25 見てください、こっちです! 【25-2】


【25-2】


勇也は予想していたのか、素早くカメラを出す。


「それなら、この壁をバッグに撮りましょうか。
テーブルから少しみんなで動いてもらえば、いいかなと……」


勇也の指示で、8人全員が立ち上がる。


「この携帯でも撮りますからね」

「はい、ありがとうございます」


智恵の携帯を受け取った愛美は、勇也の後ろに構える。


「あの……私のもお願いします」


小春は『いいですか』と声に出し、自分のバッグから携帯を出していく。


「はい」

「あ……私も……」


ひかりが顔を上げると、愛美とちょうど目が合ってしまう。


「お久しぶりです」

「あ……はい、こちらこそ……」


愛美は、ひかりからも携帯を受け取ると、笑みを浮かべる。

ひかりはその笑みに応えた方がいいだろうと思い、口元を動かした。


「はい、みなさん、いいですか? あ、ほら、もう少し寄ってください」


勇也の指示に、愛美がひかりの手を引き、祥吾の横に座らせる。


「あなたはこっちに。なるべくみんなが真ん中に集まらないとね」


愛美は、自分の行動をきちんと正当化し、元の位置に戻った。


「はい、いいですか、撮りますからね」

「はい、見てください、こっちです!」


ひかりは、会にあまり関係のない自分は、後ろに立とうとしたのに、

祥吾と並ぶようにされたことが少し気になったが、

すぐに勇也の声がかかったため、前を向く。


「はい、『チーズ!』」


勇也のかけ声の隣で、愛美も携帯を構えている。


「ちょっとごめんなさい。ここにいくつか携帯があるから、そのままでお願いします」


携帯は智恵と小春、ひかりの3台あるはずだと思っていたが、

なぜか4回、愛美がシャッターを切った。

ひかりたちは愛美からそれぞれ携帯を戻され、それを受け取っていく。


「どうしたの? ひかり。なんだかボーッとして」

「ん? ううん、そんなことないよ」


ひかりは『4回のシャッター』が気になったものの、

帰り支度が始まったので、遅れないように上着を取る。


「あぁ……美味しかったです。久しぶりに酔った気がするな」

「お兄ちゃん、大丈夫? ちゃんと帰ってよ」

「帰るよ」

「智恵さん、お兄さんにも私たちと同じように帰りの心配しているね」

「本当だ……」


智恵の行動を見ながら、ひかりと小春は笑い出す。


「みなさん、最後に少しだけお時間をよろしいですか」


友則が1本のワインを手に、場所に現れた。

帰ろうと立ち上がっていた8人の真ん中に入ると、

そのワインをひかりの前に差し出してくる。

ひかりは、なぜワインを出されたのか意味がわからないため、手が出せない。


「浅井ひかりさん……27歳のお誕生日がもうすぐだと」

「あ……エ? あの……」

「どうぞ、これは『カリーナ』から、いや、今日の会でお会いしたら、今川家一同、
しっかりとお願いしようと、以前から思っておりまして」


友則は『祥吾をよろしくお願いします』と頭を下げる。

愛美や勇也もその後ろで頭を下げた。

ひかりは『どういうことだろうか』と目が点になり、

祥吾は『は?』と、大きな声を出す。


「叔父さん、叔母さん、あのさ……」


友則の前に出ようとした祥吾を、勇也が背中で止める。


「おい、勇也……なんだよ、そこをどけって」

「あれ? 邪魔か……俺」


そう言いながら、勇也は祥吾の動きを止める。


「あれはいつでしたかね。祥吾があなたとうまくいかないと、
うなだれてうちに来たことがありまして。両手にお酒を抱えて、
まぁ、とにかくやけ酒ですよ、飲んだ、飲んだ……」

「そう、飲んだ、飲んだ……」


そばにいた勇也が、『そうそう』と声に出す。


「おい……勇也、どけって言っているだろう」

「黙っていろ祥吾。ここまで来てドタバタするな、
今日は今川家に全てを任せておけって言っただろう」

「任せてって、そういう話じゃないだろうが」


祥吾はなんとか隙間から奥に入り、友則を戻そうとする。


「叔父さん……」

「なんだ」

「なんだじゃないよ……あのね……」

「浅井さんに嫌われたくない、避けられたくないって、もう泣きそうだったんですよ……
いや、完全に泣いていたんですよ、祥吾が……」

「叔母さん!」


愛美がすかさず『あの台詞に自分がキュンキュン』したと、友則をフォローする。


「いや、ちょっと……」


慌てる祥吾のそばで、法律事務所のメンバーと、小春や智恵、雄平がただ呆然とする。


「お前の気持ちがわからない女なら、別れてしまえなんて、私もつい言ってしまって。
そうしたらこう……」


友則は自分の服をつかむ。


「こう服をつかまれて睨まれまして。彼女はそんな人じゃない、
いい子だって、まぁ、語る語る……」


友則と愛美、勇也の対応に、

祥吾は『完全に仕組まれていた』と見抜き、大きくため息をつく。


「そんな祥吾ですけれど、とにかくよろしくお願いします」


勇也がまとめるようにひかりに頭を下げると、

圧倒されたままのひかりは、ただ頷くだけになった。





『カリーナ』から出た後、

智恵と小春、そして雄平はあえて祥吾とひかりと別れ、駅に向かった。

店のあるビルから出て、しばらく誰も語らなかったが、

一番最初に智恵が耐えられなくなり、笑い出す。


「あぁ……もう、やだ、我慢出来ない」

「笑ったらダメですよ、智恵さん」

「だって、ひかりがもう……目が点々になっていて。最上さんはさ、あはは……」


智恵は『はぁ……』と息を吐き、また笑い出す。


「高坂がいなくてよかったな」


智恵の言葉に、雄平がそう付け足していく。


「本当、本当、高坂さんがいたら……もっと大惨事でしたね。
明日から最上さん、『第2企画部』のチーフなんてやれないですよ、きっと。
もう……あはは……」

「細川、笑いすぎだって」

「山内さんだって顔、笑ってます」

「もう……二人とも……」


そう言いながらも、小春もおかしくなり、だんだんと笑みが浮かび出す。


「でも素敵じゃないですか。ひかりに嫌われたくないって、グズグズしちゃった最上さん。
訳がわからなくなるくらい飲んで、愚痴っていたなんて、
私はさらに、信頼出来る気がします」


智恵は、『本当に温かい人ですね』と祥吾を評価する。


「幸せだな……浅井は……」

「本当、本当」


智恵は『ひかりも驚いていたけれど、最後は嬉しそうだった』と

少し前の時間を振り返る。


「あ、でも、私たちも幸せですよ。最上さん、チーフですから」


小春の一言に、智恵も雄平も黙って頷く。

一度静かになった3人だったが、またどこからか笑い声が聞こえ出した。


【25-3】



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