16 恋の訪れ 【16-3】


【16-3】


『安西』での用件を済ませた恵利は、帰りにコンビニに立ち寄った。

コピーの前に立ち、あらためて手帳を開く。

『会津栞』について記入されているページを開き、数枚ずつ全てコピーした。

ドリップコーヒーを1杯購入すると、そのまま駐車場に戻る。

助手席に手帳を置き、カップを持ったまましばらく考えた。

このままあった場所に戻し、何事もなかったかのように立ち去ろうかとも思ったが、

『会津栞』という名前があったこと、陽人が自分よりも栞に対して優しいことなど、

思い出したくないシーンが蘇ってくる。



『右胸に、小さなほくろが2つ』



あの文章が、本当に栞について書かれているものなら、多田と栞の間には、

特別な関係があるのは間違いないと、恵利は視線だけを手帳に向ける。

恵利は携帯を取り出し、陽人の番号を呼び出した。



それから10分後、陽人は恵利に呼ばれて、地下の駐車場に向かった。

恵利は、『安西』に品物を納めたが、

空になったダンボールなどをつぶさないとならないので、

手伝って欲しいと、電話を寄こした。

陽人は、どこかぎくしゃくしていた恵利が、自分にそう声をかけてきたのが嬉しくて、

すぐに了解する。

駐車場の管理室前に立つと、数分で営業車が戻ってきた。

車はライトをつけ、バックすると、定位置に止まる。

エンジンが切られ、運転席から恵利が現れた。


「ごめんなさい、新堂さん、呼び出したりして」

「いや、いいよ。もう年末でやることもないし」

「すみません」


恵利は、トランクに積んであるといい、後ろを開けた。

陽人はダンボールを下ろし、そこでまとめていく。


「新堂さん」

「はい」

「あの……これ」


恵利は、陽人に向かって、黒い手帳を差し出した。

陽人はとりあえずそれを受け取る。


「これって、新堂さんのですか? ガソリンスタンドに行ったら、
年末だしって掃除してくれることになって。
店員さんがシートの下に落ちていたって拾ってくれたんです」


陽人は表紙を見ただけで、首を振る。


「僕のじゃないです。こういう手帳は持たないし」

「だとしたら……多田部長のかな」

「部長の?」


恵利は、手帳を陽人から戻してもらうつもりで、一番後ろの部分を開いた。

そこには、数枚の『ラブホテル』会員証が入っている。


「これが1枚、ここから出て落ちていたんです。私、それを戻したんですけど、
なんだか、部長に女の私が、これはって聞くのも気が引けて……」


陽人はそう言いながら、困っている恵利を見る。


「そうですよね、これ……」


陽人は、以前、仙台から、多田が『援助交際』をしていると聞いたことを思い出す。


「新堂さんが、多田部長に聞いてくれませんか?」

「僕がですか」

「はい。今、ここに手伝いに来てもらっているでしょ。
だから、そこで見つけたってことに……」


恵利はそういうと『お願いします』と頭を下げた。

陽人は一瞬、また面倒なことにならないかと考えたが、だからといって、

車に残したままにするのも、出来ない気がする。


「同じ男性同士なので、新堂さんが返した方が、まだ……」

「わかりました。とりあえず多田部長に聞いてみます」


恵利は、すみませんと頭を下げた後、自分も運びますと、

ダンボールを数枚抱えた。





陽人と恵利が営業部に戻っても、多田はまだ解放されていなかった。

しばらく仕事をした後、上機嫌の多田が、戻ってくる。

デスクの引き出しに、数枚の書類をしまうと、ポケットのタバコを確認し、

外に出て行く。恵利と陽人の視線が重なった。

陽人は席を立ち、多田の後を追う。


「……ん?」


仙台は、陽人が出て行ったことに気付き、顔を上げた。

恵利は、そこまで動いていた手が、止まってしまう。

多田の手帳を陽人が拾ったと言ったら、どう思われるだろう。

そう思うと、PCを打ち込もうとする手は、震え出す。


「玉田」

「はい」

「何かあったのか」

「エ……」

「いや、急に動きが止まっているから」

「いえ、別に」


恵利は、そういうと、何か仕事をしているように見せるため、マウスに手を置き、

カーソルをあちこちに動かした。





「多田部長」

「なんだ、お前か、どうした」

「すみません……あの」


陽人は手帳を取り出し、多田の前に出した。

タバコを吸おうとした多田の手が止まり、驚きの顔を陽人に向ける。


「これ……」

「どうしてお前が持っている」

「あの……車に」

「車?」

「あ、営業車に」


多田は、陽人と出かけたとき、急ブレーキがかかったことを思い出した。

あの時、飛び出した中身を、回収しきれていなかったのかと、考える。


「シートの下に……」

「お前が拾ったのか」


陽人は一瞬答えに迷ったが、拾ったことを知られたくないと

下を向いた恵利の気持ちを思い、『はい』と返事をしてしまった。


【16-4】



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