25 見てください、こっちです! 【25-3】


【25-3】


ひかりと祥吾は、3人と少しずれて『カリーナ』を出ると、一緒の電車に乗った。

帰り道も特に話すこと無く、黙ったままで席に座る。

ひかりは友則から渡されたワインの瓶を見た後、隣に座る祥吾を見た。


「私が、祥吾さんを嫌うわけないのに……」


ひかりはそういうと、瓶をそっとバッグに入れ、カバンを抱えるように持つ。

電車の揺れる音が、同じリズムで刻まれた。

時々、他人のくしゃみや、咳をする音が混じり出す。


「あれはあの人達の冗談だからな。全く、あんなこと言うか、こういう日に」


祥吾はそういうと、『ふぅ……』と息を吐く。


「そうですか? 今川家のみなさん、素敵な人たちでしたよ。
お料理も本当に美味しかったし、また行きたいです」


ひかりは自分の携帯電話を出し、シャッターを押してもらった写真を見る。

メンバーたちの顔と、隣にいる祥吾の顔を何度も確認した。


「浅井は聞かされた方だからいいだろうけれど、俺は……最悪だろ。
明日から、どんな顔をして仕事に行けばいいんだ。3人ともあっけにとられていて……」

「どんな顔って、冗談だったのでしょう。だったらそう言いましょうよ」


ひかりは山内さんも智恵も小春も、そんなことをからかいませんよと話す。

祥吾からは言葉が戻らないまま、電車は先へ進んでいく。

扉が開き、人が降りると、同じくらいの人数がまた車内に入ってくる。

塾帰りなのか、何やら参考書を見ている子供がいるし、

携帯のゲームに夢中なのか、急に悔しそうな顔をする男性が立っていた。


「ウソだよ……」


隣から聞こえた小さな声に、ひかりが反応する。


「ウソ? わかりました、冗談ということで……」

「冗談だって言うのはウソ。記憶にはないけれど、
おそらく今川家の人たちが言ったようなことを、あの日は言ったはずだ」


参考書を見ていた子供が、『クシャン』とくしゃみをする。


「次の日の土曜日、起きたのはいいけれど頭が痛くて、
残っていた叔母さんにも勇也にも、俺が何か言ったのかと聞いてみた。
でも、二人とも揃って首振るだろ。そのときに、あぁ、何か言ったなとは、
思っていたけど……言うか? あの場面で」


祥吾は、だんだんとおかしくなってきたのか、笑い始める。


「笑ってます?」

「笑うしかないだろう。あの人たちにはかなわないなと思って。
規格がない人たちだからさ、何を言い出すのか、やり出すのか、全然わからなくて」

「でも、とっても温かいじゃないですか。私の心にはすごく響きました」


ひかりは『恥ずかしいけれど嬉しかった』と感想を話す。


「嬉しかったのか」

「嬉しかったですよ……」


ひかりは『嬉しかったです』と繰り返す。


「この最悪な中、一つだけよかったなと思ったことがある」

「高坂さんがいなかったこと……ですか?」


祥吾は『うん』と頷く。


「確かに……。高坂さんがいたら、大変でしたね」

「あぁ……。俺、企画部異動願いを出すよ」


祥吾は『第1』は嫌だけれどと口にする。


「いや、甘いです。高坂さんはそんな仕切り、飛び越えますよ。
『最上さん、聞きました!』って……」


ひかりがそう言って笑うと、『そうだよな』と祥吾も応えていく。


「あぁ……華絵ちゃんに報告したい」

「辞めてくれ」

「どうして?」

「言わないとわからない?」

「わからない」


ひかりが笑いながらそういうと、祥吾がコツンと頭を叩く。

ひかりは『だって嬉しいんだもん』と言いながら、また笑い出した。





それから3日後、ひかりの誕生日が本当にやってきた。

ひかりは祥吾と食事をし、ゆっくりとした時間を過ごす。

クリスマスも近い20日という日付のため、両方味わえるようにケーキも揃えた。

小さなツリーを作ったひかりは、両親からもらったオーブンを使って、

食事の準備を整える。


「出来た!」

「いい匂いがするな、確かに」

「でしょう。すごいすごい……」

「すごい、すごい……オーブンが」

「あ!」


ひかりは『私が……です』と、胸を叩き、笑いながら言い返す。

祥吾は、早く食べようと食器棚からお皿を出し始め、

ひかりは飲み物を冷蔵庫から取り出した。



「よし……これでOK」


その同じ時刻、今川家では愛美がPC前に座り、何やら文章を打ち込んでいた。

風呂場から出てきた勇也は、頭をタオルで拭きながら冷蔵庫の前に立つ。


「あ……その写真、この間のだろ」

「そうよ、当然でしょう」


冷蔵庫からビールを取り出した勇也はプルを開けながら、愛美の後ろに立った。

画面に出ている写真は、祥吾とひかりが並んで写っているものになる。


「あれ? ツーショット?」

「そうよ」

「そうよって……何するつもり」

「何でもいいでしょう……」


愛美は横に置いた原稿らしきものをサッと隠すと、

『終わった』と言いながらメガネを外した。勇也はPC画面を自分の方に向ける。


「お袋、また祥吾を利用しているのか。これ『みらいず』のだろ」

「利用なんてしていないわよ、私は事実を残しているだけ……」

「許可は……」


愛美は黙ったまま立ち上がり、勇也と同じように冷蔵庫に飲み物を取りに行く。


「うわぁ……ほら、確信犯だ」

「うるさい」

「親父は絶対にからかうななんて言っておいて、この間みたいなことをするし、
お袋は何度も、何度も懲りずに……」


勇也はビールに口をつける。

愛美も出した缶ビールのプルを開けた。プシュッと音がしたため、

慌ててこぼれないように口をつける。


「懲りずに何よ」

「いや……たくましいなと思ってね」


勇也はそういうと、『祥吾は最上の叔母さんに似ているよね』と、

写真の目を指さした。


【25-4】



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