4 恋のため息 【4-2】


【4-2】


「何? 驚いた?」

「驚いたっていうより……」

「じゃあ、会わなければいい」


朱音に冷静な口調で言われ、栞は言い返すことが出来なかった。

気にしているからこそ、何か反応が欲しいと思っていたし、

迷う心を決めてくれる、後押しを朱音に求めていたのは間違いない。


「栞……」

「何?」

「正直言うと、会わない方がいいとは思うよ。お客様としてお店に来た人で、
話がスムーズに流れていたのも、『お店』あってのことだと思うし。
あ、でも、判断するのは栞でしょ。栞がしっかりした気持ちで会って、
これはと思えば、さようならって言えばいいし、
楽しい時間なら、またおごってくださいねって言えばいいし」

「……ん?」

「今どきさ、『JK』ナンチャラって言うのが、流行っているじゃない。
なんだっけ? カラオケを一緒にしたらいくら、食事はいくら、
手をつないだらいくらっていうの。栞もそうしたら? 多田さん、結構、
羽振りよさそうだったからさ」


朱音は、わざとそうふっかけると、栞の方を向く。


「は? エ……私、別に」


朱音の軽い返事に、栞は自分の思いや考えまで軽く見られた気がして、

少し不満そうな顔をする。


「だったら、辞めた方がいい」


朱音は、真剣な表情で栞を見る。


「そう、辞めた方がいいよ。
わかってる、栞が援助交際なんてつもりはないってことくらい。
だからこそ、わざと『会ってみたら』って言ったの。私は反対だからね。
羽振りのいいおじさんの友達くらいに、割り切って考えられるのならいいけれど、
栞はそうじゃないもの」

「朱音」

「相手は妻子持ちの大人。割り切った間柄なんて面倒だし、辞めたほうがいいって」

「うーん……」

「納得いかない?」

「いかないというか……」


どこか『怪しい』と決められていることに、栞は納得がいかなかった。

多田のかけてくれた言葉自体を、否定されている気がしてしまう。


「そうやって揺れているのは、
その後のことを、栞が考えているってことじゃないの?」

「その後?」

「そう、その後……」


朱音はそれを言い切ると、もう少しだけ眠りたいと言いながら、

自分の部屋へ戻っていった。栞は最後まで紅茶を飲みきると、カップを流しに片付ける。


「その後……か」



『こんな男の話に耳を傾けてくれる気があるのなら、連絡をして欲しい』



栞は、朱音の部屋の襖が閉まっていることを確認し、

引き出しに入れたコースターをそっと取り出してみる。

数字の並びを見ても、携帯電話の番号であることは間違いなかった。

23歳と45歳。

互いに、普段なら語り合えない世代同士が、偶然縁を持った。


「話しをするだけ……何もせずに逃げてしまったら、
多田さんのこと、疑っているみたいだし……」


栞は、自分の携帯電話を片手に持ち、番号だけをゆっくり打ち込み登録した。





『連絡、ありがとう。本当に嬉しいよ』



マンションの外に出て、栞が多田に連絡を入れると、

仕事中だと言いながらも、本当に嬉しそうな明るい声を出してくれた。

ショートメールで多田の連絡先を知ると、

栞は会うことが可能な日を打ち込み、すぐに返信した。



『月曜日 午後7時』



栞にとって月曜日は、朝早い出勤のため、終わるのも早く夕方には自由になる。

そのため、栞が希望を出すと、多田はすぐにOKを返してきた。

二人で決めた、初めての待ち合わせ場所は、

栞もよく知る大きな駅の改札前に決まった。





日曜日。

いつもより眩しい太陽が光る。栞は朝目覚めると、まずカレンダーを見た。

明日は、多田と約束をした月曜日。

今日一日、しっかり仕事をし、明日という日を迎えようと、

栞は支度を整えて、いつものように自転車のペダルをこぎ続けた。

川沿いの道までたどり着くと、以前にも聞いたエンジン音が耳に届く。

青い空をまた、1台のラジコン飛行機が飛んでいった。

その飛行機は、少しふらつきながら、それでもなんとかバランスを保ち飛んでいたが、

ある瞬間、急降下し、栞の少し先に堕ちてくる。

栞はその場から少しペダルをこぎ、ラジコン飛行機がどんなものなのかと覗き込んだ。

すると、子供が芝生の坂道を駆け上ってくる。

栞の前を通り、その飛行機をつかむと、子供はすぐにまた下へと戻っていった。


「おはようございます」


突然、思いも寄らない場所で声をかけられ、栞は慌てて後ろを振り返った。

そこに立っていたのは陽人で、今、墜落した飛行機と同じようなものを持っている。


「おはよう……ございます」

「お花屋さん、この道、通るのですか」

「あ……はい」

「そうですか。ここは天気がいいと、気持ちいいですよね、歩いていても」


陽人はそう言った後、ラジコン飛行機を左手に持ち変えた。

栞は『ラジコン飛行機』が思っていたよりも、重量がありそうなことに驚き、

また機体をじっと見てしまう。


「そんなに重そうなのに、飛びますか」

「重い? あ、いえ、それほどでもないですよ、持ってみます?」


陽人の提案に、栞は結構ですと首を振った。

実際の金額はわからないけれど、そんなに安そうにも思えない。

手が滑りでもしたら、大変なことになりそうな気がしてしまう。


「ラジコン飛行機、見たことないですか」

「ないです。まわりにそういう趣味を持っている人はいませんから」


栞はそういうと、一度降りた自転車にまたがった。

ここで興味のない話を膨らませて、仕事に遅れてはどうしようもない。


「楽しいですよ、飛ばせたときには、とっても爽快感ありますし」

「爽快感?」

「はい」

「ラジコンの飛行機を飛ばすわけですよね」

「はい」

「それなのに、爽快感ですか? 自分が飛んでいるわけでもないのに」

「はい」


陽人はそういうと、また飛行機の持ち方を変えた。


【4-3】



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