11 喜びを運ぶ 【11-2】


【11-2】


「おはようございますって、会津さん遅番じゃないですか」

「うん、そうなんだけど」


店につくと、華が、予定よりも2時間早く来た栞に対して、当然の言葉を投げかけた。

栞はわかっていると何度も言い返す。


「どうしたんですか」

「うん……」


そう言いながら、駅の方を見るが、まだ陽人の姿はない。


「そういえばさ、駅前のモーニングって、まだやっていたっけ」

「あぁ……はいはい、やってますよ」

「ふーん」


栞は、陽人が帰ったら、しばらくそこで時間をつぶそうと思いながら、

ほうきで店頭を掃くことにした。

陽人が店に到着したのは、それから5分後のことだった。


「すみません、お仕事の前にと思ったものですから」

「あ……はい、ありがとうございます」


陽人の出した書類を受け取ろうとした栞と、書類の説明をしようとした陽人のお腹が、

互いに主張しあうように、キュルキュルと鳴りだした。

驚きの声と同時に、二人の視線が重なってしまう。


「すみません……」

「いえ、こちらこそ」


陽人は書類の書き方は、それほど難しくないけれど、

機体の写真だけは必ず貼り付けるようにするのだと、説明し始める。


「写真ですか」

「いいですよ、当日、僕が撮りますから」


陽人は、携帯で撮れば、近くのコンビニですぐに印刷できるとそう言った。

栞は、そんなに便利なことが出来るのかと、問い返す。


「はい、出来ますよ」

「へぇ……」


栞は、それならお願いしますと頭を下げたが、

その瞬間、またお腹がキュルキュルと鳴ってしまう。


「あ……」

「朝寝坊しちゃったんですか?」


陽人は朝寝坊したので、朝食を食べられなかったのかと、そう問いかけた。

栞が答えようとすると、その会話を聞いていた華が、わざとらしく横を通る。


「会津さん、今日は遅番なんですよね、本当は」


そのセリフに、陽人はそうなのですかと尋ねた。

栞は、照れくさそうに頷き返す。


「すみません、僕がいきなり行くと言ったからですよね」

「あ……いえ、でも、入ると言ったのは私で」

「いや……」


そのとき、陽人のお腹もまた、豪快に音を立てた。

華は、二人のお腹が交互に鳴ることがおかしくて、

エプロンで顔を隠しながら笑ってしまう。


「新堂さんこそ、朝寝坊ですか」

「いえ、僕は……ちょっと色々とあって、昨日はずっと営業部にいたんです」

「職場にですか」

「はい。今朝やっと書類を仕上げて、それで」


よく考えたら、昨日の夜から何も食べていなかったと、笑って見せた。

栞は、店の中にある時計を見る。


「12時間以上も食べてませんよ」

「ということになりますね」

「ということって……」


陽人は、この後、駅前にあったお店で『モーニング』を食べて帰りますと、

そう返事をして見せた。


「あ……」

「何か」

「同じこと、考えてました。時間までお店でって」

「そうなんですか」


時間が空いてしまった栞と、用事を済ませた陽人は、

それならばということで、一緒に店へ向かうことにする。


「店の前を通ったとき、パンケーキの匂いがしました」

「はい。自家製のパンケーキ。とっても美味しいですよ」

「それなら、それを食べます」


栞と陽人は、横断歩道を渡り、『モーニング』の店へと到着する。

同じように『パンケーキ』を狙ったサラリーマンが数人座っていたので、

奥にあるテーブル席に、向かい合って座ることになった。

注文を取りに来たウエイトレスに、『パンケーキのモーニング』を2つ頼み、

代わりに渡されたお冷に口をつける。


「それにしても、『しなくら』は大変なんですね。営業部で夜明かしだなんて」

「いや、僕だけですよ。提出しないとならない書類ができていなくて、また……」



『その存在自体が嫌なんだよ』



ふと、多田のセリフが蘇る。


「理不尽な上司に、あれこれ難題ばかり押し付けられて」

「理不尽な上司……ですか」

「そうなんですよって、まぁ、辞めましょう。美味しいものがまずくなりますから」


陽人はそういうと、またお冷に口をつける。


「新堂さん」

「はい」

「もし……日曜日にラジコン飛行機を経験してみて、もういいかもと思ってしまったら、
それって……」

「もういいかもっていうのは、やりたくないってことでしょうか」


栞は、閉じかけた口を開き、実はと話をし始めた。


【11-3】



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