8 ためらい 【8-2】


【8-2】


街道を走り、車でいつものように『ホテル』へと入る。

当たり前のように部屋を取り、二人は手をつないだまま中に入った。

カギを閉め、互いに荷物を置く。

多田は浴槽の蛇口をひねり、お湯を入れ始めた。

そして、栞を引き寄せると、唇を重ねていく。

雰囲気を作り、リードしていくのはいつも多田の方だった。

栞は奪われていく自由と引き換えに、得られるものを、ただ必死に受け止めようとする。

下着を外したとき、多田は動きを止めると、両手をベッドにつきながら、

栞の身体をじっと見た。

栞は、その視線を捉えていられずに、目を閉じる。


「栞……さっきのネックレス、してごらん」


多田はそういうと、少し前に渡したネックレスを首にするように栞に指示を出した。

栞はバッグから箱を出し、ネックレスを取り出す。

多田は、それを受け取ると、栞につけていく。


シャワーを浴びている間も、そして栞が多田を受け止めている間も、

首にはネックレスが光り、そして揺れ続けた。

多田は吐息を漏らす栞を見ながら、首にかけたネックレスに触れる。

言葉はなかったが、何かを考えているのか、納得するように何度も頷き、

そして栞の身体を支え、互いに向き合うようにした後、さらに強く抱きしめる。

じっと見つめる目が、どこかでそらされることが怖くなり、

栞は、自分から唇を重ねていく。

多田は、栞をベッドに横たわらせると、体を重ねたまま息をさらに荒くしていく。

栞は、全てを多田に支配されたまま、身体を大きくそらすと息を吐き出した。


「やっぱり思った通りだったよ」

「エ……」

「栞によく似合っていた」


多田は満足そうに笑い、横に眠る栞の髪を優しくなでた。

栞は多田の気持ちに寄り添うつもりで、胸元に顔をうずめていく。


「栞……」


栞の耳元で、多田はそっと名前を呼ぶ。


「君との時間が、今の僕の全てだ……」


多田の言葉に、栞は何度も頷いていく。

『認められ、求められる快感』に、しばらく酔い続けた。





10月の末、陽人は野木平店に向かい、商品の売り場を動かすと、

そこにあらかじめ用意しておいたレシピを並べた。

献立も、季節に合わせて鍋や煮物などが増えていく時期になった。

大きなお金をかけたイベントではないが、

いつも隅にある商品にスポットライトが当たる珍しさに、開店と同時に客が動き出す。

この日は、少し遅れて先輩の仙台が売り場に顔を出し、

これからも新堂と『しなくら』をお願いしますと、店長に名刺を差し出した。


「なんだよ、やるなぁ、お前」

「いえ……」


陽人は、このアイデアを間接的に送り出してくれた栞がいないかと、

『FRESH GARDEN』の中をのぞいた。

栞はバケツや花を納めておく筒などを洗い、店頭に並べる花を選ぶと、

手際よく納めている。


「こんにちは」


陽人の声に、栞は頭を上げた。


「おかげさまで、結構、人が興味を持ってくれています」


陽人が指で売り場を示したので、栞は少し背伸びをし、確かに人が動くのを確認した。


「おかげさまだなんて、あくまでも新堂さんが計画したことじゃないですか」

「でも、会津さんのPOPがなかったら、僕は思いつかなかった気がします」


陽人はそれだけを告げると、栞に挨拶をし、売り場を離れていった。

栞はまた、淡々と仕事を続けていく。

陽人は仙台と店舗を出ると、どこかで昼食を食べて帰りましょうかと、聞いていく。


「今の、誰だよ」

「今の? あぁ、会津さんですか」

「会津さん」

「はい。あのお花屋さんの責任者です。
なんですかね、僕は彼女にいつも助けられるんですよ」

「助けられる? あの人にか」

「はい」


陽人は、おなかが鳴ってしまい、おにぎりをもらったこと、

台車が動いたのを止めてもらったこと、店頭に置いてあったPOPの言葉に、

今日のアイデアをもらったことを仙台に語りながら、駅までの道を歩き続ける。


「ふーん」

「ふーん……って」


仙台は、そういうものかねと言いながら、ラーメン店を探そうと、そう提案した。





11月、最初の月曜日。

朱音は、だんだんと忙しくなる世の中の動きに惑わされることなく、

相変わらずマイペースにホステスの仕事を楽しんでいる。

栞が仕事で家を空けている時、

実は、以前から少し気になっていたことを確認するため、和室の方へ入った。

元々、栞はあまり装飾品を好むタイプではなかったが、

偶然、風呂場の前でタオルの整理をしているとき、

お風呂に入った栞の服の間から、見たことのないネックレスを見つけたことがあった。

本物の宝石をつけたネックレス。

普段、客からそれなりのプレゼントをもらうことがある朱音には、

そのネックレスがどれくらいの価値のあるものか、すぐにわかった。

値段といい、ネックレスという装飾品を、栞が持っているということに、

朱音はどこか納得がいかなかった。

お互い、服のサイズが同じであるため、持っていないものを借りることはあったが、

だいたい借りるのはいつも栞で、

朱音はたまにはお金をかけなさいよと言うことが多かった。



『GLOSSY』



OLに好まれる高級ブティック。

栞の部屋にその紙袋を見つけ、何か買ったのかと尋ねてみたけれど、

たまたま袋をもらっただけだと言われ、話しはそこで終わってしまった。

それでも、心にささったままのトゲが抜けず、栞の部屋を開ける。

小さなタンスに手を伸ばし、引き出しを引こうと思ったが、

さすがにそれは泥棒のような気がして、見ることが出来なかった。


「はぁ……」


それでも、今日こそ問いただしてみようという思いだけは、しっかりと刻み込む。



『シャイニング』にヘルプで入ったから、会ってしまった人。



朱音は、栞と多田の関係が続いているのではないかと感じていた。


【8-3】



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