17 勇気 【17-2】


【17-2】


新しい年になり、商店だけではなく、全ての会社が動き始めた。

『しなくら』でも、新年の社長挨拶があり、

それぞれが年末に出した営業データのファイルを戻され、今年の誓いを立てる。

仙台も陽人も、その中の一人だった。


「はぁ……休みはあっという間だった」

「どこかに出かけたとか」

「いや、ずっとコタツに入って、正月特番ばかり見ていた」


仙台は、今年の駅伝に久しぶり母校が出たから応援した話をする。


「テレビばかりで、飽きませんでしたか」

「飽きないね。あと3日くらい、見っぱなしなら飽きたかもしれないけれど。
借りてきたDVDも1つ残ったし」

「はぁ……」

「あぁ、うちの会社は古いんだよ、
今時、なんだかんだと9連休みたいな企業が多いのに。何を暦通りに……」

「仕方がないですよ。うちよりもっと条件の悪い企業だってあるでしょうし」

「そうか? 俺は毎年、もうやめようかなと年頭に思うけどね」


陽人は休憩所でコーヒーを飲み、仙台はタバコを吸い始める。


「新堂」

「はい」

「お前、今年こそは、多田部長から嫌みを言われないようにしろよ」


仙台は、去年は異動してきたばかりで、慣れなかったから仕方がないが、

今年は周りももっと期待するだろうからと忠告する。


「うーん……」


陽人の脳裏に、年末、手帳を拾った時のことが蘇る。

明らかに多田のプライベートに関わるものを拾ったことになってしまい、

また、余計なことを言われるのではないかという気持ちが、心の底にあった。


「なんだよ」

「嫌みを言われないようにと、そうは思うのですが、無理でしょう」

「無理?」

「前に聞いたことがあるんです。どうして僕ばかり、こうして言われるのかと。
何か悪いところがあるのなら直しますから教えて欲しいって……そう……」

「ほぉ……それで?」

「はい、お前の存在自体が嫌だって」

「は? 本当か」

「はい」


陽人は、それを聞いたときには悩んだけれど、今は気にならなくなったと笑顔を見せる。


「気にならない?」

「はい、仕事は仕事、楽しめる時間は十分ありますし」


陽人は缶コーヒーを飲み終えて、ゴミ箱に入れる。


「ふーん……」


仙台は、にやつきながら陽人を見る。


「いいねぇ、恋に前向きな男は。マイナスもプラスに思えるようになるわけだ。
で、それから『花屋の女神』とはどうだ」

「どうって」

「どうって、決まっているだろうが。告白したのかよってことだ」


陽人はしていませんよと左手を振る。


「なぜ」

「なぜって」

「新堂、お前、学生じゃないんだからさ、
姿が見られたらそれでいいなんてことはないだろうな」

「それは思っていませんけど。タイミングがあるでしょう」

「そんなもの、勢いだ」


仙台は、気持ちを強く持って前進しろと、陽人の背中を叩く。


「あぁ、もううるさいな」

「何?」

「いえいえ、先に戻ります」


タバコを吸っている仙台を休憩所に残し、陽人は営業部に戻った。

デスクの横を通り、席に向かう。

隣に座る恵利は、膝の上に置いた何かを見ているのか、下を向いていた。

何も言わずに後ろを通るのは、嫌がられるのではないかと思い、

陽人はコホンと一度咳払いをし、自分の存在をアピールする。

恵利はすぐに紙を折り、それをポケットにしまった。


「玉田さん、お土産、ありがとうございました。ひとついただきました」

「あ……いえ」


恵利は、この年末、友人たちと温泉旅行に出かけたため、

初出勤のこの日、営業部にお土産を持ってきた。

陽人はカスタードクリームが美味しかったと、その土産を褒める。


「あの、新堂さん」

「はい」


恵利は陽人の顔を見た。


「何か」

「いえ、ごめんなさい、いいです、やっぱり」


恵利は、それ以上何も言わず席を立つ。

陽人は、恵利の姿を見た後、PCを立ち上げた。

慣れない東京の本社に入り、最初から色々と教えてくれたのは、仙台と恵利だった。

陽人は、川沿いの道での同僚宣言以来、

どこかぎくしゃくしている恵利との関係が気になっていた。

多田の手帳を拾ったことで、少しまた溝が埋まるのではないかと思ったが、

すぐに年末の休みに入ってしまい、結局、その前の状態に戻ってしまった。

陽人は、恵利のことを気にしながらも、人の気持ちだけはどうすることも出来ず、

また仕事を始めた。

恵利は、陽人に話しかけてしまったという出来事を断ち切るために、

営業部を出るつもりで扉を開ける。


「おっと」

「あ……すみません、仙台さん」

「あぁ、うん」


恵利は仙台の横をすり抜けると、そのまま廊下を歩いていく。

仙台も、どこか沈みがちな恵利の様子が気になってはいたが、

声をかけることなく、営業部に戻った。





「それじゃ、お疲れ」

「お疲れ様です」


1月も数日が経ち、そろそろ年賀気分が抜け始めた日、栞は仕事を終え、

自転車で駅に向かった。

今日は、多田と会う日。

朱音にも良牙にも宣言し、この日を迎えた。

もしかしたら日付が近くなると、また、気持ちが揺れるのではないかと思ったが、

驚くほどに冷静な毎日を過ごすことが出来た。

栞は、朱音から、多田は別の女性にも同じような声をかけていることを聞き、

その時は少し反論したものの、

本当は、その頃から気持ちが変わってきたのかもしれないと考えた。

仕事を終え、多田と会う日はいつも、早く行きたいと思う気持ちと、

誰かに見られたくないという正反対の気持ちが交差していた。

栞は、自転車を駐輪場に停めながら、半年くらい前の出来事を思い返す。

目の前の踏切が音を鳴らし始めたので、少し急ぎ足で駅に向かい、

予定よりも早い電車に乗ることが出来た。


【17-3】



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