16 恋の訪れ 【16-2】


【16-2】


多田は会社の正面に走り、そのまま中に消える。

陽人は多田を下ろした車をまた走らせ、そのまま地下の駐車場へ入れた。

定位置に戻すと、エンジンを止める。


「何が飛ばせ、何がおろせだ。そもそも自分が寄り道を指示したからなのに……」


陽人はカギを抜き、車の外に出た。

『しなくら』の営業部では、車の鍵を管理している場所があり、陽人はそこへ向かう。

すると、ダンボールをカートに乗せた恵利と会った。


「新堂さん、鍵、借りてもいいですか」

「あ……はい」


陽人は、戻した印をノートに書き、鍵を恵利に渡す。


「玉田さん、これ、運びましょうか」

「いいです、大丈夫です」


恵利は、陽人の顔を見ることなく、カートを押していく。

陽人は、恵利の気持ちがわかるだけに、軽く頭を下げると、そのまま社内に戻った。

少し前まで陽人が乗っていた車の鍵を開け、恵利はダンボールを後ろに乗せ、

そして荷台をしめる。

バタンという音の後、駐車場は静かになった。

恵利は、陽人が誰を好きになろうと、自分が怒ることではないこともわかっているが、

相手だと思える栞に、これといった魅力があるように思えず、

そんな相手に負けたことが悔しくて、陽人につい、辛い対応をしていた。

恵利は運転席に座り、エンジンをかけようとする。

すると、営業部に戻ったと思った陽人が、慌てて飛び出してきた。


「玉田さん」


恵利は運転席の窓を開ける。


「はい」

「すみません、ガソリンがあまりないんです。帰りに寄るつもりだったのですが、
多田部長に、本部長から連絡が入って、慌てて戻ってきたので」

「……わかりました。寄っていきます」

「すみません」


陽人は車から離れ、恵利に向かって頭を下げた。

恵利はエンジンをかけ、そのまま走り出す。

陽人は、恵利の表情を思い出し、軽くため息をついた。





恵利は目的地に行く前に、契約しているガソリンスタンドに向かった。

車が入ると、店員が『オーライ』の声を出す。

恵利は言われた場所に止まり、会社のファイルを取り出した。

店員はそれを受け取り、雑巾を手に持ち、ガラスを拭き始める。

恵利は車を降りると、スタンドの中に入った。


「『しなくら』さん、今年最後ですよね、軽く吸っておきます」

「お願いします」


店員は、簡易式の掃除機を取り出すと、シートを動かし、掃除をし始めた。

恵利は温かい場所でコーヒーを買い、置いてある雑誌を手に取る。


「『しなくら』さん」

「はい」


恵利が顔をあげると、一人の店員が前に立った。


「これ、シートの下に落ちてましたよ」


手渡されたのは黒い小さめの手帳だった。

恵利はありがとうございますとそれを受け取る。

表紙には『DOLL』と書かれていた。





陽人は席に戻ると、大きく息を吐いた。

目の前に座る仙台は、その光景がおかしくて、笑っている。


「笑います?」

「笑えるよ、お疲れさん。年末まで多田のお守りじゃ疲れるよな」


陽人は、多田の席が空いていることを確認し、仙台に向かって頷いていく。


「で、多田は?」

「社長が急にこっちへ来ることになったと連絡が入って。
そこからスピードアップですよ。交通ルール違反だと言われても仕方がないくらい
飛ばせ、飛ばせって」


なんとかギリギリ間に合って、幹部の集まる部屋へ飛んでいったと、

陽人は仙台に説明する。


「なんだかさ、あいつって、そういう星だけは持っているみたいなんだよな。
媚を売ったり、点数取ったり」

「とにかくもういいです。最後の最後まであれこれ言われたくないですから、
仕事を済ませて、帰ります」

「おぉ、急げ、急げ」


仙台はそう言いながら、指をクルクルと回して見せた。





「何……これ」


恵利はスタンドの中で、渡された手帳を開いた。

中には女性の名前が書いてあり、その横には日付と暗号のような文字が入っている。


「プレゼントって……」


恵利は、車の中に落ちていたと聞き、もしかしたら陽人のではないかと思い、

つい中身を見てしまった。しかし、手帳の中は、女性の名前が続くだけで、

仕事にも関係ない気がしてくる。


「この字……」


中身を見ていると、恵利は、この手帳が陽人のものではなく、

多田のものであるということがわかった。右上がりのクセのある字、

その特徴がしっかりと出ている。


「エ……」


そして、数ページめくったところで、『会津栞』の名前を見つける。

恵利は、初めて栞がラジコン飛行機を飛ばす会に参加した日のことを思い出した。

聞いた名前は、確かに『会津栞』だった。

手帳の日付は8月、9月とほぼ毎週のように記入されていた。

名前の書かれたページを1枚めくると、キャバクラ『シャイニング』の名前と、

前の女性と同じ、プレゼントが書いてある。

ネックレス、ワンピース、そこには領収書も貼り付けてあった。

その横には、児童擁護施設を出たことと、親がいないということがメモされている。

さらに下には、『右胸に、小さなほくろが2つ』と記入があった。

恵利は、内容の危うさに、見てはいけなかったと思い、慌てて手帳を閉じる。

すると、手帳の終わりから、なにやらカードが落ちた。



『HOTEL CANDLE』

『HOTEL さざなみ』



数枚入っていたのは、ラブホテルの会員カードだった。

恵利はそれを拾い、手帳に挟み込む。


「これ……どういうこと?」



『会津栞』



この名前だけを何度も確認し、さらにページをめくる。

そして店員に名前を呼ばれたので、手帳を握りしめたまま、車に戻った。


【16-3】



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