20 どうしても、そう言いたいわけ? 【20-2】


【20-2】


「山内と細川には、世話になったんだろ。『須美川の奇跡』と言われても、
負けずに跳ね返していこうと思えたのは、いい先輩達がいたからなんだろう」

「……うん」

「だったら、ひかりの気持ちを、細川が理解しないわけがないだろう。
誰よりもこれからを、応援してくれるはずだって」



『ひかり……』



「うん……」

「お前のことも、島津のことも、細川は気にしているよ。でも、二人とも、
きちんと歩いて行けるだろうと、そう思えたから、辞める気になれたのだろうし」


祥吾の言葉を聞きながら、ひかりはその通りだと思っていた。

ひかりが『幸せだ』と思えることを、智恵が受け入れてくれないはずがない。


「俺が最初に言ったから悪かったな。メンバー選考のこともあって、
周りにはばれない方がいいだろうなんて話したから、
君にとっては変なプレッシャーになってしまって」

「ううん……私がダメダメです」


智恵の気持ちを知り、一人で焦って一人で泣いていたと、ひかりは笑顔を見せる。

祥吾はひかりを引き寄せようと左手を動かすが、その手が届く前に、

ひかり自身が、祥吾の肩に頭を乗せる。


「本当は、掃除なんてどうでもよかったんです。こんなふうに……毎日したかった」


ひかりはそういうと、少し顔をあげる。

祥吾は、ひかりの心の声に、ほっとした表情を見せると顔を近づける。

二人の唇がそっと重なった。


「昨日……もったいなかったな」

「なんだよそれ」

「いいんです、言わせてください」


ひかりは、下で華絵ちゃんに愚痴を言ってきたから、

どうなっているのか心配していると話す。

祥吾は『報告に行こう』とひかりの手をつかみ、立ち上がった。





「すみません、ご心配をかけました」

「いえいえ、最上さんがそんなことをするわけがないと、思っていましたよ」


ひかりと祥吾は、互いの誤解をといた後、

下にいる華絵に事情を説明するため、『かをり』に向かった。

華絵はさっきまでとは顔つきが全然違うひかりを見て、笑い出す。


「何笑っているの? 華絵ちゃん」

「何って……だってひかりの顔、さっきまでとは全然違うでしょう。
もう、この世の終わりみたいな顔で入ってきて……」


華絵は『半分以上泣いていました』と祥吾に話す。


「あ、もう、いいってば」


ひかりは華絵と祥吾を交互に見た後、これ以上は言わないでという意味を込めて、

華絵に向かって細かく首を横に振る。


「よくない、よくない」


華絵はさらにそういうと、

『本当に何にも出来ませんが』とひかりのために頭を下げた。

祥吾は『いいえ』と首を振る。


「ひかりは……俺にないものを持ってます。
こっちに来てから、本当に色々と助けられたので」

「本当ですか?」

「華絵ちゃん」


ひかりの不安そうな顔に向かって、華絵は『ごめんなさい』と笑いながら頭を下げる。


「足りないところがあるのは、俺も同じですから。
これから一緒に、色々言い合って、埋めていくつもりです」


祥吾の言葉に、ひかりは『うん、うん』と頷く。


「頷いている場合じゃ無いからね、ひかりは足りなすぎるのよ、努力しなさい」

「……はい」


華絵の言葉に、ひかりは神妙な顔をし、あらためて頷く。

そこからは、食事をしながら、楽しい話しが続いた。



常連客と、華絵に見送られ、二人は『かをり』を出た。

この1週間ほどで、朝と晩の気温は、一気に下がるようになっている。


「はぁ……寒い夜のはずなのに、なんだか暖かく感じる」

「いい気分で酔っているからだろ」

「酔ってます? いや、少しですよ、少し」


ひかりはそういうと、片目を閉じ指で少しを表現しながら笑う。

祥吾は空いているひかりの手をつかみ、何も言わないまま歩き出した。

その行為に、ひかりも『帰ります』と言わず、祥吾についていく。

二人はあらためてエレベーターに乗ると、5階の部屋に戻った。



手をつないだままで玄関を開け、ライトもつけず奥へ入る。

カーテンの隙間からは月明かりが入り込むので、

それでも互いの顔はしっかり確認できた。

祥吾はそこで手を離し、そのままひかりを抱きしめる。

ひかりもその流れを受け入れ、どちらからと言うわけでもなく自然とキスをした。


「ここは須美川ではないですけど、これこそ奇跡です」

「何、奇跡って」


ひかりは頷くと、祥吾の腰に手を回す。


「最上さんが、世の中にいる女性から私を選ぶ確率の方が、
『KURAU』に入れる確率よりも、全然低いでしょう……」

「そうかな」


祥吾はひかりの頬に触れると唇を重ね、さらに頭を支えながら、首筋にキスをする。


「ひかりは自分を低く見すぎだよ」

「エ……」


祥吾はひかりの手を引き、寝室に続く扉を開けた。


【20-3】



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