2 美しい瞳 【2-3】


【2-3】


「お待たせしました。『リオ』です」

「はい」


男性客の返事に、栞はすぐ頭を下げ、もう一度『リオ』ですと自己紹介した。

ママは、『リオ』は臨時で来てもらっているので、慣れないところが多いけれど、

大丈夫なのかと念を押す。


「いいんですよ、特別にサービスをしてもらうと思ってきているわけではないですから」


その男性、『多田等(ひとし)』は、若い人たちと話すことが、

自分の活力になるとそう言い、ソファーをポンと軽くたたいた。

栞はその場所へ入る。

それではとママがテーブルを離れ、席には多田と栞の二人になった。


「何か作りましょうか」

「君の好きなものでいいよ。僕はお酒が強いと思うので、
何を飲んでも酔いつぶれないから」

「好きなものと言われても……」


朱音なら、客の懐具合を探りながら、お酒を勧めていくことくらい出来るのだろうが、

栞にはその駆け引きは難しく、とりあえず普通の水割りを作ることになる。


「ホステスさん、僕がいくつに見えますか?」

「年齢ですか」

「うん」


栞は多田の顔をじっと見ると、35くらいですか? とそう尋ねた。

多田は黙ったままになる。


「あ……えっと……あれ?」


もっと若かったのだろうかと栞は思い、

失礼なことを言ったのかもしれないと、下を向く。


「クッ……」

「エ……」

「冗談だよ、冗談。本当に、君は慣れていないんだね、
こんな僕の芝居に、あたふたするなんて」


多田はそう言いながら笑うと、年齢は45だと発表した。


「45? 見えません」

「いやいや、近寄ってもらえばわかるよ。しわも増えたしね。
あっという間だったな、40代を迎えたらさ。気付けば、子供も高校生だ」

「高校生ですか」

「あぁ……」


スーツのセンスがいいからだろうか、話に余裕があるからだろうか、

45という年齢が、あまりしっくりこないくらい若く見えた。


「本当に、見えませんでした」

「ありがとう。でも、そういう営業トークはいいよ。
僕は君と、普通の会話をしたいからさ」

「いえ、本当にそう思いました。私がよくお会いする43歳の男性は、
もっと、本当にふけてます」

「本当に?」

「はい」


栞にとって、40代の男性というのは、お店の連絡便を運転し、

毎朝花を届けてくれる社員の男性だった。髭は濃いのに、髪の毛は少し薄い。


「へぇ……『リオ』ちゃんの本職は、花屋さんか」

「あ……」


ホステスという仕事柄、あまりプライベートは語らない方がいいはずなのに、

多田との会話が、あまりにもスムーズで、思わず口から出ていった。

今更なのに、栞は口を両手で押さえる。


「どこの花屋?」


多田は、さらに聞きだそうと、耳を少し近づけた。


「……地球です」

「おぉ、地球ね」


多田はそれなら探しやすいと言った後、軽く笑う。

冗談を受け流し、さらに楽しい会話に変えてくれる多田のリズムに、

栞も緊張していた顔がほころび、いつの間にか普通に会話がつながった。





「さて、ご注目……」

「はい」

「今、見せたよね、タネも仕掛けもないって」

「はい、見ました」

「それでは、ワン・ツー・スリー!」


多田の手に持ったトランプカードが並び、

その中に1枚だけ表を向いているものがあった。栞は思わず『アッ』と声をあげる。


「正解?」

「正解です。ウソ、だって……」

「よし、どうだ、見抜けた?」


多田はそういうと、細工がばれないうちにと、カードを片付けようとする。


「ちょっと待ってください。カード、触ってもいいですか」

「触る?」

「だって、これに絶対、仕掛けがあるのでしょ」

「仕掛けかぁ……」


多田は、両手でカードを覆ったまま、どうしようかなと首を傾げる。


「……まぁ、いいか」


多田は、カードを覆っていた手で栞の左手を握り、表にするとゆっくり開かせた。

まとめていたカードをその上に置き、両手でそっと包む。


「何をされてます?」

「細工が『リオ』ちゃんにばれないように、念じてるんだよ」

「エ?」

「よし、これで大丈夫」


等は、そういうと、グラスに残ってるお酒を飲み干した。

栞は手を開き、カードを1枚ずつ丁寧に触る。

特に、どこからおかしいというものは何もないまま、枚数はどんどん減っていき、

やがて全てが終了した。


「何もおかしくないですね」

「おかしくない……と思う?」

「どういうことですか」

「おかしいところはあるんだよ、カードなのか僕の手の中なのかなんなのか。
でも、『リオ』ちゃんには、それがわからないってことだろ」

「はい」

「君は……素直な子だから、悪いことが見抜けないんだね」



『素直』



多田は、左手を顎下に置くと、微笑んだまま栞を見つめた。

栞は、その多田の落ち着いた表情に、心の奥を見抜かれそうな気がして、

慌てて目をそらす。


「ふぅ……楽しい時間はあっという間だ」


多田は腕時計で時間を確認すると、トランプをまとめ始めた。

栞は2時間が基本コースだったことを思い出し、テーブルの上を見る。

話と手品に夢中になり、あまりお酒が進んでいない。

売り上げという面から考えると、失敗に近かった。


【2-4】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント