15 嫉妬心 【15-4】


【15-4】


良牙と栞が食事をしている頃、朱音は『シャイニング』で、仕事を始めたところだった。

開店から30分経った頃、一人の客が入ってくる。


「いらっしゃいませ」


ボーイの声に視線を向けると、入ってきたのは雄太だった。

顔を左右に動かし、朱音を見つけると頭を下げる。

雄太は朱音を指名し、テーブルの席についた。

朱音はそのまま席に向かう。


「いらっしゃいませ」

「あぁ、よかった。今日はここですね」

「……は?」


雄太は昨日も来たが、会えなかったと笑った。


「昨日もここへ」

「はい。高松さん……あ、いや、えっと」

「『マオ』です」

「そうでした。マオさんは毎日お仕事をしているわけではないんですね」


雄太はそれはよかったとなぜか大きく息を吐く。


「どういう意味ですか、それ」

「いや、お酒の量がちょっと気になったので。毎日飲んでいるとしたら、
それはと思って」


雄太は、お酒が苦手なのに、水割りを注文した。

朱音は言われた通り、水割りを2つ作った。そしてひとつを自分が飲み始める。


「あ……」


軽めに作ったものだったが、朱音は一気に近い速さで飲み干した。

そしてまた、水割りを作ろうとする。


「ちょっと待ってください」

「なんでしょうか」

「いや、まだ僕は飲んでいませんし」

「私がいただきます」

「は?」


雄太の表情に、朱音は『ふぅ』と息を吐いた。


「桐山先生、どういうおつもりで通っているのか知りませんが、
母からは連絡もないですし、私が携帯でかけても、つながりません。
まぁ、それはいつものことなので、気にしていませんが。
正直、こうしてお店に来られることが、すごくストレスになります」

「僕が、ストレスですか」

「そうです。お酒、嫌いじゃないですか、それなのにここへ来ても、困るでしょう」


朱音は、飲めない人に何杯も作るのは気がひけるが、かといって、

全く飲ませられないのでは、仕事にならないとそう言った。


「だから、私が飲めばいいと思いまして」


朱音はまた水割りを作り、グラスを持った。

雄太はそのグラスを取り上げる。


「辞めましょう、そんなこと、体によくありません」

「体にいいか悪いかなんて、わかってやっているんです」


朱音の声に、店内が静まり返った。

ママが奥から出てきて、雄太にどうかしましたかと尋ねる。


「いえ、大丈夫です」

「でも……『マオ』ちゃん」

「大丈夫です。僕がちょっと怒らせてしまうようなことを言ったので。
でも、大丈夫です」


雄太は立ち上がり、店にいる客とホステスに、その場ですみませんと頭を下げた。


「すみません、僕がお店のルールをよくわかっていなくて。失礼しました」


常連客たちは、すでに酔っているのか、いいぞと拍手をしたり、

気をつけろと声を出した。雄太はそのたびに、声の方を向き、頭を下げる。


「……やめてください」

「はい」

「はぁ……」


朱音は、息を吐き出しながら、ソファーに腰かけた。





結局、雄太は1時間店にいて、飲めない酒を3杯朱音に作らせた。

テーブルの上には、氷の溶けたグラスと、おつまみの皿が並ぶ。



『一度、肝機能の検査を受けてください』



母、雪美からの遺伝もあるだろうし、こういった仕事をしていることもあるのでと、

雄太は最後まで医師としてこの場に座り続けた。

朱音は帰り支度を整えて、店を出る。



『朱音、お金貸してよ。ちょっとしたら返すし』



雪美が連絡をしてくるのは、いつもお金を用立てて欲しいときだけだった。

『愛風園』にいた頃に、何度か親元へ戻ることがあったけれど、

そのたびに朱音が見るのは、母、雪美の荒れた部屋で、掃除と洗濯をしないと、

寝る場所さえないことが多かった。

再婚し、別の家庭を持った父には、何かしらプレゼントをもらっていたが、

相手の女性を紹介されたことは一度もなく、どう思われているのかが、

なんとなくわかってしまい、誘われても会うことはどこかで避けていた。



『辞めましょう、そんなこと、体によくありません』



医者としてだとはわかっているが、正式に言えば雄太の患者は母の雪美で、

朱音ではない。朱音は、お人よしだと思える雄太の行動に呆れながらも、

会うと、どこか引きずり込まれそうで、怖くなっていた。





「ただいま」


日付の変わった部屋に戻ると、すでに栞の部屋は閉じられていた。

いつものようにリビングの明かりをつけると、

テーブルの上にはたくさんの小瓶が置かれている。


「何、これ」


朱音は、一緒に置いてあったメモを読んだ。



『朱音、おかえり 今日は良ちゃんが食事に連れて行ってくれたの。
足の怪我を心配してくれたみたい。で、朱音の話になって、お酒を飲んだ後のことを、
すごく気にしていた。良ちゃんがコンビニに入って、ドリンク剤、買い込みました』



栞のメモは『(笑)』という文字で終わっていた。

母の入院騒動で、仕事を増やした朱音を心配し、

良牙が、胃や肝臓をいたわるドリンクを、買ってくれたということらしかった。

朱音はその1本を手にとってみる。



『朱音……』



『愛風園』で、長い間、二人とは一緒に過ごした。

ずっと兄代わりだった良牙と、姉妹のような栞。


「全く……こんなに買われてもねぇ」


朱音はそれでもその気持ちが嬉しくて、バラバラに置かれていた小瓶を、

丁寧に並べ始めた。


【15-5】



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