5 純粋な愛 【5-1】

5 純粋な愛


【5-1】


「『ふえぞう』ねぇ……」


店長は袋を表と裏から見た後、すぐに元の場所に戻してしまう。

陽人は、まだ説明がと言いかけたが、二人の表情に言葉が止まった。


「ひじきかぁ……商品は悪くないと思いますよ。
なんたって『しなくら』さんですからね」

「それなら、ぜひ……」

「うーん、でもね、うちも売り場が限られていまして。
各メーカーさんのご要望を全て聞き入れるわけにはいかないのですよ。
それでなくても、基本商品は、うちの本部が決めますし、
各店舗で動いていい範囲は本当に狭くて。正直、『乾物』をプラスってわけには……」

「大ヒットするようなものではないでしょ」

「あ……はい」


年間、確実は数はさばけるものの、確かに、店長たちの言うように、

大ヒットは望めない。陽人はそれ以上、押しの言葉が出なくなり、交渉はストップした。


「まぁ、『しなくら』さん。とりあえず上への会議にはかけますので」

「はい」


会議にかけるというのは、いつもの挨拶で、本社へ異動してまだ間もない陽人にも、

それが進展のない話しだということはすぐにわかる。


「ところで、今日はなんだか大きな箱をお持ちですね」


副店長は、陽人が横に置いた白い箱を見ながら、そう言った。


「ちょっと、人に……」

「プレゼントですか」

「はい」


陽人は自分の横に置いた白い箱を見ながら、出してもらったお茶を飲んだ。


「それでは、またお邪魔します」

「はい、ご苦労様です」


陽人は、事務所を出た後、正面からあらためて店内に入った。

そろそろ夕飯作りを意識した主婦たちが、買い物に訪れる時間になる。

レジの横を抜け、その先にある『FRESH GARDEN』に顔を出した。

今日も大きく存在感のある花から、小さく可憐に咲く花まで色々な色と香りが漂う。

陽人は客と店員の中に、栞の姿を探した。

栞は、外で、売り場直しを行っていて、ここからでは声がかけられないので、

そのまま裏へ回っていく。


「こんにちは」

「こん……こんにちは」


栞は陽人に頭を下げ、また仕事の続きをする。


「今日も、花束ですか?」


華は陽人にそう語りかけると、小さな鉢植えを両手に持った。

陽人は邪魔にならないようにと、一歩後ろに下がる。


「どうですか、ここで」

「うん、OK。あとは同じように並べてくれる?」

「はい」


華は、栞の指示に従い、いくつかの鉢植えを移動させた。

栞は、売り場全体を見渡し、素早く目立つ場所にある花を入れ替えていく。

陽人の見る、栞の働く姿は、いつもきびきびしていて気持ちのいいものだった。

迷いが無く、決断が早く、そしてレイアウトの変化や、飾り付けのセンスに、

新しい世界が見えてくる。


「あの……」

「はい」

「これ、持ってきました」

「は?」


陽人は状況を把握していない栞に向かって、白い箱を差し出した。

栞は、一度左手を出そうとしたが、すぐに引っ込めてしまう。


「どうぞ」

「なんですか、これ」

「これ、初心者用のラジコン飛行機です。この間、川沿いの道で、
興味ありそうに見てくれたので」


陽人は、飛んできて墜ちたラジコンの飛行機を、興味深そうにのぞいた栞の姿を見て、

ぜひ、体験してみませんかと言った。

栞は、珍しいものだったので、とりあえずのぞいてみただけで、

自分で飛ばす気などないと、手を振り断っていく。


「昔から、機械も弱いですし、こういったものを飛ばそうだなんて思いもないし、
それに……」


栞は、陽人が抱えていた機体を思い出し、結構ですからとさらに押し返した。

白い箱の入った袋は、陽人と栞の真ん中を行ったり来たりする。


「この間、おにぎりをもらったお返しも、していなかったと思いまして」

「おにぎりの? とんでもないです、全然金額が違うし」


栞は、小銭で買えるものと一緒には出来ないと、陽人に向かって頭を下げた。

お礼は気持ちだけで十分だと、念押しする。


「わかりました。飛ばさないのならそれはそれでいいです。
だったら、これ、部屋の飾り物として置いてください」

「エ? 置く?」

「はい」


陽人は、自分のカバンを下に置き、中に入っていた白い箱の蓋を目の前で開けた。

栞の目の前に現れたのは、エメラルドグリーンのラジコン飛行機で、

そのフォルムは、確かに飾っておくだけでもよさそうなものだった。

栞は、それでも結構ですと言おうとしたはずなのに、

飛行機のかわいらしい機体を目の前にして、言葉が出なくなる。


「値段も高くはないですよ。本当に初心者がきっかけを作るものです。
だから、ぜひ触ってみてください。それでもし、飛ばしてみたいなと思ったら、
あの川沿いで活動する日に、僕が教えますし」

「あの、でも、いただく理由が……」

「理由なんて、どうでもいいですよ。ほら、言われたじゃないですか。
自分が飛ぶわけでもないのにって。だから、感じて欲しいんです。
それでも楽しいよってことを」


陽人の押しに、栞はどう断ればいいのかわからず、何も言い返せなくなった。

陽人はあたらめて白い箱の蓋をしめて、紙袋に戻す。


「誕生日のプレゼントでも、おにぎりのお礼でも、抽選の当選でも、
なんでもいいですから」


陽人の、あまりにも強引で、あまりにも純粋にラジコンを進める思いに、

栞は結局、袋を受け取ることになった。





遅番だったその日の勤務を8時に終えて、栞は荷物を持ち、自転車置き場へ向かった。

前カゴにバッグを入れた後、カギを外し、ペダルに足を置く。


「ん?」


何か足りない気がして、店の方を振り返った瞬間、陽人のことを思い出した。

すぐに店内に戻り、小さな椅子の上に置いた紙袋を取る。


「いけない、忘れるところだった」


前カゴに入れたバッグをどかして、陽人がくれた袋を、その場所に納めた。

空いているところにバッグを押し込み、あらためて走り出す。

『ライムライト』の終了時間も、栞の店と同じ午後8時。

今から店に向かえば、片付けをする良牙に会えることも知っていた栞は、

いつものようにカウンター越しではなく、

手の届く場所に座り、話しを聞いてもらおうとそう思いながら走り続ける。

もう一度、多田のことを説明し、それでも良牙が首を横にするのか、

多田の優しさを認め、付き合い方を気をつけろとアドバイスしてくれるのか、

どういう展開になるのだろうと想像しながら、さらに漕ぐ力を強くする。

ドラッグストアの店員が、外に出していたのぼりを店内に戻していたので、

栞は邪魔にならないよう、道路の方へ自転車を向け、そのまま走った。


【5-2】



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