25 見てください、こっちです! 【25-5】


【25-5】


「そうか、長野ね」

「一緒に行きましょう」

「そうだな」


1月の日曜日、ひかりは祥吾の部屋で過ごしながら、

携帯を取り出し、智恵の実家がある場所を探し出した。

隣に寝ている祥吾はと画面を見ると、また『みらいず』のサイトを見ている。


「まだチェックしている。もう何もないですよ。あれからそろそろ1ヶ月だし」

「1ヶ月?」

「はい」

「そうか、そうだよな」


愛美が写真を撮っているのではと思ってから、

祥吾は毎日『みらいず』のサイトを確認していた。

もちろん、何かに使われたら、すぐにでも文句を言う用意だけは出来ている。


「これから春になっていくし、写真も季節が合わなくなるし。
失敗したら困ると思って、保険のつもりでシャッターを押したのでしょ、きっと」

「うーん……まぁ、そうだよな。ここまで変化がないし」

「そうですよ」


祥吾とひかりは、携帯を横に置く。


「あ、そうだ、細川がいなくなるから、春には一人入るらしいぞ第2に」

「……エ! そんなこともう決まっています?」

「おそらく新人だろうけれどって、吉川部長が言っていた。
教育係の話をされたから、俺はひかりを推薦しておいたけれど」

「は? 何するんですか!」

「何するって、どういうことだよ」


ひかりはベッドの中で身体をぐるっとまわし、祥吾と向き合うようにする。


「私が教育係……」

「入社年数とか、仕事の状態を考えるとそうなるだろう。
企画メンバーの仕事は終わっても、山内や高坂には別のものがあるし、
まぁ、少し年齢も離れるしさ。だとすると島津と並べたら、
ひかりの方が『第2』は長いわけだし……」

「鈴本君」

「鈴本は後輩だぞ」

「でも……実力あるし」


心配そうな顔を見た祥吾は、少し笑みを浮かべ、ひかりの頭を自分に近づける。


「教育係っていうのは、仕事だけを教えるわけじゃないんだ。
ひかりだって、山内に色々と教わっただろう」

「そうだけど……」

「俺はひかりで大丈夫だと思うし、吉川部長も『OK』出してくれたぞ」

「本当に?」

「そう、ひかりはもう『須美川の奇跡』じゃない」


祥吾はそういうと、ひかりのおでこに口づける。


「山内や細川にしてもらったことを、後輩にしてやればそれでいいんだ。
企画部全体で、ちゃんとフォローするよ。もちろん俺も含めて……」

「……はい」


ひかりは『そうですよね』と言いながら、顔を上げる。


「あの……」

「何?」

「出来たら、こっちにもお願いします……」


ひかりは黙って目を閉じる。

祥吾はそれに応えるように唇を合わせた後、空いていた手を頬に当て、

さらに長いキスをし始める。ひかりも手を添え、気持ちに寄り添い出す。

ぬくもりの中で目覚めた2人の朝は、まだしばらく布団の中にあった。





「みなさん、お配りした資料をご覧ください」


ひかりと祥吾が楽しそうにまどろんでいる頃、都内にあるホールでは、

愛美と同じように『みらいず』の世話人として羽ばたこうとする女性達と、

こういった組織があることを知り、登録をしようか迷っている女性達が集まる会が、

開かれていた。

配られた資料には、数名のカップルが写真を載せている。


「それでは、東京東営業所、今川愛美さん、お願いします」

「はい」


数名の世話人の中から、愛美が指名され壇上にあがった。

女性ばかりの視線が、一斉に愛美に向かってくる。


「ただいま、ご紹介にあずかりました、世話人の今川愛美と申します」


会場から拍手が起こり、愛美は頭を下げた。


「それでは、お配りした資料をご覧ください。
この二人は、私が一番最初に『マッチング』をした二人です」



「なぁ、昼、何食べる?」

「パスタがいいな」

「なら俺作ろうか」

「本当に?」


ひかりはそれなら『これから、一緒に買い物に行こう』と、洗面所から声をかける。


「了解」


祥吾は読みかけの雑誌を閉じると、財布と携帯をつかむ。


「スープスパゲティーがいい」


ひかりはリビングに戻ると、同じように財布と携帯を持った。





「ほぉ……これを愛美が」

「そう、今頃。『みらいずの会』で得意げに話しているよ、きっと」


ひかりと祥吾の昼食が『スープスパゲッティー』に決定した時、

今川家のリビングでは友則と勇也が、愛美の残した『今日の資料』を見ていた。

愛美が祥吾とひかりの写真を利用したのは、サイトの宣伝ではなく、

今日のイベントで『自分の成果』を発表する資料としてのため、

表には出てきていない。


「親父、見ろよここ……」

「ん?」

「私たちは『みらいず』で幸せをつかめました。これほど素敵なお相手と出会えたのは、
細かいアドバイスをいただける『みらいず』ならではと思います。
楽しい時間を過ごしていたら、あっという間に1年が過ぎていきそうです。
これからしっかりと準備し、結婚に向かっていこうと思います……なんて、
書いてるんだぞ。なぁ、祥吾の気分になってお袋が勝手に……」


勇也は、愛美が残した原稿の下書きを読む。


「おそらくそうなるだろう」


友則はそういうと軽くあくびをする。


「は? そこに反応する? 勝手に書いたらまずいとは思わないの? 親父」


勇也はどういうことだと首を傾げる。


「ウソだとまずいだろうが、祥吾は真面目な男だ。お前が心配しなくても、
愛美がここに書いているとおり、きちんとするよ」

「いやいや、かもしれないけれど、本人は書かれたことも、写真も何も知らないんだぞ。
『ハチ』……いや、浅井さんの方から、祥吾が振られるかもしれないし」

「振られるわけないだろうが。最上祥吾だぞ、あれ以上の素材はなかなかない」


友則は、仕事もしっかりあるし、性格も優しいと祥吾を褒める。


「お前、女だとして祥吾を振るか?」


友則の言葉に、勇也は『まぁ……そうだよな』と、

サングラスを拭きながら、納得してしまう。


「いや、愛美はいい仕事をした」


友則はそういうと、『さすが俺の女だ』と声に出す。

勇也は、『何を言っているんだ』と言いながらも、2人らしいなと思い笑顔になった。





「みなさんもぜひ、『みらいず』にご参加ください」


友則に褒められたことをまだ知らない愛美は、『みらいずの会』の壇上で、

完全に主役気分になりながら、気持ちよく話し続ける。


「この写真のように『幸せ』をつかむ2人を、あなたの手で作り出しましょう。
そして、どうしようかなと迷っているあなた……」


愛美の手は、入会を考える女性達に向かう。


「あなたの『未来図』を、ぜひ、私たち世話人にお任せください!」


愛美が両手を挙げて頷いている後ろには、祥吾とひかりの写真が映っている。

会場からは、愛美の演説を聴き、最初よりもさらに大きな拍手が沸き起こった。





「クシャン……」

「あ……クシュン……まずい、祥吾さんにうつされた」


愛美が大きな拍手をもらっている頃、ひかりと祥吾は買い物に行くため歩き出す。


「うつすってなんだよ」

「だって……」


ひかりはそう言って笑うと、祥吾の腕をつかむ。


「いや、真面目な話、アレルギーかもしれない。
これだけクシャミが出るって、あんまり人生の中で記憶にないし。
風邪じゃないとなると……いや、違う……」


祥吾は『ひかりが風邪なんだろう』と言い返す。


「あ、人のせいにしないで」


ひかりはそう言うと、『昼食にサラダもつけよう』と笑顔を見せた。



『MATCH』 終







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