8 永遠の恋人

8 永遠の恋人

芽衣と別れ、亮介が支店に戻ると、机の上にフルーツケーキが一つ置いてあった。

すぐに気付いた太田が、箱を手に持ち亮介に近づく。


「深見部長、ごちそうさまです」

「ん? 俺? 俺じゃないけど……」

「あ、奥様ですよ。さっき、支店に来てくれて、差し入れをくださったので」

「咲が?」


亮介はすぐに時計を見た。さっきかけてきた電話は、家からだと思っていたのに、

もし外だとしたら、どこにいたのかが急に気になり出す。


「何時頃、来た?」

「えっと……30分、いや40分くらい前ですよ」


亮介はその言葉に、携帯を取りだし、一瞬だけつながった電話の時間を確かめた。





「はぁ……疲れた」


咲は買い物の袋をテーブルに置くと、椅子に腰掛けた。

子供が出来てからの日々は、咲にとって母になるための時間であっても、

亮介にとってみたら、そんな気持ちにはなれないのかもしれない。


東北4支店は、互いに距離もあり、打ち合わせに向かうと、泊まりになることもあった。

そんな未確認の時間を疑うわけではないが、なんともいえないどんよりした気分になる。


「赤ちゃん、パパは何してるんでしょうね……今」


いつもならお腹を蹴り飛ばしてくるのに、そんな質問には黙ったまま、

少しだけピクンと存在をアピールした。





「ただいま」

「お帰りなさい、早かったのね」

「あぁ……」


亮介が咲の方を向くと、一瞬目を合わせたが、すぐにそらされた。

いつもなら着替えに向かう亮介に、今日の出来事をあれこれ語ってくるはずなのに、

寝室へついてくることもしない。


「咲……、今日、支店へ来たんだってな」

「あ……うん。久しぶりに買い物に出たから、ちょっとだけ寄ったの」

「悪かったな、いられなくて」

「ううん……」


いなかった理由は知っていたが、咲は何も聞かずに、淡々と食事の準備を進めている。

亮介は明らかにおかしい咲の態度に、おそらく芽衣といた姿を、

どこかで見られたのだろうと思う。

咲のためを思って隠してきたが、これでは逆効果になると、上着を脱ぎネクタイを外した。

全てを明らかにしようと、カバンから芽衣がくれたネクタイを取り出し、横へ置く。


「咲、ちょっと来て」

「……今、お味噌汁が……」

「いいから、来て」


咲は火を止めると、亮介の待つ寝室へ向かう。

二人のベッドに腰掛けた亮介の横には、見たこともないネクタイが置いてあった。


「座って……」

「話なら、食事しながらでいいわよ」

「いや、ちゃんと話したいんだ。だから座って」


咲は真剣な表情の亮介の隣に腰掛け、そのまま下を向いた。

信じてはいるものの、何を話され、どんな方向へ進むのかが突然不安になる。


「咲……」


亮介の呼びかけに、咲が顔を上げるとそのまま唇が重なった。

それは挨拶代わりの軽いキスではなく、しばらく封じ込めている熱い想いが、

あふれ出てきているようなもので、咲の体を支えたまま、亮介がゆっくりとベッドに横たわると、

首筋からさらに下へ、キスが落ちていく。


「……亮介さん……ねぇ……」

「わかってるから……黙って……」


耳の後ろからうなじに触れられると、咲の口から吐息が自然に出てしまう。

これ以上進むことを恐れた咲が、唇に触れた指を、亮介は1本ずつ愛しそうに口づけた。

その手をしっかりと自分の指にからめ横を向くと、もう一度唇に触れる。


「咲だけだ……」

「エ……」

「俺が触れたいと思うのは、咲だけだよ」


亮介が黙っているのなら、あえて聞かずにいようと思った咲の目に、自然に涙が浮かんだ。


「これ以上は、赤ちゃんによくないから」

「亮介さん……ねぇ、肩は大丈夫?」

「うん……」


亮介は咲の頭を自分の腕に乗せ、引き寄せたままもう一度芽衣のことを語り始めた。

どんなふうに彼女と出会い、助けることになったのか。隠していた理由が理由だったから、

話すのを避けていたこと。咲は、亮介の言葉を耳に受けながら、小さく何度も頷き返す。


「咲を不安にさせたくなかったんだ。8ヶ月って言ったら、君がこれから迎える時期だろ。
だから……黙ってた」

「うん……」

「彼女は、相手が逃げてしまって、心の中を聞いてやれる人もいないからって、つい、
何度か会うことになった。でも、事故のことを謝りたいとか、申し訳ないということなら、
もうこうして会うことは辞めた方がいいと、今日そう言ってきた」

「それが……お昼のこと?」

「うん……。俺はあくまでもあの瞬間を助けただけで、これから先、
彼女に何かをしてやれるわけじゃないからね。無責任にあれこれ聞いて、
知りませんというのもかわいそうだ。前を向いて歩いた方がいいとアドバイスした。
バスガイドをしていたから業界的に近いし、そういった相談があるのなら、
会社に直接来てごらんって、そうも話した。そこでは話せないようなことなら、
話す相手は俺じゃなくて、ケンカをしてしまったご両親にするべきだって……」


咲は、横断歩道で彼女が見せた笑顔が、別の方向へ向かうことを気にした亮介が、

気持ちを告げたのだとすぐにそう思った。不安になりそうなこんな話しも、

食卓を挟んで聞くより、亮介のぬくもりの中で聞く方が、何倍も安心できる。


「長谷部がさ、この間仕事で仙台に来たんだ。たまたま芽依さんと会っているところを見た。
あいつに指摘されなければ、自分のしていることが、そんなに違和感のあることだとは、
思わなかったかも知れない」

「長谷部さんが?」

「ネクタイなんかもらって、咲ちゃんに言いつけるから! って、睨まれた。
まぁ、理由を言ったら、納得してたけど、でも、それから考えて……
この間も肩のことを問いかけられた時、全て言ってしまえばよかったのに、言えなくて……
悪かったな、逆に心配かけた」

「ううん……こうして聞けたから大丈夫。でもね、やっぱり隠さないで欲しい。
どんなことでも聞くし、私にも聞いて欲しい。あなたがふっと目をそらすと、
何かあるのかしらってその方が心配になるし、不安になるんだから」

「あぁ……」

「もう、利香がね……余計なことを言ったから、全てはそこからなのよ!」

「あぁ……あれか」


『男の浮気』について、利香が咲に言った言葉を思いだし、亮介は軽く笑う。

そんな亮介の笑顔に、咲も自然に表情を崩す。


「咲……」

「何?」

「愛してる……」

「エ……」

「たまには言わないと。また、石原さんに問い詰められるよ。
お前は咲ちゃんに甘えてる! って」


京都支店で部長をしている石原のことを思いだし、咲は思わず笑い出す。

亮介の一言に頷いた後、咲はもう一度胸に顔を埋めた。


「ねぇ……」

「ん?」

「何年経っても、嬉しいものなのね……言われると」

「あぁ……」


安心する亮介の体温に、浸っていると、除外されたもう一人が、しっかりと存在をアピールした。


「あ……」

「ん?」

「すごい勢いで、今蹴られた。お腹空いてますって、怒ってる」


咲がそう言いながら、お腹に触れると、亮介も笑いながら、そっと手のひらを重ねた。



                                 深見家、新メンバー加入まで……あと80日






9 指輪の光 へ……




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コメント

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ひと山越えても・・・

亮介さんと咲ちゃんの

問題が解決して良かった。

長谷部さんが意外といい仕事した?

でも問題はまだあるから

亮介さんと咲ちゃんの苦労は絶えないね。。。

新しい1歩

隠されると余計に不安になる。
確かに聞いて嬉しい話ではないけれど、
知らないで悩むよりは解決しやすいと思う。

『愛してる』いつでも何処でも言われると嬉しいです。

芽衣ちゃんも新しいスタートが出来るといいですね。

その一言が…

あぁ、やっと話せたね
やっぱり、内緒事は体に良くない!
心にも…
咲も冷静に話しを聞き入れる事ができて偉い!
私だったら、泣き叫んで大騒ぎしてるわぁ
特に妊娠中は情緒不安定なってましたから

「愛してる……」
亮介のこの一言が羨ましい
思っていても口にするのってなかなか出来なくてネ

さぁ、3つの山のうち1つは越えたぞ!
残る山はどんな山?!

ホッとしちゃった^^

やっぱり…ちゃんと咲ちゃんに全部話せてよかったね~^^亮介さん。。

>咲のためを思って隠してきたが、これでは逆効果になる<
そこに気づけて良かったわ…^^

お腹の中で、赤ちゃんもホッとしてるね^m^

あと80日…それまでには、まだまだ亮介には気苦労がありそうね…^^;
面倒見の良い中間管理職は大変だわ~!

仲直り出来て良かった&#9829

先回はかなり皆さんからお叱り受けてた亮介君
今回は軌道修正、着手・完了ってとこですね。

しかし亮介も策士よのう!!!(笑い)
いえいえ亮介の誠実さ、真心の表れの行動なんですよね。

寝室に連れて行って、kissで心を解し
「俺が触れたいと思うのは、咲だけだよ」
♪ダーリン亮介♪ヽ(v_v。)人(。v_v)ポッ♪ノ♪ハニー咲♪

【ここまで言われたら、もう怒れないじゃない~咲は】
咲も、隠し事しないでって言ってたでしょ。覚えておいてね

今回はお互い学習しましたね。
結婚生活=生涯学習なんですよね。

神様がくれた課題学習テンコ盛り
ココなんて赤点補修学習&宿題の連続です。
φ(。_。*)勉強メモメモ

皆さんも心当たりあるか知らん。( ̄▽ ̄;)アハハ…

問題が大きくならない内に話し合いは大事な事ですよね
(`・ω・´)ノぁぃッ!(・0・。) ホホ-ッ
パパ&ママビギナーたち、頑張れ♪ 。
赤ちゃん生まれてからが大変なんだから~と脅かしておこう

ブログだとねぇ

拍手コメントさん、こんばんは!


>本当のこと話してくれて安心しました(気付くの遅すぎ!)

あはは……ブログ連載だとね、回数ばっかり膨らんでしまって。
日数的にはそんなに経ってないんですけどね。
それにしても、自分では気付けないことが、人から気付かされるなんてことも、あるような気がします。


>次回はビジネスモードかな?

ビジネスモードにドキドキモード……かな?

一つずつね

mamanさん、こんばんは!


>亮介さんと咲ちゃんの問題が解決して良かった。

一つずつ、何かを経験し、乗り越えながら、さらに夫婦さを
増していく二人です。

ここからまたまた、新しい山が始まります。
山は個別ではなく……重なっていく……気も、しないでもないです(笑)

まだ80日あるよ

yokanさん、こんばんは!


>やっぱり、隠し事はいけませんね

そうそう、いけませんね。
隠しているというつもりじゃなくても、そう見えちゃうものね。

あと80日、パパとママになる前に、何があるでしょうかねぇ……

気持ちは伝えないとね

yonyonさん、こんばんは!


>確かに聞いて嬉しい話ではないけれど、知らないで悩むよりは解決しやすいと思う。

亮介がいるのだと、咲がちゃんとわかっていれば、
辛い話しでも、ちゃんと聞けるんですよ。

『愛してる』の言葉に、癒され、優しい気持ちを取り戻す二人です。

どんな山かな?

Arisa♪さん、こんばんは!


>「愛してる……」
 亮介のこの一言が羨ましい
 思っていても口にするのってなかなか出来なくてネ

ねぇ……
私のキャラの中でも、言えるタイプと言えないタイプがいるんだと思います。


>さぁ、3つの山のうち1つは越えたぞ!
 残る山はどんな山?!

うふふ……どんな山でしょうか。

中間なんだよね

eikoちゃん、こんばんは!


>あと80日…それまでには、まだまだ亮介には気苦労がありそうね…^^;
 面倒見の良い中間管理職は大変だわ~!

そうなのです。
亮介は連載開始時とは、立場がずいぶん変わりました。
景気もあるし、会社の状況もあるしね……

中間管理職、まだまだ頑張ります。

策士でございます

ナタデココさん、こんばんは!
いつも楽しいコメント、読みながら笑っちゃってます。


>しかし亮介も策士よのう!!!(笑い)
 いえいえ亮介の誠実さ、真心の表れの行動なんですよね。

いえいえ、亮介は策士ですよ
Ⅱのスタートでも、咲の弱いところを、ちゃんと責めてます(笑)

まぁ、そんなところも、ちゃんと咲はわかっているでしょう。
でも、言われて嫌じゃないだろうし、口先だけじゃないことも
ちゃんと知ってますからね。

結婚生活=生涯学習

まさしくその通り!

赤ちゃん誕生まで、さらに続きます。

なかなかやりますね

ほほう~
誤解を解くのに突然のkissからとは・・・
亮介さん、なかなかやりますね~

でも・・とにかく咲ちゃんにきちんと話せて良かったわ!

二人の心が寄り添ってさえいれば
辛い話でもちゃんと向き合える

亮介さん、これからは隠し事は無しにしましょうね^^

一つの山は越えたようだけど
まだまだこれからの方が大変みたい・・・
太田君、やる気なさそうだったしなぁ~

新メンバー加入まで・・・あと80日
パパ、頑張って~~

亮介と咲

バウワウさん、こんばんは!


>ほほう~
 誤解を解くのに突然のkissからとは・・・
 亮介さん、なかなかやりますね~

あはは……そう?
芽衣は、そばにいて欲しい人がいなくなってしまったけれど、咲にはちゃんと自分がいるのだと、
亮介は言いたかったのだと思います。決して、作戦だけではなかったはず(笑)

これからさらに山が出てきまして、それぞれの山とからんでいきます。
パパもママも、頑張りますよ!