11 喜びを運ぶ 【11-4】


【11-4】


「ほら、あった」


栞は、その紙を取ると、朱音の前に差し出した。

朱音は、間違いないと言い、受け取っていく。


「冷蔵庫?」

「そう、朱音は酔っていると昔からよく、ここに入れるのよ、色々なもの。
前はカギが入っていたし、それに……」

「まだあるの?」

「印鑑が入っていたこともあったよ」

「ウソ」

「ウソじゃないよ、だから今、すぐにわかったでしょ」


栞は人には色々なクセがあるよねと言いながら、楽しそうに笑ってみせる。

朱音は、さっさと行きなさいよと言いながらも、小さく頭を下げた。





自転車で川沿いまで走っていくと、広場には、数人が立っていた。

陽人らしき人がいるのかと見ていると、先に気付いたのか手を振ってくる。

栞はその場で一度頭を下げると、坂を滑らないように自転車を押し、

集合地点に到着した。


「すみません、遅かったかも」

「いえ、大丈夫ですよ」


陽人は参加用紙を持っているスタッフに声をかけ、

栞が今日、初めて参加をするのだと説明した。

栞はラジコン飛行機を片手に持ち、よろしくお願いしますと頭を下げる。


「すごいわね、新堂君は」

「すごい? いやいや、どうして」

「また女性の入会希望者じゃないの」


スタッフの女性は、少し前にも陽人の紹介で女性が入ったのだと栞に説明する。

栞はそうですかと頷き、陽人は会社の同僚ですと付け加えた。


「『しなくら』の方ですか」

「あぁ、はい。僕が松本から転勤してきたので、色々と気をつかってもらって」

「へぇ……」


栞は受け取った用紙に名前を記入し、台の上で箱を開けた。

陽人がくれたエメラルドグリーンの機体が、姿を見せる。


「基本的にはわかるんですよね」

「一応、動かすことは出来ました。でも、旋回させたり、思う位置に下ろしたり、
そういった細かい部分が」

「はい、それはすぐに出来ませんよ。まずは上と下、左右の動きですかね」


栞が横の台を見ると、陽人の黄色いラジコン飛行機が置いてあった。

大きさも風格も、栞のものとは全く違う。


「こんな機体も、飛ばせるようになるでしょうか」

「なりますよ、会津さんならすぐに」


陽人はそういうと、他のメンバーに迷惑をかけてはいけないと、

少し離れた場所に、栞と移動した。

それから10分後、恵利は坂を下りながら、下にいるはずの陽人を探した。

飛行会に参加するのも、もう4回目になる。

台の上に黄色い機体は見えるものの、肝心の本人の姿が見えてこない。

数回の参加で、顔見知りになった人たちから挨拶され、返礼をする。

恵利は、スタッフの一人に、陽人がいないのかとそう尋ねた。


「新堂さん?」

「はい。機体はあるんですけど」

「あぁ、新堂さんなら、ほら、あっち」


スタッフの示した方向を見ると、恵利がいる場所から対角線に伸びた場所で、

陽人が女性と一緒に飛行機を飛ばしている姿があった。

リモコンを渡したり、渡されたりしながら、小さな飛行機がふわふわと空を飛んでいる。


「あの方も同僚さん?」

「エ……誰ですか」

「会津さんって言ったっけ? さっきお名前書いてくれたよね。
新堂さんが誘ったみたいだけど」

「会津さん……」


恵利は、陽人が楽しそうに教えている姿を見ながら、

会津という女性がどういう人なのかと、考えた。

自分のラジコンを取り出し、その場で上げようかと思ったが、

そのまま陽人たちの方に歩いていく。


「新堂さん、おはようございます」


恵利の声に、陽人はすぐに振り向いた。

そして、おはようございますと言いながら、頭を下げる。


「ここだったんですね、いつもは向こうなので、探してしまいました」

「あぁ、すみません。今日は会津さんが初めて参加をされたので、
僕が教える約束をしていまして」

「……へぇ……」


恵利の視線の先には、ラジコン飛行機を見ながら、

上と下、右と左を繰り返す栞がいた。


「会津さん、一度下ろしてもらっていいですか」

「はい」


栞は、ゆっくりと指を下へ向け、ラジコン飛行機を着陸させた。

しかし、予想していた場所よりも左にそれてしまう。


「あ……」

「まぁ、最初ですから、こんなものですよ」


陽人の声に、栞はそうですかと答え、数歩歩くと飛行機を持ち戻ってきた。

自分に向けられている恵利の視線に気付き、そこで頭を下げる。


「会津さん、少し待っていてくれますか。僕、自分の飛行機を持ってきます」

「はい」


陽人は、栞と恵利をその場に残し、集合地点へ歩き出した。

栞は、陽人の後姿を追いながら、本当に走ることを避けているのだと、再認識する。


「あの……」

「はい」

「会津さんでしたよね」

「あぁ、はい。会津栞と言います。よろしくお願いします」


栞は、恵利に軽く頭を下げた。恵利は、それに返礼することなく。

栞が持つラジコン飛行機を見た後、その場に小さなゴザをおき、

ラジコン飛行機を取り出した。色は違うが、機体のデザインは一緒になる。

栞は、どこか不機嫌そうな恵利を見ながら、

これ以上話しかけないほうがいいのではないかと、そう思った。


【11-5】



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