけ歩くが、結局、動けなくなった。


自分が悪くないとわかっていても、『強く出ること』が出来ない。

前向きに進むことは覚えたが、『訴えること』は、まだまだ苦手だった。


祥吾は改札に向かい、そこから駅の中に入る。

今日、これからマンションの部屋に一人で帰るのは嫌だと思い、

また都心に向かう電車に乗った。





「はぁ……バカ、バカ、浅井ひかりは、考えられないバカ」


家に戻ったひかりは、祥吾と別れてからコンビニで買った数本のチューハイを飲み、

必死に失敗を忘れようとしていた。

いくら智恵に気を遣っても、ひかりと祥吾の気持ちはきちんとつながっていて、

それを失うわけにはいかないこともわかっているのに、

祥吾が智恵の企画を褒めたこと、智恵が祥吾に対して話をした声、

その両方が頭をチラチラと動き、誘われたことをスムーズに喜べなかった。

去り際に見せた祥吾の切なそうな顔が、ひかりの脳裏に張り付いている。

智恵を傷つけないようにしようとすれば、これからも、こんな態度を取ることになり、

それは間違いなく祥吾を傷つけるし、自分自身も寂しい。

ひかりは携帯電話を持ち、祥吾とのラインを開き、コメントを入れようとするものの、

どう切り出せばいいのか、どう謝ればいいのかわからず、

結局、一言も送ることが出来なかった。



ひかりから拒絶されたと思っている祥吾は、電車に再び乗り込み、今川家に向かった。

駅前のコンビニで、両手に袋を抱えるくらいのビールやチューハイを買い、

とにかく忘れていられるくらい、飲むつもりになっていた。

家には友則と勇也が揃っていたので、あきれ顔の愛美が作ってくれたつまみで、

男3人の飲み会がスタートする。


「はい、またまた乾杯……祥吾が急に来るなんてな、これはみんなで祝わないと、
しかも酒飲もうだなんて」

「そうそう、驚いたよ」


勇也と友則にとっては、いつもの晩酌だったが、

イライラと情けなさが頂点に達している祥吾にとっては、全く別の時間になった。


【18-4】



コメント、拍手、ランクポチ、参加をお待ちしてます。★⌒(@^-゜@)v ヨロシク♪

コメント

非公開コメント