19 ほら、行きなさい! 【19-5】


【19-5】


「そりゃ、ひかりの話しだけを聞いたら、確かに疑わしいかもしれない。
でも、そんな人に思えるの? 二股かけて平気でいるような人に、最上さんが見える?」

「見えないよ」

「でしょう、だったら聞きなさい。ここでウダウダしていてどうなるの。
いや、たとえ元彼女がまたすり寄ってこようが、譲りたくないなら、
しっかり奪い取ってきなさいよ」


結婚経験こそないが、恋愛にはなかなかな歴史を持つ華絵は、

姪のひかりが見せる、態度が気に入らないとそう言いはじめる。


「私?」

「そうよ、いい? ひかり。女が恋愛でどうしたらいいのかしらなんて、
メソメソ泣くのは一昔前のことよ」

「一昔……」

「そう、我慢して耐えてなんて、今はそういう時代じゃない、
女も男も相手を自分で選べるの。話をして、悔しくて許せないなら別れたらいい。
譲りたくないのなら、出て行けと言えばいい」

「……そんな簡単に言わないでよ」

「簡単には言ってないわよ。どちらでもひかりが決めたらいいと言っているの。
別れるのが嫌なんでしょう。だったら取り返せ! 女がいたら、ひっぱたいてこい」


華絵はオートロックではないから、エレベーターに乗って行けとけしかける。


「叩くの? 最上さんを……」

「どっちでもいいわよ、そうね、男も女もひっぱたいて戻ってきなさい」

「華絵ちゃん」

「さっさと行く!」


華絵の強めの台詞に、ひかりは立ち上がる。


「ひかり……ほら、行きなさい……行って話して納得してきなさい。
進むのか戻るのか、判断するのはひかりなの。私に愚痴っても何も解決しない」


華絵の背中を押すような言葉と態度に、ひかりは『うん』と頷き、

『かをり』を出るとエレベーターの前に立つ。

エレベーターは1階に止まっていたため、ボタンを押せばすぐに乗れるのだが、

その勇気が持てないまま、しばらく立ってしまう。


「ひかり!」


その様子を確認した華絵が、店の扉付近から、さらに声を出した。

ひかりは慌ててボタンを押し、中に乗り込む。

ここからまた出て行くと華絵が強引に着いてくるかもしれないと思い、

覚悟を決めて5階のボタンを押した。

祥吾に対して、ラインで今から行きますと言うべきかと思ったが、

それでは本当の気持ちがわからないと思い、携帯をしまう。

ひかりは目を閉じ、速くなる鼓動をなんとか呼吸でごまかした。



「ふぅ……」


玄関前に到着し、次は、インターフォンを鳴らそうとするものの、

ひかりの指はそこから動かない。

華絵の勢いに押し出されてきたが、いざとなるとやはり動けなくなった。

重たい扉に耳を近づけ、中の様子がわからないかなと考えたが、

もちろんそんな気配など、扉から漏れてくることなどない。

背中越しに扉が開く音がしたので、ひかりは柵の場所から外を見る。

知らない男性がエレベーターのボタンを押し、ひかりが乗ってきたものに乗り、

下へ降りていった。


「はぁ……もう……」


『突然家に来る』なんて、こんなことをして非常識だと思われないだろうかと、

また心配が前に出る。それでも、下では事情を知った華絵が待っているため、

このまま帰るわけにはいかないとそう思う。

あらためてインターフォンに指を向けた瞬間、扉がガチャンと開いた。


「あ……」

「うわ……」


祥吾は夕食になるものが何もないため、買い物に出るつもりで扉を開けた。

そこにひかりが立っていたため驚くが、すぐに『何かあったのか』と心配する。


「あの……」

「どうしたの? 『かをり』で何かあったとか?」


ひかりはその場で首を振る。


「なら……」


『それならば何をしに……』と聞こうとしたが、もしかしたらひかり自身が、

ここに来たいと思ってくれたのではないかと感じ、

祥吾は、次の言葉『会いたかった』を期待する。


「私、見たんです」

「エ……見た?」


ひかりから出てきたのは、祥吾の期待するような『甘い台詞』ではなかった。

声を出したひかりの表情は、明らかにこわばっていて、その視線には、

強い決意が感じられる。


「昨日のことです」


ひかりは『間違っていない』と、しっかり頷く。

頭の中で、『須美川の奇跡』と呼ばれながらも頑張った日々が蘇ってきた。


「最上さん、昨日の夜、ここに立花さんと……いましたよね」


祥吾の頭の中も、予想していない展開に混乱していた。

『どうして』と聞こうと思った瞬間、『かをり』が頭に浮かぶ。


「『かをり』にいたの?」

「聞いていることが違います。昨日……」

「いたよ、間違いない」


祥吾は、とにかく中にとひかりを入れようとする。


「嫌です、一緒の部屋になんて、入りたくありません」


ひかりは祥吾の手を振り払う。


「一緒? もういないよ。彼女は実家に戻った」

「実家?」


ひかりの声に、祥吾は『立花さんの実家は島根だ』と語る。


「島根ですか」

「あぁ、とにかく話しをするから入ってくれ。確かに二人でいたところを見たのなら、
なんだよと思ったかもしれない。でも、俺だって君に言いたいことがたくさんある」


祥吾はそういうと、ひかりの手を強引に引き、玄関の中に入れる。


「たくさん? そんなにあります?」


ひかりにとっても、祥吾の反応は予想外だったこともあり、

強く出た台詞の続きはどこかに隠れてしまい、『たくさんある言いたいこと』の方に、

気持ちが移ってしまう。


「あぁ、あるね。そもそも『かをり』にいたのなら、連絡でもくれよ。
それならすぐに対応できたし」


祥吾は、先に靴を脱ぎ中に入る。


「連絡なんて、する気持ちになれませんよ」


ひかりは靴を脱ぐことはせずに、祥吾の手を振り払い、

玄関に立ったまま、不満だという視線を送った。


【20-1】





コメント、拍手、ランクポチ、参加をお待ちしてます。★⌒(@^-゜@)v ヨロシク♪

コメント

非公開コメント