18 誰のことを言っているの? 【18-5】


【18-5】


「東京に急に来て、あいつはどこに行ったのかと聞かれても、
俺はあのとき、正直に自分の気持ちを言っただけだって。
それの何が悪いんだ。今になって、俺が突き放したみたいに言うな。
福岡では散々、こっちを睨んで、いいように言ったくせに。
自分たちが俺をよけたんだろ。一人で東京に出てきたのは、俺だぞ」


祥吾は『ボルノット』を辞めた時のことを思い出し、そう叫んだ。

会社を辞めることになったと知った周りの人間から、

『お世話になりました』だの、挨拶だけを受けたものの、

そこには『名残惜しさ』など、何も感じなかった。


「人付き合いが下手なのはわかっているんだって、だからこそ、
自信がないから強引になんて出られない。でも、嫌われたくない……
避けられたくないんだよ。そうなんだけどさ……」


祥吾は、飲みかけをまた一気に飲むとその場で立ち上がる。


「どうした」


友則は、急に立ち上がった祥吾を心配するように横に並ぶ。


「行く……俺、今から浅井のところに行って、言ってくる」

「は?」

「聞かないと」

「何を……」

「だから、これからどうしたいのか……聞いて……」


祥吾はそこまで言うと、足を前には出したが、そのまま崩れ落ちた。

隣にいた友則が支えたため、頭を打つようなことにはならずに、そのまま横にされる。

飲み始めて1時間半が過ぎ、祥吾が乱れてからは10分くらいのことだったが、

今川家の3人は椅子にそれぞれが座り、誰も何も言わないまま数分間が過ぎる。


「ねぇ、祥吾。あのお見合いの人と……」


愛美は自分の考えが合っているよねという視線を、友則と勇也に送る。


「『浅井ひかり』って言っていたよな、そうだよ、『ハチ』のことだ」

「でも会社を辞めたとか……」

「それは『福岡』って言ったから、前の会社のことだろう」


勇也と愛美は、限られた情報を、頭の中で整理する。


「『浅井ひかり』って、あの『かをり』の女将さんの姪のことだろう。
そうか、そういうことか」


友則は、それならばさぞかし自分が邪魔だっただろうなと思いながら、

空いた缶を片付け始める。


「ねぇ、何? ねぇ……」

「愛美も勇也もいいか、今、祥吾が言っていたことは全部忘れろよ。
あいつの本音だけれど、知らない振りをしてやれ。明日になってから、
ここで言ったことで、絶対に祥吾をからかうようなことをするな」


友則はそれだけを言うと、ソファーに寝かせてやれと勇也に話す。


「一番、からかいそうな人に言われたくないんだけど……」


勇也は祥吾の椅子を元の場所に戻す。


「俺は、『ここ!』というところでは、ビシッとする男なのよ」


友則はそういうと、『いいな、言うなよ』と念押しする。


「親父、祥吾はこのまま絨毯の方がよくないか。ソファーだと落ちるかもしれないし」

「そうか、そうかもな」

「ねぇ、今の騒ぎ方だと、うまくいかなかったってことなのかしら」

「愛美、忘れろと言っただろ」

「友則と違って、祥吾は恋愛経験が乏しいのよ」


愛美はそういうと、汚れたお皿を流しに入れる。


「そんなことは関係ない。こいつなりに必死にぶつかっているんだ、
周りがあれこれ言うのは、筋違いになる」


友則はそういうと、それにしてもよく飲んだなと祥吾を見る。


「ねぇ……でも言ってたわよね。強引になんて出られないのは、
嫌われたくないから、避けられたくないからって……もう、やだ、
キュンキュンしちゃうじゃない」


愛美はそういうと、祥吾に毛布を持ってくると言い歩き出す。


「お前がキュンキュンしてどうするんだ」


友則は愛美の後ろ姿にそう言うと、また椅子に戻る。


「なんだっていいよ、ここに来て飲もうと祥吾が思っていたことが、俺は嬉しいね」


友則の言葉に、勇也も『そうだね』と酔い潰れた祥吾を見ながら、意見を合わせた。





土曜日、時計は昼過ぎになっていた。

祥吾は目を開けたが、頭がガンガンしているため、その辛さに動けない。

リビングのテーブルには愛美が座り、何やら手紙を書いている。

自分の寝ている場所、姿、どちらを見ても、『何かがあった』と思える様子に、

祥吾は深呼吸をする。


「叔母さん……」

「何? 何か食べる」

「いや、気持ちが悪いからいらない」


祥吾は記憶が途中から曖昧になっているため、一応部屋を見回してみた。

ひかりとの時間が思うように取れず、イライラしたまま今川家に来て、

友則や勇也と飲み始めたことは覚えているが、その先の記憶がない。


「叔父さんと勇也、いたよね」

「いたわよ。二人とも仕事に出たけど」

「そうか……そうだよな、そういう時間だ」


祥吾はこめかみを押さえながら、2日酔いと格闘する。


「俺、迷惑かけてない?」

「迷惑? どうして」

「いや、こんなに頭が痛くなることないしさ、こんなところに寝ていたし、
この格好で、酒、飲んだとしても、これは……」


愛美は、昨夜、ひかりへの思いをぶちまけたことを言いたくなったが、

友則からの忠告もあり、黙っていることにする。


「楽しく飲んでいたわよ。いつもより飲むなとは思ったけれど、でも、ここだし、
こうして寝ていればいいわけだから、止めませんでした」


愛美はそういうと、朝食用に作ったスープがあるけどと、確認する。

祥吾は『今はいい』と言い、ゆっくりとソファーに座る。


「あぁ……」


視線の先には、ビニール袋があり、その中には、

これでもかというくらいお酒の缶があった。

祥吾は、いくつか自分で買ってきた記憶はあるが、

今川家にはどれほどの量があるのかと、そう思ってしまう。


「すごいな、今川家は。あれ、全部飲んだわけだろ。一緒に酒を飲んでも、
二人はケロッと仕事で、俺一人これか……」

「量が違うわよ、昨日は」

「ん?」


愛美は、友則と勇也の倍以上、祥吾が飲んでいたと話す。


「ウソだ」

「ウソじゃないわよ、本当です。
自分で言ったでしょう、未だかつてこれだけ頭が痛いことはないと」


愛美の言葉に、祥吾は『うん』と頷く。


「……俺、何か言った?」


祥吾は、昨日のイライラを持ってきたため、何か言っていないかと愛美に話す。


「別に……何も」

「本当に?」

「本当よ。飲むだけ飲んで、倒れてしまいました」


愛美は『出来た』と言うと、ポストに出してくるねと言い、上着を羽織る。


「頑張りなさいよ、祥吾」

「ん?」

「仕事も、人生も」


愛美はそれだけを言うと、『完全に立ち直るまでここにいなさいね』と声をかけた。


【19-1】






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