19 ほら、行きなさい! 【19-3】


【19-3】


「考えすぎだと言われるかもしれないけれど、俺が逆の立場なら、
相手がそうしていたことを知ったら、事情があったとしても、
あまり気分のいいものじゃないと思う」


祥吾は靴を履き、立ち上がる。


「実はさ、電車で少し行ったところに、親戚がいるんだ。
引っ越してきて、すぐに入る物件が『違法建築』で慌てたけれど、
そのおかげで助かったし。だから俺は向こうに泊まるよ。いつもいくところだから……」

「祥吾……」

「ごめん……、こんな態度しか取れなくて、でも、気持ちだけでも裏切りたくないんだ」


祥吾は、ひかりのことを考え、そう話す。


「彼女のため……ってこと?」

「自分のためでもあるよ」


祥吾は携帯を取り出し、勇也に連絡を入れる。


「君の顔を知っているんだ。だから余計にそう考えるのかも……ごめん……」

「あの人?」


唯は、祥吾の態度に思うところがあり、すぐに聞いてしまう。


「私が、佐竹教授のところで会った人?」


祥吾は、ひかりから唯と会ったことは聞いていたため、

扉に手をかけたまま、『うん』と頷く。


「たいして話もしないで申し訳ない。気をつけて……」


祥吾は唯にそういうと、部屋を出て行ってしまう。

唯だけが部屋に残り、祥吾の足音が去って行くのを、静かに聞いていた。





「あら……」


金曜日の夜に酔っぱらい、やっと二日酔いから立ち直り家に帰ったはずの祥吾が、

また戻ってきたことに、愛美が驚きの声を出す。


「また、勇也と飲むつもり?」

「いや、今日は飲まない」

「いいよ、俺は飲んでも」


勇也はそういうと、『何か出そうか』と笑い出す。


「辞めてくれ。やっと頭の痛さから解放されたんだからさ。
申し訳ないけど、明日の朝まで泊めてくれ」


祥吾はそういうと、二人に頭を下げ、すぐに顔をあげる。


「あのさ……昨日、俺、本当に何か言わなかった?」


祥吾からの、あらためての問いかけに、愛美も勇也も揃って首を振る。

祥吾は、おかしなくらい揃った二人の態度に、

『あったんだな……』と思いながらも、『そう』と反対の返事をした。

愛美は、祥吾なりに何かがあるのだろうと思いながら、

『そんなこと気にしなくていいから、いつでも来なさい』と笑う。


「ありがとう」


祥吾はそういうと、携帯電話を出す。

ひかりの名前を呼び出し、『片付け、終わったの?』と打ち込んだ。



『片付け、終わったの?』



ひかりはベッドに転がったままで、祥吾からのラインを読んだが、

泣き疲れた目はしょぼしょぼしているし、とても返事をする気持ちにはなれず、

携帯をまくらの下に隠した。

それでも気にしないと無視出来ず、また出しては画面を見てしまう。


『祥吾のマンションの下で、唯と二人』


あんな光景を見せておいて、よくのんきにこんなことが書けると思いながら、

自分たちのやりとりの先頭まで戻っていく。

二人の気持ちが通い出した日が、そこにしっかりと現れた。


唯が東京に来て、祥吾が会って……

でも、それは『別れ』をあらためて認識するものだったと、そう聞いた。

『二人が会っていたことが気になる』と、自分の気持ちを素直に語ったひかりに、

祥吾は告白をしてくれた。

それから、それほど経っていないのに、もうこんな複雑な感情の中にいる。


「はぁ……」


ひかりは、もしかしたら唯には他に用事があって、

すぐに解散したのかと、また身勝手な想像に出ようとする。

ひかりはベッドから起き上がり、ここでぐだぐだしているよりも、

思い切って確かめに行ってみようと考えた。

元よりも今の方が強いに決まっている。

しかし、玄関まで進み、扉を見た瞬間、その思いは小さくなる。

『だからダメなのだ』と思いながら、ひかりは自分の頭をコツンと叩く。

テーブルの前に戻り、そのまま座った。

体をギュッと小さくして、

自分自身で心を守るようにすれば寂しさが紛れる気がして、膝を抱えてみる。

要の時にも、自分に有利なようにしかものを考えられず、失敗した。

今度も、目の前で見えたことが事実だと、言い聞かせる。

それでも悔しさだけは一人前に感じるため、『今、何していますか』と、

偵察のような文面を、ラインに打ち込んでみた。

送信ボタンを押す手前で止まる。

そんなことをして何か言われたら、また不安になるのだから辞めておこうと思い、

削除するつもりが、ひかりの指は送信ボタンに触れてしまい、

取り消しをしようとオロオロしているうちに、しっかりと届けられてしまった。



『今、何してますか』



ひかりが送ってきた文章を読んだ祥吾は、唯といたところを見られたという、

『まさかの状況』には気づいていない。

『何もしていないよ』と軽く返信しようとした。



『それなら、今から行ってもいいですか』



今日は土曜日。明日が日曜になるため、まだ仕事は休みだ。

返事の仕方によっては、そういう流れになるかもしれない。

祥吾は画面を見ながら、どうすべきなのか迷い出す。

目の前には、何やらクロスワードをする愛美がいたため、

祥吾は『今川家に来ている』と、正直に情報を送ることにした。


「あ……ねぇ、祥吾、これ、どういう意味だかわかる?」

「ん?」


祥吾は愛美が差した場所を見ると、言葉の意味を教えた。

愛美はそういうことねと納得し、文字を埋めていく。



『今川家で、頼まれごとをしてます』



ちょうどいいような内容になったと思い、祥吾は送信ボタンを押した。


【19-4】



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