15 嫉妬心 【15-2】


【15-2】


半信半疑だった思いが、確信に変わる。

以前、栞がヘルプでホステスをしていたとき、

花屋の店員だと自分が見抜いたことを思い出す。

陽人は、栞から商品を受け取っても、すぐこちらに戻らない。

何を話しているのかは聞こえてこないが、どちらも表情は穏やかなものだった。

多田は缶コーヒーをスーツのポケットに入れる。


「……足、怪我しているんじゃないのかよ」


陽人は花かごを持ち、店を離れ、横断歩道の方へ向かった。

一度はホースを束ね始めた栞は、何かに気づいたのか下にホースを置き、

横断歩道に向かった陽人の方にかけ出した。


「は?」


思い切り走るという状態ではなかったが、足を引きずるような仕草は見えない。


「何だよ、走っているじゃないか」


栞は陽人になにやら語りかけると、また頭を下げた。

横断歩道が赤から青に変わる。

多田は、陽人と目があっては困ると思い、姿勢を低くしたまま車に乗り込んだ。

花かごを抱えた陽人が、こちらに戻ってくる。


「すみませんでした」

「いやいや……」


陽人は助手席に花かごを置く。

すぐにエンジンをかけると、駐車場を出た。

そこから先も道路の流れは順調だった。多田は、栞が寄こした携帯のメールを開く。



『足の怪我が、思ったよりも長引いてしまって。まだ、歩くと痛むんです。
ごめんなさい』



栞から受け取ったメールの内容と、今の姿は、多田にとって結びつくものではなかった。

軽いものとはいえ、栞は間違いなく目の前で走る姿を見せた。


「おい、新堂」

「はい」

「お前、今の店、前にも寄ったけれど、親しい人でもいるのか」


多田は、花屋ならどこにでもあるだろうと、そう尋ねる。


「あぁ……はい。まぁ、そうなんですけど」

「別に責めているわけじゃないよ」

「はい。偶然、あの店を使ったときに、店員さんの花束作りがとてもうまくて。
で、それからよく行くんです。『ふえぞう』の納品をお願いした、
『スーパーSAIKOKU』 野木平店」の前でもあるし、営業の帰りとか、つい……」

「ほぉ……」


陽人は、いつもと違い、多田が穏やかに話を聞いてくれていることが嬉しくて、

店員の女性に、ラジコン飛行機の会に入らないかと誘ったことまで言ってしまう。


「ラジコン?」

「はい。あの店の近くの川沿いで、よく飛ばしているんですよ。
そうしたら、その会で彼女、足を怪我してしまって……」

「ふーん」

「もう治ったって聞いて、ちょっと安心しました」


陽人はウインカーを左に出すと、信号を左折する。


「治った……」

「はい」


多田は左手の親指を軽く噛み、しばらく景色を眺め続けた。





その日は、午後に入ると、急に空模様が怪しくなった。

栞はいつものベンチに座り、買ってきたお昼を食べ始める。

携帯を手に取り開いてみると、そこには多田からのメールが入っていた。



『栞 足の具合はどう? よくなっているのならいいけれど。
ただ、僕は君が僕から離れようとしているのではないかと、そう思えてならない。
僕の気持ちは、もう、君に届いていないのだろうか』



誘いを足の怪我に結びつけ、断っている栞に対して、

多田は、切ない思いを前面に押し出してきた。

栞はメールを読み終えた後、すぐに返信をしようと指を動かす。



『『アンナ』ちゃんに聞いたら、もう、1ヶ月以上も、通っているって』



栞は朱音の言葉を思い出し、返信の打ち込みを辞めた。

多田からの切ない文面を、そのまま信じ込んでいいのかどうか迷い始める。

形だけの家庭、それでもそれを捨てきれずに生きている多田という男性は、

確かに寂しい人なのだろうということは、理解できた。

しかし、栞は、相手が自分だけだと思っていたため、

先など考えない愛情にも応え続けた。


「ふぅ……」


栞は、携帯を閉じると、途中になっていた昼食を再開した。





陽人のアイデアで持っていった花かごは、担当者にとても喜ばれた。

自分は関係ないとしていた多田は、相手の反応のよさに、急に前へ出て、

いかにも自分がしたかのように振舞った。

陽人は呆れながらもその芝居に付き添い、その日はそのまま営業部に戻る。

そして、その出来事を、仙台に報告した。


「ほぉ……あの人らしいな」

「ですよね。自分は関係ないって顔をしていたのに、急に私が、私がって」

「だから出世したんだろ」


仙台は営業のデータを入力すると、こういう日はさっさと仕事を終えようと、

そう陽人に言った。


「なぁ、飲みにいくか」

「……はい」


陽人が片づけをし始めると、恵利が仕事先から戻った。

仙台は、恵利にも、これから飲みにいかないかと尋ねる。


「玉田、誰か誘えばいいよ。俺と新堂と行くから」


恵利は一度陽人の顔を見たあと、今日はいいですと仙台に断った。


「何、用事?」

「……はい」


恵利はそれだけを言うと、お先に失礼しますと営業部を出て行ってしまう。

陽人は、出て行こうとする恵利の背中に向かって、『お疲れ様でした』と声をかけた。


「何、なんだ、この微妙な空気感は」

「行きましょう、仙台さん」

「お前、玉田に何か言ったのか」


仙台は上着を羽織ると、バッグを持つ。


「何かというか」

「なんだよ」

「いや、これからも同僚としてと……」


陽人も同じように上着を羽織る。


「あちゃ……」

「あちゃってなんですか。仙台さん言いましたよね、その気がないのなら、
適当なことはしないほうがいいとかなんだとか」

「あぁ、言ったよ。言ったけれど、ほぉ……」

「……なんですか、そのひっかかるような言い方は」

「あはは……」


仙台と陽人は、互いに肩を軽くぶつけ合いながら、営業部を出た。


【15-3】



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