15 嫉妬心 【15-1】

15 嫉妬心


【15-1】


そして30分後、陽人は携帯を握り締め、休憩所に向かった。

栞の番号を呼び出し、ボタンを押す。

呼び出し音が鳴り続ける間、聞かれて困るわけではないのに、

周りの動きが気になった。特に仙台が目の前に来ないかと、

目を右に左に動かしてみる。


『はい』

「あ……もしもし、新堂です」

『はい、会津です』


陽人は、急な注文で申し訳ないと謝り、大きさと色を指定した。

栞は、受話器を耳に当てながら、メモに内容を書き込む。


「ご挨拶がてらなので、それほど大きくなくていいんです。
おそらく、1時過ぎにはつけると思うので」

『はい。花は揃っているので、大丈夫だと思います。
ご予算の領収書も作っておいた方がいいですか』

「お願いします」


たった数分の、仕事がらみの会話だったが、陽人の頬はゆるんだままだった。

栞も忙しいだろうと思いつつ、つい、足の調子はどうなのかと聞いてしまう。


『おかげさまで、よくなっています。回復力早いみたいで』

「そうですか、それならよかった」

『ご心配、おかけしました』

「いえ、僕は……」


どこか落ち着かず、陽人は体を反転させながらそう返事をした。

ふと顔をあげると、少し離れた場所に、仙台の姿が見える。


「あ……えっと……では、あとで」

『はい』


陽人はすぐに電話を切ると、ポケットに押し込んだ。

ゆるんだ表情を整えようと、一度反対側を向く。

何もない普段の日と同じように歩き、仙台に頭を下げる。


「何、にやついて電話しているんだよ、お前」

「にやついてなんていませんよ」

「いや、にやついていたね。隠すな、隠すな。何、今の誰? 『花屋の女神』?」


仙台の言葉に、陽人は、栞が両手を使い、手際よく花束を作る姿を想像した。

リボンを手で引き、すぐにハサミで切り、形を整える。


「……はい」

「はいって……」

「声を聞いていただけなのに、なんだかそう……そうです、にやついていたと思います」


仙台は、陽人が正直に話すのを聞きながら、笑顔になる。


「お前、面白いヤツだな」

「そうですか?」

「あぁ……」


仙台は、外回りに行ってくると陽人の背中をポンと叩き、じゃあなと片手を上げた。





栞は、『1時過ぎ』という陽人の時間に合わせ、注文の花かごを作り出した。

置く場所がそれほど広くないので、存在感がありすぎるのは困ると言われたため、

花も全体のバランスを見ながら選ぶ。


「いらっしゃいませ」


店頭の花を見るお客様に、華が楽しそうに接客する声を聞きながら、

栞は茎部分を整える。



『会津さん……』



花を見ながら仕事をしていると、どこからか陽人の声が聞こえてきそうになる。


「すてきね、会津さん」

「ありがとうございます」


パートの女性にそう声をかけられ、栞はラッピングのフィルムを素早く切り、

花かごの上を覆った。





「花かご?」

「はい。この間、相手先に向かったとき、受付の上が結構空いていたんですよ。
こう、花があるだけで、営業から戻ってきた社員たちの気持ちも和むような気がして、
だからといって、ずっと置かれるのもおかしいですし、その点花なら……で、
注文しておきました」

「注文? 早いなぁ、お前」

「いや、急にお願いするのもなんですし」


陽人は営業車のカギをポケットから取り出し、運転席のカギをリモコンで開ける。


「花ねぇ……」

「すみません、相談もせずに。でも、花をもらって嫌がる人は、あまりいないし」

「ほぉ……まぁ、どうでもいいよ」

「はい」


陽人は多田を後部座席に乗せ、エンジンをかけると、

打ち合わせ予定の『クラウリー』へ向かった。

先日同様、途中で栞の店の前を通るので、そこで花かごを買っていこうと決めていた。

道路は渋滞もなく順調で、思っていたよりも早めにスーパーまで着いてしまう。


「ん? どうした」

「すみません、この花屋に注文したもので」

「……ここ?」


多田は視線をスーパーの方へ動かした。確かに小さな花屋が前にある。


「また、ここで待っていていただいていいですか。僕、取ってきます」

「あぁ、わかった、わかった。さっさと行ってこい」

「はい」


陽人は車を降り、横断歩道に向かった。

多田は車内で携帯を取り出し、『会津栞』の名前を呼び出していく。


「足の怪我だろ。そんなものどうにでもなるだろうが……
くそぉ……なんとか呼び出せないかな……」


多田は、どう文章を打とうか迷い顔を前に向ける。

ふと、駐車場の端にある自動販売機が目に入った。

今日は、この仕事があったため、昼食の後にコーヒーを飲まなかったことを思い出す。

多田は、後部座席を出て進むと、自動販売機の前に立った。

視線は自然と前に向かい、横断歩道を渡り、『FRESH GARDEN』で、

店員の女性に声をかける陽人を見る。


「花、花って、あいつ女じゃあるまいし……」


小銭を入れ、よく飲む銘柄のボタンを押した。

ガシャンと音がしたため、取り出し口に手を入れる。


「おぉ……結構熱いな」


缶を持ち、車に戻ろうとしたとき、陽人が体を横に向けた。

その時、隠れていた店員の姿が、多田からハッキリと見える。


「ん?」


エプロンをして、陽人と楽しそうに語っているのは、栞だった。

店の奥から花かごを持ってくると、陽人に渡している。


「栞……」


多田は自動販売機に体を隠しながら、陽人と語り合う女性の姿を見続けた。


【15-2】



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