20 どうしても、そう言いたいわけ? 【20-1】

20 どうしても、そう言いたいわけ?


【20-1】


「どうしてなれないんだ」

「どうして? どうしてって言ってます?」


ひかりは、祥吾が昨日の状況を軽く見ていると思い、悔しさを倍増させる。


「どうしてじゃないです。私、二人でいるところを、この目で見たんですよ。
最上さん、スーツだったし……。それ、おかしいでしょう、昨日、会社ないのに。
目の前で何やら話しをされているし、さらに揃ってエレベーターに乗っていくし、
まるで待ち合わせしていたみたいに……」

「待ち合わせなんてしていないよ」

「だって、二人でいるわけですよ、ここに。どんな気持ちで来ればいいんですか。
一緒にいるところなんて……見たくないもん」


しっかり考えて言葉にしているつもりだが、感情の方がどんどん前に向かってしまい、

どこかとっちらかった状態のまま、ひかりは怒りをぶつけていく。


「俺だってそんなつもりはなかった」


部屋に入った祥吾は、ひかりが『何もわかっていない』と思い、そう叫ぶ。


「ここに入るのは君だけだと、俺だって思っていたよ」


祥吾は自分の手で、『この部屋だ』というように床を指し示す。


「昨日、スーツ姿で戻らないとならなかった理由は……あ、そうだよ、
そんなふうにおかしなことになったのは、浅井の責任もある」

「私?」

「そうだ」

「人のせいに……」

「金曜日、俺がどれくらいショックだったか……」


ひかりは、『あ……』と声を出し、すぐに下を向いた。

金曜日の別れ際、確かにおかしな態度を取った。


「一緒にいることより、掃除って言われたんだぞ……」


ひかりは確かに金曜日のことを出されると、自分にも非があると思い、

靴を脱ぎ、おとなしく中に入る。

祥吾の暮らす場所に入るのは、初めてだった。


「とにかく色々と誤解がある。座ってくれ、きちんと説明するから」

「……はい」


ひかりは頷き、静かにソファーに座った。

前にあるテレビ、横にある雑誌。おそらくその先は部屋だろうと思える扉。

そしてこのソファー。

祥吾が一人で暮らす場所にあるもの全てを、自分ではなく唯が見ていったのだと思うと、

色々なことがあったにも関わらず、また、悔しさがじわじわと湧き上がってくる。

最初は『怒り』の方が強かった感情も、『情けなさ』の方が強くなり、

やがて涙が浮かんできた。

コーヒーを入れようとしていた祥吾は、

あれほど訴えてきたひかりが黙ってしまったため、気になり顔を覗こうとする。

ひかりはこんな状態の顔を見られるのが嫌で、あえて反対側を向いた。

祥吾は、ひかりの隣に座る。


「俺は、金曜日、週末だし、一緒にいたいと言ったつもりだったけれど、
『片付け』があるからって言われて、正直、ショックだった」


祥吾は、人の気持ちを読むのが苦手なところもあるし、

強引になるべきではないと考えていたけれどと、言葉をつけ加える。


「そのまま家に戻れば、一人でいることに余計空しさを感じそうだったから、
急に戻る気が無くなって、あの後、叔母の家に……あ、ほら、前に話しただろ。
『みらいず』のお世話役をしているのは叔母だと」


ひかりはそう言えばと思いだし、黙って頷く。


「最初から飲むつもりで色々買っていったけれど、どうも予想外に飲んでいたらしくて、
向こうに行って、飲んで10分後くらいからの夜の記憶がほとんどない……
気づいたらガンガンする頭を抱えて、ソファーの下に転がっていた」


祥吾は夕方近くまで立ち上がれなくて、やっと戻ってきたところに、

唯が立っていたことを話す。


「実は、佐竹教授に呼び出されて、彼女が『ボルノット』を辞めたことは聞いていた」

「辞めた? エ……」


ひかりもさすがにそこには反応し、『なぜなのか』と聞き返す。


「理由は彼女にしかわからない。俺はそこをしつこく聞く立場でもないし。
ただ、辞め方も突然だったから、同僚が心配して教授に連絡した。
前に会ったことあるんだろ、村上にも。立花さんと一緒にいたはずだ」

「あ……覚えています。最上さんは元気ですかって、すごく嫌みな態度で……」


祥吾は、あの時、ひかりはそんな言い方をしなかったのにと思い、

『だろうと思っていたよ』と笑う。

ひかりは『そうだった』と思い出し、慌てて口を強く結ぶが、

出て行った言葉は当然、戻らない。


「連絡はないかと聞かれたから、ありませんと話したよ。だって、本当になかったし。
だから昨日、下に立っていたのは驚いた。実家に戻る前に、会おうと思っていたみたいで、
もっと早い時間に来たけれど、俺がまぁ、いなかったから、出直したって。
もちろん、部屋にあげようと思っていたわけではない。でも、最初に話した通り、
彼女の実家は島根なんだ。大学の周りくらいは多少覚えているだろうけれど、
この辺は何も知らないし、すでに彼女がどこかで、お酒を飲んでいたからさ……」


新幹線の最終を考えても、『帰れ』とは言い切れなかったと話す。


「あらためて話しをした。とは言っても、今更何か変わるわけではないけど、
でも、区切りだったと思う。で、俺はここを出た」

「出た?」

「うん……もう一度今川家に戻った。ウソだと思うのなら、『みらいず』に電話して、
叔母さんに聞いてくれ。こうなったら誤解は避けたいし、俺がもし、逆の立場なら、
ひかりが……何もなくても、他の男と一緒に部屋にいたって話しは、聞きたくないし」


祥吾は唯が残したメモを、ひかりに見せる。


「これが金曜からの全てだ。最善の方法だったのかと言われたら、それはわからない。
でも……俺は俺なりに、乗り切ったつもりだけれど……」


ひかりは唯の残したメモを見ながら、祥吾の言葉を聞いた。

起こした行動を考えても、残した文章の優しさから考えても、

唯が未だに祥吾に対して、思いを持っていることは理解できた。

この場所を提供する代わりに、祥吾はひかりへの気持ちを守ろうとしてくれた。

ひかりは、そもそも金曜日に、あんな別れ方をしなければと、自分の行動を振り返る。

言葉を押し出そうとするが、なかなか一言目が出ないまま、1分近くが過ぎる。


「どっちも……どちらも大事で……私にとって」


ひかりの小さな声に、祥吾は言葉を聞き逃すまいと、顔の向きを変えた。

今まで疑問符がついた行動の意味が、この場でわかるのだろうかと考える。


「智恵さんが……」


ひかりは『ごめんなさい智恵さん』と心から声を送る。


「選抜チームに入れることを望んでいて。智恵さん、実家を継がないとならないから……」

「うん」

「あ、そうでした、話したって言ってましたね」

「うん、選抜チームになって、初めて集まった後に、細川から直接言われた。
お兄さんが弁護士になって、自分が実家を継ぐことにしたと。
来年の3月……もしくは流れによっては9月に退社するつもりらしい。
ただ、まだ吉川部長には言わないで欲しいって」


祥吾は、辞めることが伝わると、チームから外されるのではないかと心配し、

とりあえず祥吾の中で収めて欲しいと言われたことも話す。


「他には?」

「他?」

「それで終わりですか?」


ひかりは智恵が祥吾に対して、『個人的な感情』は見せなかったのだろうかと、

『続き』があったのかを確認する。


「最上さんが入ってきてくれて、自分にも気持ちの区切りがついたって言っていたな。
一緒に仕事がしたいと思える人と、やっと出会えて嬉しかったって」

「出会えて……」

「うん」


ひかりは、祥吾から智恵が話したという内容を聞きながらも、

もっと、本当は伝えたかった思いがあるのではないかと考える。


「智恵さんは……」

「俺は……」


ひかりの言葉を止めるように、祥吾の声が重なる。


「俺は、その細川の気持ちに、『仕事』で精一杯応えようと思っている。
俺自身が、『KURAU』に入って、ここなら頑張れると思ったところがあるから。
自分の考え、アイデア、意見はどんどんぶつけていくつもりだし、
これから、選ばれた5人で、最高のものを送り出す気持ちになっている。
それが……出来ることだと思うから」



『出来ること』



たとえ、智恵が祥吾を好きだとしても、応えられる範囲は限られている。

ひかりは『それなら自分はどうすればいいのか』と思いながら、テーブルの端を見た。


【20-2】



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