7 思い出 【7-3】


【7-3】


栞は、陽人があまりにも冷静な状態であることに、少し不満の色が顔に出てしまう。


「塩飴……ですか」

「はい。荷物が重そうだったので、少し運んであげたら、
お礼だって言われて。今、これをもらってしまいました。よかったら……」

「いえ、私がもらう理由がありません」


栞は、軽く頭を下げて、店に戻ろうとする。


「いや、でも、こう……間接的に、僕が結局、ご迷惑をかけてますし」


陽人はお店のみなさんで食べてくださいと、あらためて袋を差し出した。

栞はその場で首を振る。


「あの……」

「はい」

「本当にご迷惑だなんて考えました?」

「どういうことですか」

「人って、申し訳ないと思えば、少し急ぐものだと思いますから」


栞は、向こう側にいた時から、台車を持っていたことに気づいていたのに、

横断歩道を歩いて渡ってきたことを、そう指摘した。

陽人は、口を開きかけ、そのまま閉じる。


「そうですね、すみません」

「人助けもいいですけれど、これ、勝手に走り出して車輪が排水溝にはまったら、
ダンボールが崩れるところでしたよ」

「……はい」

「飴は結構ですから」


栞はそういうと、陽人に背を向け店まで戻り、またほうきを手に取った。





『人って、申し訳ないと思えば、少し急ぐものだと思いますから』



陽人は台車を握り、もらった飴の袋を、荷物の一番上に乗せた。

『FRESH GARDEN』の横を抜けるとき、あらためて栞に頭を下げ、

まっすぐに店内へ入っていく。

自動ドアが開き店内に入ると、今度は反対側から『FRESH GARDEN』の前を歩いた。



『お部屋に小さなサプライズ』



以前、特売の花束があった場所に、新しいPOPが飾られていた。

陽人はその前で止まり、小さなブーケを一つ手に取ってみる。


「どうですか? 新商品です」

「あ、やっぱりそうですよね、以前はこういうのはなかったから」

「はい。うちの会津のアイデアです」

「あぁ……」


陽人は、店の外で売り場を整える栞を見る。

栞は、陽人の視線には全く気付かないまま、マイペースに仕事を続けた。

華がこれはですねと話を続けたので、陽人も視線を戻す。


「花束で花を買って、花を飾りますってことになると面倒だと思う方も多いでしょ。
これなら、このまま本当に湯飲みにでも入るサイズで作りました。
リボンやラッピングも外さないまま、ただ、下だけ切り取ると、
そのまま飾れますから」


華は、そう説明し終えると、さらにどうですかと陽人に詰め寄った。


「あぁ……はい。今、ちょっと仕事中なので」

「仕事中、それなら帰りにでも」

「はい、そうですね」


華は、今いくら勧めても、陽人が買わないということがわかり、

別方向から声をかてくれたお客様の方へ、移動してしまう。


「サプライズか」


陽人は小さなブーケを戻すと、台車を押し、スーパーの事務所に向かった。





「今回は、本当にありがとうございました」

「いやいや、商品は間違いないですから、『しなくら』さんは」


陽人がここに来たのは、『スーパーSAIKOKU 野木平店』から、

商品を試しに入荷するという連絡が来たからだった。

それならばと、本来入荷する別商品も、自分が配達を名乗り出たため、

台車を押すことになった。

陽人は、借りた台車のストッパーが壊れていますと説明する。

店長は、そうでしたかと、あまり気にしないような表情で聞き流した。


「それでですね、もちろんうちも入れる以上、考えてはいるのですが。
『しなくら』さんに、今回はアイデアをいただきたくて」

「アイデア……ですか」

「そうです。こうして商品の売り場を作ってもらうために、
あちこち営業をかけているのでしょ。それなら他店がお客様に買ってもらうために、
何かこう、策を練っているのも、新堂さん、見てきているはずだ」

「あ……はい」


陽人はそう答えたものの、正直、その先に続ける言葉が見つからなかった。

そもそも、『ふえぞう』をプッシュしたのは、納品予定数を間違えてしまい、

それを安易に引き受けた上司の尻拭いをしているためで、

個別に売り場を拡大してもらっているところなど、他にはなく、

店長や副店長の問いに、答えが出せずにただ唇が乾きだす。


「気を引く方法……ですか」

「はい」


陽人は、ダンボールに乗せた『塩飴』に気付き、それをバッグの横に置いた。

いりませんとハッキリ言い返した栞の顔が、浮かんでくる。


「あの……『ご主人にサプライズ』……あ、いや、
『ご主人ビックリ!』というのはどうでしょう」

「ご主人、ビックリ?」

「はい」


陽人は、元々、若い主婦たちが面倒くさいことを理由に、

『乾物』を料理に利用することが減っているという、データ話を持ち出した。

その分、冷凍食品やすでに料理加工した商品も売り出し、提供し続けているが、

やはり、作りたての美味しさを保つには、その場で料理をするのが一番であり、

売り場に『しなくら』の製品を取り揃えて、

アイデアのあるレシピなどを無料で配るというアイデアを提案した。


「レシピか」

「はい。煮物しかないと思われている商品に、実はこんなものがあるよという、
ご提案が出来たら、意外にうけるかなと」


『しなくら』では、商品を広める活動の一貫として、

年に1度、料理コンクールを開いていた。

そこで出てきたアイデアレシピなどを、無料で配れば、

もっと興味を持ってもらえるのではないかと、プッシュする。


「そうだね、それなら予算もかからないし」

「はい」


陽人の思いつきで発表したアイデアは、

チャレンジしてみましょうという店長の決め台詞で、実施されることになった。


「それでは、また」

「はい、よろしくお願いします」


なんとか乗り切ったと挨拶をした後、陽人は売り場に入った。

自社の製品がどこにあるか、興味を持つお客様がいるかなど、

前出しをしながら、しばらく様子を伺っていたが、

やがて少しずつ気持ちが重くなり、手が重くなると、最後にはため息まで出てしまう。



『お部屋に小さなサプライズ』



陽人がレシピの提案が出来たのは、あの栞が作った小さなブーケを見たからだった。

『サプライズ』という言葉を『びっくり』に変えただけで、

まさしく横取りをしてしまったという気持ちになる。

スーパーを出て、『FRESH GARDEN』の前に立つと、

ちょうど栞がブーケを並び替えたところで、顔を上げた。


【7-4】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント