10 忘却 【10-4】


【10-4】


栞は、その後仕事に戻り、そして休憩時間を迎えた。

売り場で適当に購入し、店の裏にあるベンチに腰掛ける。



『来週、試しで参加していいのか、今日の夜にでも会長に聞きます』



陽人は、おそらく大丈夫だろうがと言いながらも、

もし、店員オーバーだとまずいのでと、そう話を付け足した。

栞は、それなら携帯番号を教えるので、直接電話をもらいたいとそう告げ、

互いに番号を交換した。

カップ麺の容器をベンチの横に置き、栞は携帯を開く。

栞がラジコン飛行機に興味を示したため、

陽人はいつにもまして、楽しそうに語ってくれた。



『花束作りがあまりにも見事で……』



花を買ってくれた客に、『ありがとう』というお礼の挨拶をされることはあっても、

手際のよさを褒められたのは、初めてだった。


「『フライングループ』か……」


そうつぶやきながら、自然と指がメールの履歴に向かってしまう。

『多田さん』と書かれた文章には、多田が栞に並べてくれた言葉の数々が、

残っている。



『栞と会えるのが楽しみだ……』

『君との時間が、僕を支えているんだよ』



その言葉を見るだけで、『もう一度』と、指が電話番号に向かいそうになる。

栞は、携帯から指を外すと、視界に入れないようにするため携帯を閉じた。





「『フライングループ』?」

「うん。今日、偶然新堂さんにあって」

「新堂さんって?」

「あぁ、ほら、あのラジコン飛行機をくれた人」


栞は、仕事を終えた後、夕食の買い物を済ませ、すぐに部屋へ戻った。

その日は仕事のない朱音が、洗濯物をたたみながら話を聞いてくれる。


「一度、飛ばしに行ってみようと思って」

「飛行機を?」

「うん……」


朱音は、部屋でちまちまやるよりも、絶対に楽しいはずだとそう言った。

栞は、何も言わないまま、キャベツを刻み続ける。


「どうしたのよ、やるぞって割には、気持ちが乗らなそうだけど」


朱音は、それぞれの部屋に洗濯物を入れ、リビングのテーブルに座った。

栞は食器戸棚から、お皿を数枚出す。


「逃げなのかもしれない」

「逃げ?」

「他のことを考えたいというか……多田さんのことを、
考えない時間を持たないといけないと思った……というか」

「うん」

「月曜日はちょっとって、自分でクッションを入れたの。
それまで本当に前にばかり進んでいたでしょ。多田さんの環境もわかっているし、
これ以上の関係を望めないことも、自分で納得している……と思っていた」


朱音は、黙ったまま栞の言葉を待った。

反対されたからといって、すぐに方向転換できるほど、

栞が起用ではないことも、知っているため、何も言えなくなる。


「でも、言葉は思っていなくても言えることとか、
形しかない家族の元に帰るってことを指摘されて、そうか、そうだって、
少し考えることが出来たんだよね」

「うん……」

「出来たんだけど……でも」

「つい、会いたくなるってこと?」


栞はその通りだと、小さく頷いた。


「わかるよ、栞」

「朱音」

「栞は真面目だもの。中途半端に人を好きになったりしない。
そう、条件で好きになったりしないからさ」


朱音は、お箸を出し、茶碗とお椀を並べていく。


「いいじゃない、逃げの選択でも。やってみれば楽しくなるかもしれないし、
嫌ならまた、ここに飾っておけば」

「……うん」


栞はそうだよねと笑顔になり、今日の煮物はうまくいったと、

ピースサインをして見せた。





『入会は大丈夫です。
とりあえず、日曜日には川沿いのスペースで飛ばすことが出来ますが、
会津さん、お休みじゃないですよね』


陽人からのメールには、許可のことと、心配事が揃って書かれていた。

栞はすぐにカレンダーを見る。

そして、花の入っているケースを拭いている、後輩の華を呼んだ。


「はい」

「ねぇ、華ちゃん。今度の日曜、勤務代わってもらえないかな」


栞の言葉に、華は雑巾を絞りながら、カレンダーを見た。


「いいですよ」

「本当?」

「はい」


栞は、華に両手を合わせて、ありがとうと礼を言った。



『日曜日、休みが取れました。よろしくお願いします』



栞からの返事をもらい、陽人はすぐに『任せて下さい』と返信した。

自分がラジコン飛行機に誘ったのだから、『楽しい』と思ってもらいたいと考え、

どう教えてあげたらいいだろうかと、あれこれ思いを巡らせた。


【10-5】



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